若竹七海 14


遺品


2009/01/18

 角川ホラー文庫は、鈴木光司さんの『リング』シリーズ、瀬名秀明さんの『パラサイト・イヴ』(現在は新潮文庫)以外読んだことがなかった。本作は若竹七海作品にして、実に久しぶりに読んだ角川ホラー文庫の作品ということになる。

 ホラー作品を読む度に思うのだが、小説にとってホラーほど映像に対して分が悪いジャンルはない。例えば、血を描写するのにどれだけ微に入り細を穿った表現をしようと、一瞬の血の映像には敵わない。そこをいかに読者に映像的にイメージさせるかの勝負。『リング』や『パラサイト・イヴ』は、そういう点で健闘していたとは思う。

 葉崎の美術館で3年間働いていた「わたし」は、大学時代の先輩・大林孝雄からの依頼を受ける。孝雄の祖父・一郎が、金沢市郊外の銀麟荘ホテルに残した、今は亡き女優・曾根繭子にまつわる某大なコレクションを整理して、一般公開できる形にしたいという。

 作中で名も明かされない「わたし」の負けん気の強さは、探偵葉村晶を彷彿とさせる。そんな「わたし」も絶句するコレクションの数々。繭子の使った割り箸、下着、ティッシュ……。本作で最も怖いのは大林一郎の偏執狂ぶりかもしれない。

 助手のタケルを得て、資料整理に没頭する「わたし」の周りで怪奇現象が続発する! …のだが、半分くらいまでは大した事件も起きず、やや退屈な展開である。中盤を過ぎ、「わたし」とタケルが意図を徐々に理解し出すと、思い出したように次々と事件が起きる。ホラーというよりパニックもののようで、怖いと感じるより苦笑した。

 ミステリー畑の若竹七海さんらしく、終盤には悪趣味な仕掛けが用意されている。しかし、何だかすっきりしない終わり方。どうして書き下ろしホラーの依頼が来たのかわからないが、若竹さんらしい切れ味が、残念ながら本作には感じられなかった。

 本作もまた、映像との争いには勝てなかった。次にホラーを読むのはいつか。



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