恐怖!アメ車タブレット!

「うむう、タブレットがほしい...」

べつに、タブレットなんかなくてもぼくのへたくそな絵はマウスで十分だったのですが、なんというか、見栄でほしくなって、ぼくはマック雑誌の広告を研究しはじめました。

「やっぱりワ−コムでしょ!」

トホホ妖精が、メジャ−なメ−カ−名を口にしました。

「高いからイヤだ。みんなと同じはイヤだ。」

「またそんなことをいって、わざわざマイナ−なものにして泣きを見るんだね。」

「そんなことはない。みんながそうだからって、盲目的にそれにするのはいいことじゃないと思ってるだけだ。」

「会社の女の子と同じものをたのんでもらったのはだれでしたっけ?」

「うるさい!これに決めた!ワ−コムより安くてワ−コムよりでかいタブレット!」

「会社名書いてないよ、これ。あやしい...」

会社帰りに、小雨降るアキバに降り立ち、広告のお店の店頭で、件のタブレットの箱を手に取ってみました。

「ホ、ホラ、会社名書いてある!エヌエスカルコンプだって!」

「聞いたことない名前!あやし〜!」

「オレはブランドなんてものだけのために20000円も余分に払うほど高貴な産まれじゃないんじゃ!みろ!ちゃんと256段階筆圧感知って書いてあるぞ!感知部分面積もワ−コムのより広いから使いやすそうだし。きめた!」

大きな悲劇が起きる前には、何かしら、事前にその、「におい」のようなものが漂うものです。このときのことをこうして思い起こして書いている今、そのことを強く思わずにはいられません。

「わ〜、はこがびしょびしょ。」

「返品効きにくそうだのう。」

衝動的に手に入れた魔の粘土版「NSカルコンプ・ドロ−イングススレ−ト」をクアドラ650につなぎ、ドライバをインスト−ルしてさっそくお絵書きを始めました。

「みろ、会社のワ−コムよりいいや!」

感知部分が大きいので、会社のタブレットよりもかなりいい感じです。調子に乗って意味もないくだらないラクガキを始めました。

「なかなかよいではないか!」

と思ったその時!

「ぐちゃん」

という音こそしなかったものの、画面上のカ−ソルがいきなり停止しました。

「あれれ、飛んだかな?」

マウスを触ると、ちゃんとコンピュ−タは生きています。ソフトもマウスから操作するぶんには正常です。

「じゃあ、タブレットがいっちゃったんだね。」

トホホ妖精がさらりといってくれました。そう思いたくなかったのに!

でも現実はその通り。もうタブレットはウンともスンともいいません。

「箱、ぐちゃぐちゃだから返しにくいね。」

雨の日になんか買い物をするもんじゃありませんね。箱がぐちゃぐちゃになったら返品なんか、気が重い。

「おれは、...タブレットなんか...」

トホホ妖精がけげんそうに見返してきます。

「タブレットなんか、買わなかった!」

「ア〜!現実逃避してる〜!まだ初期不良段階なんだから、ちゃんと返しにいこうよ!」

「あんな溶けた箱で返せるか!店員の不愉快な対応が今からはっきりと予言できるわ!そんな思いをするくらいならなかったことにしたほうがなんぼかましじゃああ!」

「...それでいいならいいけど。...ア、泣いてる!」

そんなわけで、しばらく〜かなりしばらく〜「なかったもの」として、クアドラにつながってはいるものの、まるっきりただのゴミとして無視されていたのでしたが...

「ねえ、電池の接触、みてみたら?」

ある日、未練がましくタブレット用ペンをもてあそんでいたぼくに、妖精が話しかけました。

「...そういえば、そういう原因もあるかも...」

このタブレットのペンはワ−コムのものと違って、ボタン電池で動くというすてきな設計だったのです。電池を取りだして、端子の様子を見、ショ−トかもしれないと思って、二つある系統のうちの片方の側の電池だけを戻して...

「ア、うごいた。」

どうしたことでしょう。何事もなかったかのように作動しています。すいすい。

「くそ!バッテリが片側だけ上がってたのか!」

さっそくボタン電池〔一個500円!)を4個買ってきて入れ替えました。

「ちゃんとうごくよ。ははは...」

そうです。原因は、同梱の電池が、買ってきたときにはもういっちゃってたのでした。

気が付いてみればまことにトホホな原因。でも半年近く気付きませんでした。

「うわ、また動かなくなった!2000円が!」

なかなか燃費の悪いタブレットなので、ぼくはこのタブレットを「アメ車タブレット」と名付け、「何かあったら電池を疑え!」という基本中の基本を教訓として、心に深く刻んだのでした。

「焦って泣いたくせに!」

「うるさい!」

開発コ−ド名「ミンスク」! それからの630 840AV基板
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