鈴木光司 24


鋼鉄の叫び


2010/11/15

 前作『エッジ』から2年足らずと、鈴木光司さんにしては比較的早い新刊である。意欲が空回りした前作同様、今回も突っ込み甲斐のある力作に仕上がっている。

 テレビディレクターの雪島忠信は、特攻隊に関する大型企画を温めていた。出撃後、自らの意思で任務を離れ、生き残る道を選んだという人物を追う忠信。戦後世代の忠信がこの企画にこだわる背景には、父が語った戦時中の体験談が影響していた。

 時代はバブル崩壊直後の日本。なぜこの時期に特攻隊か? 特攻とバブルの狂騒。集団に流される日本人にとって、忠信が追う人物の生き様は、今後の道標になるのではないか…と訴えるのだが、こじつけな感は否めない。忠信の主張には鈴木さんご自身の思想が多分に反映されているのだろうが、何だか見下ろされている気がする。

 思い切った設定ではある。忠信の父とその人物との関わりなど、出来すぎではあるが、それ故に忠信は執念を燃やす。しかし、関係者の口は重い。当然ながら、公式には自ら離脱した者などおらず、出撃すれば例外なく死んだことになっているのだ。

 ようやく忠信が行き着いた真相は…うーむ、これが本当だったら大騒ぎだろうけども。実に鈴木さんらしい。これだけの発想の飛躍ができるのは大したものだと思う。リーダビリティも高く、『エッジ』よりは一般読者にも受けるだろう。だがしかし…。

 忠信の不倫の話を絡める必要性があるのか? 忠信は独身だが、仙台勤務時代に知り合った倉沢菜都子には夫と娘がいる。理由をつけては不倫旅行に出かける2人。菜都子の夫の雄幸は世を拗ねた困ったちゃんだが、さすがに同情するよ。忠信に特攻隊を語ってほしくはない。大体、本作は2人の情事のシーンから始まる。ふざけすぎだ。

 一仕事終えた忠信は、不倫関係にも決着をつけようとする。雄幸が投げたカードに対する忠信の決断は、なるほど意外ではあったが、特攻隊員の極限の決断と同列に語るのはいかがなものか。忠信自身が、同列には語れないことを自覚しているけども。

 作家デビュー20周年。得がたい人材には違いない。当分は追いかけるとしよう。



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