Overseas Ellery Queen

ギリシア棺の謎

The Greek Coffin Mystery

2006/11/02

 本作は国名シリーズとして4番目に刊行されたが、事件は『ローマ帽子の謎』よりも前、エラリーが大学を卒業して間もなく発生したという設定である。エラリーが非公式な捜査官として信頼を得るのはまだ先のことで、いわば駆け出しである。

 そんな本作の興味深い点は、若かりしエラリーの失敗を描いていることにある。本格ミステリのお約束として、犠牲者が増えても名探偵は間違った推理はしないものだ。ところが、得意満面に披露した最初の推理を、エラリーは最悪の形で打ち砕かれるのだった。たとえ間違いでも、ここまで論理を組み立てられるのは大したものだが…。

 この失敗を教訓に、エラリーは「その犯罪のあらゆる要素を一つ残らずつなぎ合わせ、あらゆる曖昧な点が最後の一つまで説明できるまでは、決して解答を持ち出さない」ことを固く誓ったのだった。なるほど、あの頑なさの理由はこれかと納得した。しかし、その頑なさのおかげで『オランダ靴の謎』では第二の殺人が起きてしまったわけで…。

 最初の失敗の後も二転、三転、四転してようやく真実に至るため、シリーズ中はもちろん、エラリー・クイーンの作品中でも最長である。エラリーの「引用癖」は若気の至りとしても、読み通すのはしんどい。これまで読んだ中で最も冗長に感じた。

 事件解決の大きな鍵となったのは、現代ではお目にかかることがないある道具。〇ー〇〇でさえ消滅しているのだ。時代を考えればピンとこないのはやむなしとしても、根拠として弱い気がするのだが。先の3作ほど論理に鋭さがないように思う。

 とはいえ、今では定番となっている様々なミスディレクションの手法が、この当時すでに確立されていたことに注目したい。通常、ミスディレクションとは作者が読者を引っかけるものだが、探偵役のエラリー自身も真犯人のミスディレクションに引っかかるという構成に、やはりエラリー・クイーンがこのジャンルの先駆者であったことを実感させられる。

 本作を読むなら、最初に読まずに是非刊行順に読もう。



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