山口雅也 02


キッド・ピストルズの冒涜


2000/08/10

 タイトル中の「涜」という字は、正確には正字体で表記する(JavaScriptで別ウィンドウが開きます。15秒後に閉じます)。

 山口さん曰く、本作は世界で初のマザーグース・ミステリの連作シリーズとのことである。マザーグースとは英国の古い伝承童謡だ。講談社文庫のしおりに書いてあるあれである。ついでに、舞台となるのは「パラレル英国」。詳しくは巻頭に述べられているが…とにかく我々の住んでいる世界の「英国」とは違うのだそうだ。

 正直なところ、マザーグース云々はこじつけとしか思えない。日本人には「ロンドン橋落ちた」くらいしか馴染みがない外国の童謡をわざわざ持ち出した理由は何か。「パラレル英国」にしても、本筋には関係がない。そんなことはどうでもいい。本作は文句なしに面白い本格ミステリーなのだから。

 まず、キャラクターの魅力に注目したい。主人公であるキッド・ピストルズと、パートナーのピンク・ベラドンナ。このパンクルックに身を包んだ男女は、れっきとしたスコットランド・ヤードの刑事である。見かけによらない、キッドの優しさ、正義感、聡明な頭脳。一方のピンクは事件解決にはさっぱり貢献しないが、憎めない奴である。

 4編の収録作品の中でも、後半の2編「曲がった犯罪」、「パンキー・レゲエ殺人(マーダー)」が面白いが、特に興味深いのは後者である。レゲエはパンクと同様に極めて選民性が強い音楽だ。異端児を自認しているキッドだからこそ、バスターの気持ちが理解できたし、事件を解決できたのだろう。商業的成功のみが求められる現代の音楽界の有様を見るにつけ、彼らの生き方は実に潔く、清々しくさえ感じる。

 山口さんには申し訳ないが、これはキャラクターの勝利だろう。このシリーズは4作が刊行されているが、キッドとピンクのモデルは、『生きる屍の死』に登場したグリンとチェシャなのかな?



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