鈴木光司 16


エール


2001/10/08

 『シーズ ザ デイ』に続いて早くも刊行された鈴木光司さんの新作長編だが、これは見事に外してくれましたね。

 「既婚の女性編集者と、若き格闘家の運命の恋」と帯には書かれている。いかにも鈴木光司さんらしい題材に、QUEENの"We Are the Champions"がBGMに似合うような臭い話を想像しつつ読み始めたのだが…。

 実際、途中までは臭い。破局を経験した格闘家一馬と、離婚に傾いている編集者の靖子。心に傷を抱えた二人が惹かれ合う。フジテレビの月曜9時枠にでもありがちな、お定まりの恋愛ドラマ…だった、結末に至るまでは。

 途中に関して特に言うことはないが、この結末は何だ。某有名格闘技漫画のたちの悪いパロディとしか思えないぞ。電車の中で一瞬呆気にとられてしまった後、沸々と怒りが込み上げてきた。これはブラックジョークなんだ、きっとそうに違いない。そうでも思わなきゃ気分が収まらなかった。

 いや、問題は結末じゃないか。僕は恋愛小説ファンじゃないが、まあこういう結末もあり得るんだろう。問題は…シチュエーションだ、シチュエーション! こうじゃなきゃならない必然性は何だ。僕が嫌いな野島伸司でもこんな脚本は書かんだろう。

 「著者初の本格恋愛小説」と銘打たれた本作だが、ご自身がそう言っているのか、それとも徳間書店が勝手に言っているだけなのか。作家として、不慣れな分野に挑戦する気概は必要だとは思うし、その姿勢だけは買いたいが…これでは慣れないことをするもんじゃないというお手本みたいだ。

 どうせだったら恋愛を絡ませずに、汗と血にまみれた若き格闘家の成長記にした方が良かったんじゃないか。その方がよっぽど鈴木さんらしい気がする。



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