柳 広司 15 | ||
ダブル・ジョーカー |
『ジョーカー・ゲーム』シリーズ第2作が待望の文庫化である。第1作を読んだ後、先に第3作『パラダイス・ロスト』を読んだのだが、そのおかげで驚きが増すことになった。
『ジョーカー・ゲーム』や『パラダイス・ロスト』では、任務中に予期せぬトラブルが発生するというパターンが多く、そこを臨機応変に切り抜けるところにスリルがあった。ところが本作は、何もかもD機関の計算通りという話が多い。と、読み終えるまで思っていた。
「ダブル・ジョーカー」。“D機関”に対抗してもう一つの諜報組織“風機関”が設立される。ある事案を巡り、陸軍上層部は両機関を競わせた。その結果…うーむ、これでは風機関がピエロすぎてあまりに気の毒。もう少し歯応えがあってもよかった。
「蠅の王」。前線の現地部隊を訪れた慰問団。ある男は、裏の意図を察知して警戒していたのだが…。D機関はあまりにも上手であるばかりか、秘密の手段まですっかり暴かれていた。彼が無意識に忘れようとしていた記憶までも…。
「仏印作戦」。電信係としてフランス領インドシナ連邦に派遣された男。ひたすら平文の暗号化、暗号文の平文化を繰り返していたが、知らず知らず陰謀に巻き込まれ…。フランスがナチスドイツに占領された直後という時代背景もうまく生かしている。
「柩」。友好関係にあるナチスドイツと日本だが、最初からそうではなかった。D機関の総帥・結城中佐の現役時代が描かれるが、その精神力、行動力に戦慄する。それから22年後。ナチスドイツでさえ、D機関には歯が立たなかったとは。
D機関のスーパーぶりが鼻につく4編の後、「ブラックバード」。本編もまた、スーパーな活躍をするんだろうなあと思っていたら、その結末は…。ただ1点を除いて、計算通りだった。しかし、その1点が致命的だった。いかにD機関でも、どうにもならないケースがある、とだけ書いておこう。先の4編があってこそ、際立つこの皮肉さ。
第2作『ダブル・ジョーカー』をこんな形で終えたにも関わらず、第3作『パラダイス・ロスト』が刊行された。続編はまだ刊行されると思っていいのだろうか。