瀬名秀明 03 | ||
小説と科学 |
文理を超えて創造する |
シリーズ「岩波 高校生セミナー」は、岩波書店が各界から講師を招いて夏休みに開催している、高校生を対象にしたセミナーを本にまとまたものである。瀬名秀明さんが講師である本書は、高校生向けとはいえ成人読者が読んでも十分に面白い。
1限目は、『パラサイト・イヴ』のモチーフとなったミトコンドリアの話から始まる。学問の本当の面白さは教科書に書かれていない部分にある、との言葉には納得。一般読者が最も興味を惹かれるのは、『パラサイト・イヴ』と『BRAIN VALLEY』に触れた後半だろう。批判も含めて冷静に反響を分析しているのには驚く。
2限目は、「文系」と「理系」について、参加者のアンケート結果を踏まえて話している。サブタイトルに関わってくる話だ。「文系」「理系」という枠に囚われすぎという指摘は耳が痛い。僕自身、電機メーカに勤務していて思うのだが、技術者が「技術バカ」になりがちなのは確か。技術部門も営業部門も、あまりにも相互理解が足りない。
3限目は、作家らしく小説の書き方に関する話。前半は色々な指南書を引用しながら話している。指南書の類が好きではない僕としては、もっと瀬名さんご自身の見解に時間を(ページを)割いてほしかったかな。後半の『BRAIN VALLEY』に関連するオカルト研究の話は面白い。ある意味でお手軽な題材だけに、調べることが重要との言葉が俄然説得力を持つ。なるほど、時間がかかるわけである。
本書を読んで思ったことは、瀬名秀明という作家が真摯すぎるくらい真摯だということだ。何を書いても批判したり揚げ足をとったりする人は必ずいる。かく言う僕だってその一人。瀬名さんは、そうした声を流すことなくすべて塞き止めてしまう。研究者としては当然のことでも、作家としては損な性格かもしれない。
なかなか見つけにくい本だと思うが、瀬名さんのファンなら是非手に取ってほしい一冊だ。これからも、納得がいくまでとことん突き詰めてほしい。僕は一読者として気長に待つとしよう。