乙一 07


死にぞこないの青


2001/10/28

 えっ、これで終わりか? 読み終えた後の正直な感想だ。

 読み始めてすぐに、すげぇ嫌な展開になる。一言で言ってしまえば、いじめ。作り物のお話とわかっていても、胸がむかついてくるんだよなあ。実際にあり得そうなだけに。羽田先生は、先生の風上にも置けねぇひでぇ野郎だ。この描写はちょっとやりすぎと思うが。

 乙一氏の実力を買っているから、いじめという安易なテーマには苦言を呈したい。どんなに傑作と名高い作品でも、いじめや幼児虐待がテーマだったら僕はそれだけで読む気力が失せる。極論だが、悲惨さを盛り上げる道具としか思えないからだ。などと書きつつ、どろどろした作品も結構読んでいるんだけどね。

 とにかく、これまでに読んだ乙一氏の作品と比較すると、異例と思えるくらいどろどろした話だ。これは目も当てられない凄惨な結末が期待できそうだ、と思いながら渋々読み進んだのだが…何だか丸く収まっていて、気が抜けた。

 もっとも、最初から最後まで悲惨にしてしまうと、乙一氏の良さが出ないかもしれない。彼の作品の根底に流れる優しさは、彼の美点だと思う。それが成功を生んだのが『天帝妖狐』であり、『石ノ目』である。そして、ケチばかりつけるのは僕の欠点だ。僕の言うことなんぞ大きなお世話に違いない。

 だが、それでも言おう。どうせやるなら徹底して悲惨さの限りを尽くせ。半端な優しさなら無用。その若さで無難にまとめようなんて考えるな。自らの可能性を狭めるな。

 色々な点で、乙一氏は作家として岐路に立っている気がする。ホラー界の若き俊英という話題性だけでは売れなくなる日がきっとくる。本作が殻を破るきっかけになることを願いたい。そろそろ本気で怖がらせてほしい。



乙一著作リストに戻る