小野不由美 23


黒祠の島


2013/06/03

 本作を読むのは二度目だが、実は一度目は途中で投げ出してしまった。さほど長い作品でもないのに、今回も時間がかかった。

 小野不由美作品として唯一、本格ミステリに分類される作品と思われるが、往年の横溝正史作品を彷彿とさせる、今どき珍しい設定である。本作は同じく閉鎖的な舞台を持つ『屍鬼』の次に刊行されたが、超大作『屍鬼』よりしんどい作品だった。

 舞台は九州某所にあるという夜叉島。古い因習が残るこの島は、明治政府に国家神道から外れた「黒祠の島」と見なされ、現在に至る。式部剛は失踪したパートナーを追って夜叉島に辿り着くが、島民はよそ者が嗅ぎ回ることを快く思わない。

 写真を見せても皆知らないと言い、調査はいきなり行き詰まるが、やがて嵐の夜に女性の全裸死体が発見されていたことを知る。夜叉島は神領家の強い影響下にあった。式部でなくても、現代日本でそんな馬鹿なと思うが、警察には届けていないという。

 神領家の複雑怪奇な血縁関係と、何よりも血を守ることが優先される神領家の価値観が、読みどころであると同時にネックでもある。後から後から聞いてねえよという情報が出てきて、二転三転。神領家そのものが突っ込みどころなのだ。

 序盤はあんなに素っ気なかった島民たちが急に協力的になるのに苦笑する。色々溜め込んでいたのだろうか。妨害らしい妨害もなく、緊張感には欠ける。もはや我が物顔で島を歩く式部。神領家がなぜ島から摘み出そうとしなかったのか解せない。

 ホラーであり、はるかに長い『屍鬼』の方が、どうして圧倒的に面白かったのか。理由は明らか。感情移入し、感情を揺さぶられたからに他ならない。『東亰異聞』もそうだったが、探偵役の式部を始め、感情がない人物ばかりなのは苦しい。

 と、批判的なことばかり書いたが、中盤以降はスピード感が増し、リーダビリティもそれなりに高い。『屍鬼』と同様に、乗ってきたと思った。あそこに至るまでは…。小野不由美さんが持つホラーやファンタジーの資質を生かせなかったのは残念だった。



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