山口雅也 24


狩場最悪の航海記


2010/10/08

 『ガリヴァー旅行記』幻の続編なのだとか。山口雅也さんの新刊は、純然たる冒険譚である。何か仕掛けがあるに違いないと思いながら読み進めたのだが…うーむ、最初から最後まで冒険譚であった。ミステリーの要素がまったくないこともないのだが。

 1709年、日本に上陸したガリヴァーは、時の将軍徳川綱吉に謁見する。なお、本家『ガリヴァー旅行記』でもガリヴァーは江戸時代の日本を訪れている。綱吉の側用人・狩場蟲斎と知り合ったガリヴァーは、航海への同行を要請される。その目的とは…。

 言うまでもなく、本作が幻の続編だなんて嘘である。しかし、プロローグに【ガリヴァー船長より従兄シンプソンに宛てた第二の書簡】を配したり、各章に編纂者の大学教授による註と解説がついていたり、「それらしい」凝った作りになっている。本家の設定もちゃんと生かしており、全力で遊んでいるのはさすが博識の山口雅也と言える。

 いよいよ出航だが、日本政府がチャーターしたという船はひどい有様であった。当時、船旅はただでさえ命がけ。しかも目的地は、地図にない幻の島…。序盤からトラブル続出の上に海賊に遭遇し、裏切ったり裏切られたりとはちゃめちゃな展開。

 本作が本当に面白くなるのは、幻の島にたどり着いてから。どうやってたどり着いたかは秘密。そこは恐竜が跋扈する恐怖の島であった!!!!! っておいおいおいおい、『ジュラシック・パーク』かよ。日本刀で最強の恐竜ティラノサウルスに挑む狩場。……。

 ようやく謎らしい謎が出てきたと思ったら、思い切り肩透かしを食らう。そうだよねえ、あくまで冒険譚なのだから。ん? そういえばここからどうやって脱出するんだ? ガリヴァーたち一行を助けてくれたのは…。ヒントは某ジブリ作品。

 本作は元々講談社ミステリーランド向けに書き始めたそうだが、本家『ガリヴァー旅行記』の痛烈な諷刺はそもそも子供向けとは言えず、一旦断念。新たに書き上げたのが『ステーションの奥の奥』である。こうして日の目を見ることになったのは喜ばしい。



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