殊能将之 02


美濃牛


2001/03/05

 『ハサミ男』に続く殊能さんの第二弾を、待ち望んでいた読者は多かっただろう。もちろん、『ハサミ男』のような作品を。結論から言って、趣きはがらりと変わっている。残念に思った人と、期待に違わぬ傑作だと思った人と、どちらが多かっただろう。

 凝りに凝っただけあって、読み応えのある作品に仕上がっている。ただし、この長さに膨れ上がってしまったのは、良くも悪くも趣味に走った結果だろうとも思う。各節の冒頭を始めとする、引用文献の多さ。カバー折り返しの著者のことばは、謙遜以外の何ものでもない。どこが不勉強なものか。

 前作『ハサミ男』でもその片鱗が感じられたのだが、殊能さんの博識ぶりが半端ではないことは確かである。こういうのを衒学(げんがく)趣味って言うんだっけ。京極夏彦さんのファンなら、好意的に受け止める人が多いかもしれない。

 面白かったとは思う。無駄にうんちくを並べ立てたわけではなく、ちゃんと伏線にはなっている。しかし、いざ説明されると、あっそう…くらいにしか思えないのが正直なところ。ハサミ男が精魂込めて研ぎ上げたハサミのような、鋭さはない。

 評価したい気持ちも強いんだけどなあ…。本作は、横溝正史が、名探偵が活躍していた古き良き時代の本格ミステリーなんじゃないかな。後世にこそ高く評価される作品のような気がする。それとも、時代に乗り遅れているのは僕の方なのか。

 事件そのものは合理的に解明されるが、残された謎も多い。本作の探偵役である石動(いするぎ)戯作は、最新作『黒い仏』の探偵役でもあるようだが…。

 本作には、初版としては珍しく解説が掲載されている。殊能さんの謎めいた経歴が少しだけ明かされるのは興味深いが、この解説を書いているあなたは…一体何者? 最後の最後まで謎だらけである。



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