鈴木光司 14


シーズ ザ デイ


2001/04/15

 長編としては約三年ぶり、小説の単行本としても二年ぶりの新刊は、横浜からフィジーまでをヨットで横断するという海洋冒険小説である。

 タイトルの『シーズ ザ デイ』は、英語で表記すれば"Seize the day"となる。その手で明日をつかめ、といった意味だろうか。本作における一貫したテーマである。

 『光射す海』でも感じたのだが、海の描写は文句なしにうまい。『光射す海』では、海を主に恐怖の対象として描いていたのだが、本作ではより多彩な海の表情を描いている。とはいえ、海はあくまでモチーフに過ぎない。本作は、傷ついた人間たちの再生を描いた物語である。

 本作の主人公である船越には、16年前、南太平洋フィジー沖をヨットで航行中に沈没事故に遭遇するという暗い過去があった。そして現在、彼はヨットのオーナーになるというチャンスをつかんだ。紆余曲折を経て、彼は再びパートナーと共にフィジーへと向かうことになる。自身の過去を振り払うために…。

 事故に至る経緯は、船越の現在と絡んで作中で徐々に明かされる。あるインタビューで、ミステリーではないので「このミス」には投票しないように、と語ったそうだが、このもったいぶった書き方は立派にミステリーですぜ。パートナーが誰かということも含めて、何を書いてもネタばれになりそうで困ってしまう。

 最後には、船越自身も読者と一緒に真相を知ることになるのだから、周到なことこの上ない。ネタに触れない程度に書くとすれば、運命は引き継がれるというところか。ストーリーテリングが一級品であるだけに、最初から最後まであまりにも見事な符合ぶりに少々突っ込みたくもなる。うーむ、このエンディングは読めなかったな。

 ファンはもちろんだが、鈴木光司さんご本人にとっても待望の新刊だったと思う。今年は本作の他にも新刊が予定されているようだ。本作が、作家鈴木光司にとっても新たな出発点となることを願って。



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