小野不由美 11


魔性の子


2001/09/29

 本作は十二国記シリーズに先立って刊行されたが、当時既に小野不由美さんは十二国記シリーズの構想を練り上げていたと思われる。

 単独作品として読めないこともないが、『風の海 迷宮の岸』と『黄昏の岸 暁の天』の二作を読んでおいた方がわかりやすい。しかし、それは本作の結末を事前に知ることでもある。あなたが十二国記シリーズを未読ならば、まっさらな状態で本作を読んだ方がその後の楽しみが増すかもしれない。

 教育実習生として母校に戻ってきた広瀬は、教室で孤立している不思議な生徒、高里を知る。彼をいじめた者は「報復」と言うべき不慮の事故に見舞われる。「高里は祟る」と恐れられていた。そんな彼を、広瀬はかばおうとするのだが…。

 誰かが高里にちょっかいを出す。最初は怪我で済んでいた。やがて死人が出る。糾弾の声。それに対する報復。さらなる迫害。さらなる報復。迫害、報復、迫害、報復…。爆発的に規模は拡大していく。

 現実との乖離を描くのがファンタジーというもの。それにしても、このエスカレートぶりと凄惨さはどうだ。多すぎる死者。無残すぎる死に様。ここまでするか? するのだ。理由はただ一言、本作は紛うことなき十二国記シリーズの一作なのだから。人間界を舞台にしながら、十二国記の世界のルールが最優先される。そして悲劇は起きた。

 人間界は汚い。一方、十二国記の世界も同じくらい汚い。どちらの世界に生きようと、辛さに変わりはない。しかし、生きるべき世界は厳然と定められている。望むと望まざるとに関わらずだ。答えは最初から決まっていた。

 こちらの世界とあちらの世界が交われば、決してただでは済まない。その最も不幸な結果が、ここにある。高里の、そして広瀬の、彷徨える魂をどうか救いたまえ。



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