真保裕一 04 | ||
盗聴 |
本作は、真保さんの初の短編集である。収録された5編の内容は、実にバラエティーに富んでいる。長編作品に慣れ親しんだ方なら、真保さんの意外な一面を発見できるかもしれない。
本作の文庫版解説で、結城信孝氏は以下のように書いている。取材に頼る比重の少ない小説を書くようになった場合、どれだけ想像力を発揮できるかが今後の課題になってくる、と。ずいぶんと失礼な言い方じゃないか? 想像力なくして、『取引』や『震源』が書けたはずがない。
「再会」は、実に興味深い。真保さんは、デビュー前の憧れの作家は東野さんであると公言しており、個人的にも親交が深いようだ。本作には、東野さんの作風に通じるものを強く感じる。もちろん真似ではないだろうけど、意識はしたかもしれない。
「漏水」とラストの「私に向かない職業」は、ユーモラスさが光る好編である。特に後者は傑作だ。真保さんにはこんなユーモアのセンスもあったのかと、驚くと同時に苦笑が漏れることだろう。どちらも決して笑える話ではないはずなのだが、このブラックな味わいにはお手上げである。
以上3編は優れた短編作品である。残りの2編、表題作「盗聴」と「タンデム」は、面白いけれど長編向きの作品のような気がする。特に「盗聴」は、原作を映像化するためにあちこちカットした脚本のような印象を受ける。書き足りない面が目立つし、ちょっともったいない。長編にアレンジする予定はないのかな。
短編集として見ると、まとまりには欠けるだろう。しかし、読んでおいて損はない。