Overseas Sir Arthur Conan Doyle

シャーロック・ホームズの冒険

The Adventures of Sherlock Holmes

2006/05/29

 シャーロック・ホームズに出会ったのは小学校高学年くらいだったと思う。たまたま実家にあった児童文学全集か何かに、『シャーロック・ホームズの冒険』が含まれていた。全集の中で僕が読んだのはその一冊だけだ。高校時代に、新潮文庫版で読み漁る。以後、社会人になるまで読書をしなかった僕が、唯一夢中にさせられたシリーズである。

 シャーロック・ホームズの物語には短編56本と長編4本があるが、ぶっちゃけた話、そのすべてが傑作というわけではない。それでも時代を超えて読み継がれているのは、シャーロック・ホームズが今なお名探偵の象徴であり続けているのはなぜだろう。僕には到底説明できないが、ホームズ本人の魅力もさることながら、よきパートナーであるワトスン博士の存在も一因ではないだろうか。ワトスン博士もまた、探偵の相方の象徴である。

 最初から売れたわけではなく、第一作である長編『緋色の研究』は各出版社に断られた。翌年日の目を見たものの、さして注目されることもなかった。第二長編『四人の署名』への反応も同様であった。しかし、ある編集者がこれに注目していた。

 「ストランド・マガジン」の編集者ジョージ・ニウンズの依頼により、1891年7月号から1892年6月号まで短編12編が発表され、これが読者の熱狂的な歓迎を受ける。その12編をまとめたのが、第一短編集『シャーロック・ホームズの冒険』である。シャーロック・ホームズの物語を読み始めるなら、迷わず本作にするのをお薦めしたい。

 以下、各編に簡単に触れておく。

ボヘミアの醜聞 ―― A Scandal in Bohemia 1891.7

 女性嫌いで生涯独身を通したというシャーロック・ホームズが、ただ一人一目置く女性。その理由とは…。記念すべき一編目がこういうエピソードとは心憎い。

赤髪連盟 ―― The Red-Headed League 1891.8

 どうして条件が赤髪でなければいけないのか。犯罪計画に至る展開の意外性もさることながら、赤髪と結びつける発想に脱帽。有名なエピソードの一つ。

花婿の正体 ―― A Case of Identity 1891.9

 これはちょっと苦しいか…。ネタが枯れた現在でもなかなかやる作家はいないだろう。

ボスコム渓谷の惨劇 ―― The Boscombe Valley Mystery 1891.10

 シャーロック・ホームズの探偵哲学を端的に表す一編か。ばれたら大変だが…。事件の背景といい、短編に収めるには盛りだくさんな内容。

五個のオレンジの種 ―― The Five Orange Pips 1891.11

 現在でも生き長らえているという実在の団体が登場するが、ドイルは発表当時脅迫を受けたりはしなかったのだろうか? すっきりしない終わり方。

唇のねじれた男 ―― The Man with Twisted Lips 1891.12

 今読んでみると、投資ブームの熱に浮かされた現代社会への警鐘のようにも思えたり。人間、楽を覚えてしまうと…。これも有名なエピソードの一つ。

青い紅玉 ―― The Blue Carbunkle 1892.1

 シャーロック・ホームズの聡明さと対照的な、犯人の間抜けっぷりに苦笑。

まだらの紐 ―― The Speckled Band 1892.2

 シャーロック・ホームズの短編全56編中の最高傑作にして、最も有名な一編ではないだろうか。緊張感が見事。現代の推理短編で、これに匹敵するものはあるか?

技師の親指 ―― The Engineer's Thumb 1892.3

 推理よりも何よりも、技師が体験した恐怖のシチュエーションがすごい。親指だけで済んだのは、不幸中の幸いと言うべきか。

独身の貴族 ―― The Noble Bachelor 1892.4

 セント・サイモン卿があまりにもお気の毒…。それだけ。

緑柱石宝冠事件 ―― The Beryl Coronet 1892.5

 無事戻ってきてめでたしめでたし…なわけがないだろう。いいのかそれで?

ぶなの木立ち ―― The Copper Beeches 1892.6

 邦題は「ぶな屋敷」の方が有名か。謎の部屋に危ない主人。これぞ「館」ものの走りだ(嘘)。しかし、推理を披露する場がないじゃないか。

★印の作品を除き、原題には"The Adventure of..."が付く。
邦題は創元推理文庫版による。



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