真保裕一 05


ホワイトアウト


2000/06/30

 本作は、真保さんの人気を決定付けることになった冒険小説だ。「小役人」シリーズと称されたそれまでの作品群は、異色の設定が魅力ではあったのだが、少々わかりにくく、一般読者へのアピールが弱かったかもしれない。しかし、本作は単純明快な正義の物語である。

 本作は、東野圭吾さんの『天空の蜂』と吉川英治文学新人賞を争った作品だが、栄冠を射止めたのは本作だった。『天空の蜂』との相違点を挙げるとすれば、「善」と「悪」という構図を明確にしていることだろう。どちらもそれぞれの面白さがあるのだが。

 舞台は、日本最大の貯水量を誇るダム。雪深い二月のある日、ダムは武装グループに占拠された。彼らは、職員とふもとの住人を人質に、50億円を要求してきた。24時間後には、ふもとの町は水没してしまう。

 まず、ダムという舞台設定には拍手を送りたい。水源として電力源として日々の暮らしを支えているのに、普段はその存在を意識することはないダムが、人間にとって脅威となり得るとはまず考えないだろう。そして、季節は真冬。「白い闇」と、ダム。日本を舞台にした冒険小説としては、これ以上ない最強の組み合わせだろう。

 一人敢然と敵に立ち向かう、主人公の富樫輝男。彼はかつて、自己の過失により同僚を亡くしていた。人質の中には、亡き友の婚約者が含まれていたのだ。真保作品の中でも、これほど背景がわかりやすい主人公はいないだろう。それ故に、読者は感情移入しやすい。そういう点で、『天空の蜂』は弱かったのか。

 富樫がいかにして困難に挑むのか。これはもう読んでくれとしか言えない。富樫が関門を一つ突破する度に、僕は心の中で快哉を叫んだ。しかし、ラストに至ると、友を亡くした富樫にとってあまりにも酷な真相が待ち受けている。

 なお、本作は真保さん自ら脚本を担当して映画化され、季節外れの8月19日より公開予定である。さて、どうなるか…。 → ※映画の感想はこちらへ。ネタに触れます。



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