子供の頃、公園で拾った銀弾鉄砲がモーゼルHScでした。そう刻印してありました。PPKより先に名前を知ってたかも。結構気に入った銃でした。その後同じものを駄菓子屋さんで買った記憶があります。

子供心には三角でカッコいいなと思ってましたが、もうすこし物心つくとマグキャッチがコンチネンタルスタイルだったので無視してたわけです。若気の至りです。わびさびが解ってませんでした。年取るうちに、ルフトバッフェで愛されてたと聞き、ギャビン・ライアルを読み、モデルガンとして愛でたい気持ちがふつふつと暗闇の炭火のように起きてきたのです。しかし、銃身分離式のこのピストル、モデルガンだと過去の金属はイリーガル、タニオアクションなんかいりません。金色ってのも許せない。レプリカからモナカのエアガンは出ていましたが、モナカで、しかもエアガンだったので完全無視してました。ああ、どこかABSでモデルガン出さねえかな・・・なんて叶いもしない希望を抱いていたわけですよ。

ところが最近、「レプリカのグリップあれば、フルスクラッチ楽じゃね?」とか思ってしまったのが運の尽き。マルシンから再販されたモナカを入手、資料を集め出したのが2008年3月・・・

イラレで図面を起こしてなんとかなると思ったのがゴールデンウイーク、なんとかなったのは12月・・・

2008年はぼくにとってHScの年になってしまいましたとさ。

作ったのは戦前モデル。ようやく仕上げに乱れの見えてきたころのです。

材料はABSパイプと板、プラリペア、真鍮板、半田、ピアノ線、軟鉄板とか。グリップは勢いで木で作ってしまったので、マルシンの存在意義は寸法の参考にしたくらい。しかしマルシンは良くできてるということがわかったです。

ただのドンガラと化したマルシンのモナカと記念撮影。マルシンの方が全長長いです。

マルシンのPPと。安全のためにインサート入れてます。

HScのメカニズムは、シンプルかつ複雑です。特にシア。これを理解するのに数ヶ月空費しました。しかも9月になってから新資料を入手して、シア作り直したりしたのはいい想い出。シリアルは751108。でも12月になってしまった・・・

塗装失敗しました・・・orz

メカニズム

シングルアクションでのトリガーまわりの動きを図解してみます。戦前型のシアとハンマーです。

射手が手動でハンマー(図中黄色)を、ハンマースパーに指をかけて起こそうとすると、ハンマーの下部にある二つの出っ張りの前にある方がシア(図中水色)中央部の突起を上に押し、シアのフレームとの回転軸は縦に細長い楕円穴なのでシアは上に持ち上がります。当然シアのハンマーに引っかかる部分はハンマーの回転軸から遠ざかり、結果、ハンマー下部突起との接触が切れてゆきますが、ハンマーのもう一つの突起がシア下部のハーフコック用突起を押しのけて、シアがハンマーから外れるのを助けます。シアがハンマーから外れると、ハンマーはフルコック位置まで回転することができ、シアは内部のバネによって戻るので、ハンマーをコック位置で捕まえます。

あとは引き金を引けばトリガーが図中ピンクのトリガーバーを引っ張って、シアを前に引き、ハンマーを解放して撃発です。(このもう一つの突起は省略可能なので戦後を待たず省略されたようです。シア中央部でハンマーをくわえます。) ←これ書いてアップしたあとでようやく月刊GUN1992/12月号を発見、ハンマーの鮮明な写真を見ることができました。なんとびっくり!「シア中央部でハンマーをくわえます。」なんてのはぼくの妄想でした。「もう一つの突起」はハンマーの右舷側だけに存在し、左舷はトリガーバーに干渉するために削り取られていたのでした。つまり、戦前、戦後ともにハンマーの構造は変化はないようです。

ダブルアクションもシアについては同じ動きですが、ハンマーバーの突起がフレームとこすれ合って微妙な軌道を描くことに注意しましょう。

スライドに付いたマニュアルセフティはファイアリングピンを持ち上げてロックするほかに、シアをコントロールします。

指でコックしようとしたときに、ハンマーがシアを持ち上げようとしても、セフティの回転軸の右舷側の突起がじゃまするので持ち上がらず、ハンマーをコックできなくなっています。

ダブルアクションで引き金を引いてもシアが持ち上らないので以下略。

HScのシアは、ワルサーPPの「セフティをかけた時にハンマーがコックできない(それによってセフティオンを射手に知らせる)」という機能を、ワルサーと違う、しかも部品の少ない仕組みで再現するためにデザインされたような気がします。(エミュレータみたいですね。)PPはダブルアクションリボルバーの利点を取り込んだので、トリガーを引き切らない限り作動するハンマーブロックがあり、同じ部品がトリガーを引き切るとファイアリングピンを押し上げて撃発ポジションにしますが、HScはそんな凝ったことは諦めてハンマーブロックのかわりにハーフコックポジションがあります。普通のピストルのハーフコックは、撃鉄側にそのための刻みがあるのですが、HScの場合はシア側に存在します。戦後型(戦中の量産型も)シア下部の、いかにもコッキングに利用されていそうなフックは、実はハーフコック専用なのです。ハーフコックはハンマーを半端な位置まで引いて、間違ってハンマーを落とした時に撃発させないというための機構です。

ファイアリングピンはセフティオフの時は常にフリーです。しかしハーフコックがあるので撃発の危険は少ないでしょう。

HScは手でハンマーコックする時にハンマースパーを真下にさげますが、これはピストルをしまう時の方向と直行しているので、しまう時に引っかかってハンマーが起きたりとかしません。そういうためでしょう。

セフティは上記の機能のほかに、回転軸左舷とスライドストップを利用して、セフティオフの時にスライドを外すことを妨害する機能を持たせています。これはハンマーをコックしないとスライド・バレルグループが外れないというセミハンマーシュラウドなデザインのためでしょうか。

HScの最大の特徴が、スライドストップでしょう。全弾撃ち尽くすとマガジンフォロアーがブリーチ前に入り込んでスライドをホールドオープンします。この時点ではスライドキャッチは作動していません。マガジンを抜くと、マガジンリップ左舷で押さえられていたスライドキャッチが前方に回転し、スライドの切れ込みに食い込むわけですが、この際にスライドはわずかに前進します。ので、ブリーチはマガジンフォローワーのお尻より前に出てしまいます。このままでは新しくマガジンを入れてもカートリッジのお尻がブリーチの底に当たって給弾ができません。ところが、弾の入ったマガジンを新たに押し込むと、初弾の薬莢の後部がフィードカム(動きません)の斜面に当たってマガジンフォロアーのおしりより前の位置にカートリッジのおしりを押し出すのでブリーチのアゴがカートリッジ後部をくわえることができ、マガジンによってスライドキャッチを外されたスライドが前進してチャンバーにカートリッジを押し込むのです。

スライドキャッチはマガジンが入っていないときにトリガーバーをロックします。

おまけ:作ってから7年後の2016年のGUN誌に実寸写真が載ってたんで重ねてみた。ぴったし!

参考:英語版ウイキペディアの訳
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参考資料

書籍:月刊Gun 80/10、83/1、87/8、98/5、 04/8、82/1(HScスーパー) アームズマガジン 89/5 コンバットマガジン 82/7(HScスーパー)

HANDFEUERWAFFEN der Wehrmacht/George Markham/PODZUN-PALLAS(断面図)

Mauser Pistolen /Weaver Speed Schmid/Collector Grade Publications(シアの構造ほか)

The Gun Digest Book of AUTOMATIC PISTOLS ASSEMBLY/DISASSENBLY/J. B. Wood/Gun Digest Books

Web:HSc sear magazine hammer mauser 等で検索して出てくるサイト

完成後に出てきた資料:月刊GUN92/12(HScスーパーのガンメカ解説)、月刊GUN06/04 orz