山口雅也 23 | ||
キッド・ピストルズの醜態 |
前作『キッド・ピストルズの最低の帰還』から2年。待望の復活からさほど間を置かず、シリーズ最新作が届けられた。山口雅也さんが、この愛すべき…いや、唾棄すべき(?)シリーズを、ライフワークとして長く続ける決意が伝わってくる。
今回収録された3つの事件は、いずれも難題である。裁判員制度の下で裁くとすれば、裁判員はもちろん、検察側も弁護側も、そして判事も大いに悩むだろうなあ。どう難題なのかを書くことはできないが、耳に挟んだことくらいはある事例かもしれない。
「だらしない男の密室」。恒例の巻頭歌の、およそ童謡とは思えない歌詞がすごいが、この歌詞通りのバラバラ殺人にして、密室殺人。実は、キッド・シリーズでここまで猟奇的な事件は異例。どう考えても不可能な状況に、キッドが出した答えは…。うーむ、珍しい事例ではあるけれども、この手を使ったら何でもありじゃないか?
「《革服の男》が多過ぎる」。かつてロンドンを、いや世界中を震撼させた連続皮剥ぎ殺人。犯人は逮捕され、収監中なのだが、模倣犯が現れた? これまた猟奇的事件。本格には御馴染みの罠が仕掛けられているが、そこは手練の山口雅也、容易には感づかせないし、ちゃんと意外性を感じる作りになっている。本作の一押し。
「三人の災厄の息子の冒険」。「だらしない男の密室」以上に、えぇぇぇぇぇ、それじゃ何でもありじゃないかよぉぉぉぉぉ…と言いたくなるオチ。こういう実験的な作風は山口さんの持ち味でもあり、完全否定する気はないけれど、キッド・シリーズでやらなくても…。
3編とも、実際に知られた事例をネタにしているとはいえ、本格としてフェアかどうかはかなり微妙である。それでも受け入れる気になったのは、キッド・シリーズの世界だからという点が大きい。他の作家がやったら袋叩きにされかねないネタが許せてしまう、キッド・シリーズの懐の深さを示す作品集と言えるだろう。
とはいえ、キッド・シリーズの最初に読む1冊としてはお薦めできない。