『補習授業』1 初夏。 明るい青に染まった空に、白く光る雲。 学園内に植えられた木立からは、蝉たちがにぎやかにその鳴き声を響かせ、 照りつける日差しは、既に焦げ付くような熱さで、来週にせまった夏休みを心待ちにさせる 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、校舎から夏服を身にまとった生徒たちが吐き出されていく。 期末テストも終わって、夏休みに入るまでのこの1週間は授業は午前中まで、である。 心なしか彼らの足取りも弾んでいる様に見える。 が、しかし。 「、お先〜」 「タマちゃんも、また明日ねー」 はクラスメイトの紺野珠美――通称タマちゃん、と教室で弁当を広げながら、帰っていくクラスメイト達に手を振って見送った。 そう、この二人には午後も学校に用事があったのだ。 バスケ部のマネージャーをしている珠美は、部活動。 そして、弁当の玉子焼きをつつきながら軽くため息をついているは……補習。 「ちゃん〜、玉子焼きに恨みでもあるの〜?」 「玉子焼きには………ないけど、さぁ」 そして再びため息。 「あはは………。これから、だもんね。氷室先生コワイし」 おっとりと、しかしそのため息の意図する処を正確に理解した返事が返ってくる。 「うっ………言わないで。タマちゃん 赤点なんて、一つだけでも氷室先生の怒った顔が目に浮かぶのに、補習だなんて〜」 玉子焼きを突き刺した箸を握りしめて、叫ぶ。 「ちゃん〜、そんな大きい声で補習補習って………」 廊下を通りすがる他のクラスの生徒たちが、驚いた様にこちらを見てから、くすくすと笑いながら通り過ぎていく。 「うぅ………しかもうちのクラス、補習、わたしだけなんだよ〜」 それは………図らずも担任と一対一の補習が待ち受けている事を示している。 、一気に脱力して、弁当箱の上につっぷす。 「でも……まぁ、いくら叫んでも補習はなくならないし」 「うっ………」 普段からニコニコおっとりマイペースなタマちゃんだが、たまにクリティカルなツッコミを入れてくださる事がある。 「ほらぁ、早く食べないと、時間遅れちゃうよ?」 「うん………」 そのダメージで弁当箱の上から起き上がれなくなっているに、珠美が苦笑する。 これでは、がおっとりした珠美の世話を焼くことが多い普段とは、全く逆である。 そして、の進まない箸とは無関係に、時間は容赦なく進んでいくのだった。 教室の前で珠美と別れると、は職員室の隣にある学習室に向かった。 学習室。 それは別名『補習室』。 の名誉のために言わせてもらえれば。 中学から今まで、平均点をやや下回った事はあっても、赤点を取った事はない。 勉強は決して得意ではなかったけれど、それなりの成績を修めてきた。 が、はばたき学園は中高一貫教育で、独自のカリキュラムが組まれていた為、その進度は他の中学校とは大きく異なっていた。 加えて今回の期末は、1学期の授業の範囲の他に――それは多分に学外編入者の為という意味合いだったのだろうが――中等部のおさらい的な問題も多数出題され………。 その結果、学外から編入したは、習っていない範囲については全くのお手上げだったのである。 は小さくため息をついてから、学習室の扉をノックした。 「入りなさい」 「失礼します」 一声かけてから扉を開けば、中にはクラス担任である氷室零一が既に待ち受けていた。 その鋭い一瞥を受けて、の首が反射的にすくめられる。 「えっと、あの………よろしくお願いします」 「………座りなさい」 そんなの様子を知ってか知らずか、あくまでも彼の様子は冷静である。 慌ててペコリと頭を下げるに、彼自身が座っている席の向かいに着席を促す。 これから受けるであろう厳しい叱責への覚悟に、の喉がゴクリと鳴る。 そもそも、入学式の日に、曲がったスカーフを注意された事が運の尽きなのだろうか………、それから事あるごとに、この厳しい担任から注意を受けている。 授業を受ければ当てられて、職員室を訪れれば日直でもないのに仕事を言いつけられ、HRの時にほんの少しぼんやりと考え事などしていればすかさず注意される。 それは、彼にとってはデータの足りない生徒を注意深く見守っていたに他ならないのだが、 当のに、苦手意識を感じさせるには十分だった。 が席につくのを待って、確かめる様に彼の手の中の学籍簿が開かれる。 「君の補習科目は、国語と数学と専門科目だな」 「は、はいっ」 そして、学籍簿に挟んであったらしい紙をまず1枚の目の前に静かに置いた。 「これから1週間、行う補習授業の予定を組んでおいた。 この予定表に従って予習復習を行うように」 「………はい」 「補習のテキストはこちらのプリントを使用する。 ファイルして置くようにしなさい」 淡々と丁寧に、そう、普段の授業よりもよほど静かに、彼から今後1週間の補習内容を説明される。 『――怒って………ない、のかな? まさか………、ね?』 補習の内容どころでは、ない。 そっと、気難しそうな担任の様子を盗み見る。 見たところ、イラついていたり、怒りを抑えているといった気配はないのだが………。 「内容について、何か質問はあるか?」 「…………」 まずとっくりとお小言というかお説教を頂戴するだろうと身構えていたは、すっかり拍子抜けして思わず返事を忘れてしまった。 話を聞いていなかったのか?とばかりに、じろりと厳しい視線がに投げられる。 「、……返事は?」 「はっ、はい!」 が、しかし、そんなの様子は同時に、彼にとってはあからさまに見え見えだった様で、小さくため息をつくと不機嫌そうにに問いかけた。 「………何か質問でも?」 「ぃえ!あの、てっきり叱られるものだと………、ぁ…」 先ほどまでとは変わって、明らかに機嫌が悪くなった様子である。 そんな彼の様子に慌てて、、ついうっかり本音を答えてしまい………もごもごと口ごもる。 そして、そんなに対して、眼鏡の奥で咎める様に目が細められ、きっぱりと答えが紡がれた。 「確かに。 氷室学級の一員でありながら、補習など言語道断! あってはならない事だ。」 「ぅ…(やっぱり)。そうですよね。すみません………」 が、しゅんと小さくなる――内心は薮蛇な自分の言葉を悔やんでいたのだが(笑)――に何を思ったのか、小さな咳払いの後、言葉が続けられた。 「が、この1学期に学習した範囲においてはその努力が認められる。 、………君がいた中学の教諭に、履修内容について話をうかがった。 履修していない範囲については止むを得ない部分もある」 「へ?」 今度こそ、はきょとんと言葉を失った。 「へ、とは何だ」 「え……でも話って、………電話ですか?中学へ?!」 「何か不都合でも?」 「いえ、何も………」 普通、いくら補習を受けるような問題児(泣)だからといって、そこまでするものなのだろうか………?! はそんな驚きと疑問を抱きつつ、慌てて目を転じれば、手元にはこの補習のためと思しきプリントの束………。 束?とそのプリントの厚みにぎょっとしつつ、それを手にとれば、既製品ではない自作の答案用紙であることに気付く。 「これ………全部先生が?」 「そうだ。 未履修範囲を中心に、1学期の履修範囲も含めて、今回のテストで明らかになった君の弱点が網羅されている。 このプリントさえ完璧に理解できれば、君の補習は非常に実りあるものになるだろう」 答える彼の顔には、フッと確信に満ちた薄い笑みが浮かんでいる。 ざっとその束をめくれば、確かにが解答できなかった問題の数々が記されている。それは彼の担当科目である数学のみにとどまらず、その他の科目についても、である。 「えっと………はい、頑張ります」 は、その笑みとプリントの束とを交互に見ながら、やや顔をひきつらせながらも微笑み、答えた。 「よろしい。 では補習を開始する。」 こうして、1週間に渡るの補習が開始された。 |
>BACK >>GSトップへ 素材提供:Angelic〜天使の時間〜様 まずは最初は補習イベから〜(^^) 実は私、先生のスチル最後まで足りなかったのは補習のスチルだったんです〜(^^;) えぇそりゃもう、いつも先生に褒められようと必死でお勉強コマンドしてたので、 補習なんて掠りもしたことなかったんですもん。わっはっは。(暴走する乙女心) 補習はもう少し続きます〜。 こんな処まで読んで頂いてありがとうございました。(^^) |