小野不由美 18


東の海神 西の滄海


2001/08/23

 十二国記シリーズ第三弾は、『月の影 影の海』より時代がはるかにさかのぼる。舞台は雁(えん)国。『月の影 影の海』では、雁国は豊かな国として描かれ、延王・尚隆による統治は既に五百年に及んでいた。

 しかし、そんな雁国とて最初から豊かだったわけではない。先代王による圧政の傷跡が残る、五百年前の雁国。復興に励む延王・尚隆と延麒・六太。

 本作では、前作『風の海 迷宮の岸』以上にあってはいけないことが起こる。何と何と、延麒を人質として捕え謀反を起こす者がいるとは。理由はどうあれ、十二国記の世界観を唾棄する大罪だ。そんな争乱の中でこそ際立つ、玉座の重み。矛盾しているようだが、本作のテーマはこの一点にある。玉座の真の重みとは何ぞや。

 延麒を捕えられたという状況下、延王はいかにして事態の収拾に乗り出すか。延麒があまりにもお人好し(?)という見方をする人もいるかもしれないが、それは争いや殺生を忌み嫌う麒麟の本質故のこと。謀反の首謀者は、そこに付け込んだのだ。延麒と延王は一蓮托生。延王の真価が問われる展開に、目が離せない。

 やはり、延王・尚隆の魅力に触れないわけにはいかないだろう。本作は尚隆の魅力に尽きると言い切ってもいい。下士官たちを嘆かせる放蕩ぶりは、仮の姿。その本質は聡明さと懐の深さにある。口では罵倒する下士官たちも、本当は承知しているのだろう。これぞ王の中の王ではないか。延麒・六太の天啓は、正に天啓だったのだ。

 尚隆も六太も蓬莱国で育ったという背景が注目される。どうやら戦国時代と察せられる当時の蓬莱国。詳しくは書かないが、尚隆の王としての資質は、六太の麒麟としての資質は、ここで形成されたのだ。

 そして、すっかり豊かになった雁国。ただし、ただ一つの気掛りを除いて。五百年の長きを経て、延王・尚隆のあの約束は、まだ果たされていないようだ。しかし、この男なら必ず約束を果たす。いつかきっと。



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