殊能将之 03


黒い仏


2001/03/07

 …ううむ。これは『美濃牛』以上に戸惑った読者が多かったのでは。『美濃牛』よりずっと短いが、ずっと趣味に走っている。

 「ディダクティヴ・ディレクター」から「名探偵」に肩書きを変えた石動戯作が、「探偵」として仕事を依頼される。石動は、助手の徐彬(アントニオ)と共に福岡県のある寺に赴く。一方、福岡市内のアパートで、身元不明の絞殺死体が発見されていた…。

 ご自身のホームページ内で、殊能さん自ら本作のネタばらしをしている。読了後にご覧くださいと書いてあるが、僕には読んでも(まともに読んでいないが)じぇーんじぇんわかりましぇーん。先に読んだところで、ほとんどの読者には影響はないだろう。中には出典名からピンとくる方もいるのだろうけど。

 真面目なのかふざけているのかよくわからない取材日記だけは面白い。なるほど、取材の成果は活かされている。あるダイエーネタには笑わせてもらった。しかし、本作中最も面白かった箇所がこれとは…。講談社から取材費は下りたのだろうか?

 で、この結末はどうよ。ある種の究極形態ではある。しかし、どうせ壊れるならもっと徹底して壊すべきだろう。すべての読者を敵に回すくらいの心意気で。綾辻行人さんくらいのストイックさで。このネタを使うにしては、作り込みが中途半端じゃないか。

 殊能さんはこのような作品を書きたいがために、まず『ハサミ男』という一般受けする作品を書いたのではないか…と深読みしてしまう。本作でメフィスト賞はまず受賞できなかっただろう。『ハサミ男』が高い評価を受け、続く『美濃牛』もそれなりに話題となったからこそ、本作のようなお遊び的な作品を出すことが許されたのではないか。

 しかし、この手のネタは最初で最後だろうな。次のネタは確保してあるのだろうか。ますます殊能さんという作家がわからなくなってきた…。



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