山口雅也 09


垂里冴子のお見合いと推理


2000/05/14

 山口さんとしては、比較的ひねりを抑えた作品である。しかし、やはり質は高い。

 本作の主人公は、垂里家の長女である垂里冴子33歳。黄八丈を好んで身に着ける純和風美人。彼女に縁談が持ち込まれる度に、なぜか事件が発生する。そして冴子の縁談はいつも流れてしまうのだった。本作は、彼女の縁談に絡む4つの事件を収録している。

 冴子はその華麗な推理を駆使して、事件の謎を解決する。しかし、冴子が事件を解決することは、冴子の縁談が流れることを意味する。何と皮肉なことか…。お約束通り、冴子の縁談はいずれも流れてしまうのだが、当の冴子は至って自然体だ。悲壮感もなければ、お見合い相手を気遣う優しささえ見せる。あくまで自然体な冴子と、そんな冴子に気を揉む家族たち。彼らが織り成す物語は、どことなく微笑ましい。

 そんな中で最も印象に残ったのは、本作のラストを飾る「冬の章 冴子の運命」である。冴子とお見合い相手の作家は、お互いに好印象を抱いていた。しかし、やはり縁談はまとまらない。冴子は誰にも嘘をつけないから。そして自分に嘘をつけないから。冴子が素敵な女性であるだけに、何とも切ない。

 それにしても、「戦」と書いて「〇〇〇〇」と読む姓があるのは驚いた。何と読むのかは、本作をご覧いただきたい。

 ところで、冴子はあるミステリー・ファンの人気投票で、好きな女性探偵部門第2位に選ばれている。ちなみに第1位は、北村薫さんの「覆面作家」シリーズに登場する、新妻千秋嬢だそうである。僕個人としては、両者引き分けか。

 なお、本作の続編『続・垂里冴子のお見合いと推理』も刊行されている。



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