Nゲージ蒸気機関車>蒸機の工作>にせ190形(3Dプリンター)
2019.5.29
新橋-横浜間を走った官設鉄道の機関車のうち、ダブスの8・9号機(後の190形)をイメージして作ってみました。
全体的にはNゲージ鉄道模型というより、駄菓子屋プラモデルを自分で作ったというような感じです。ちょうど合う動力はないため無動力ですが、動力車で押せばレイアウトを走れるよう、車輪やロッドは動くようにしました。実は下廻りは3Dプリンターで作ったことがなかったのです。
大きなサイドタンクと、後ろに連結したバンが目立つ機関車です。どう使われたのかについて様々な見解があるのも楽しいです。
形が面白いため、昨年一度3D CADで画いていました。最初はただの3Dの絵で、作ることは考えていませんでしたが、ちょっと変更すれば3Dプリンターでも形にできそうに見え始め、光造形できる構造に作り変えました。
機関車の基本寸法は調べましたので、図の赤い部分は大体当初の実物どおりかと思います。よくわからなかった部分は何もしないか、適当に部品を付けたりしました。
後ろのバンはフリーです。車輪の直径は機関車の先輪と同じにし、車体は機関車のサイドタンクと同じ長さにしました(何かに決めれば作れますから)。バンの床の高さは機関車の床の高さを基準にしましたが、見た目にちょっと腰高のような気がしています。前後長も足りないのかもしれませんね。
…とまあ、ここではこのようなデザインに決めました。
Autodesk Fusion360 で3Dデータを入力し、Anycubic Photon で造形しました。この機種と樹脂の特性に合わせて部品寸法や分割時の隙間などを決めました。しかし見込みは大して当たりません(笑)。気温やらサポートの付け方やら、ちょっとした条件の違いで毎回変わるんですヨ。
サイドタンクが動輪やロッド類の外側に被さっているものですから、各部の厚みの制約が結構厳しいです。全体を大きめに作ったほうが余裕ができるので、縮尺はマイクロエースの1号機関車に合わせて1/120としました。ただしマイクロエースの1号機関車(A1クラス)は、上下方向には少し小さくできているため、並べるとスケール感は合いません。
当初は前面にもダブスの独特な連結器が付いていたようですが、模型では適当なバッファーとアーノルドカプラーを付けました。
実物はこのあと、キャブが後部に延長されて手ブレーキが付き、ボイラーの配管が変わり、キャブ妻板が安全弁の後ろまで後退して窓の形も変わり…のように変遷しているようです(さらにその後、一度ブチ壊されて作り変えられます)。
スライドバーは別パーツにして、台枠の上からはめ込みました。
クロスヘッドが往復する部分なので、造形時は外側を上に向けて配置し、水平造形しました。これなら表面に積層段差ができません。
ロッド類は強度的に適切な太さがわからず、意識的に太く作りました。データ上は幅1.2mm、厚み0.7mmですが、それぞれ約0.2mmずつ大きく造形されました。出来上がりを見たところでは、もっと細く作っても強度は大丈夫のような気もします。
車輪も3Dプリントで作りました。動輪形状はわからなかったのでフリーです。クランクピンも3Dプリントです。シャフトのみ、適当な製品の車輪から頂戴しました。
シリンダーブロックは、カプラーポケットのふたを兼ねています。カプラーポケットの内側形状は、KATOの2軸貨車のパクリです。>
写真を見ながら好きなように画いたバンです。
ブレーキハンドルと端梁のある後部は謎ですが、よく見ると後方デッキの側板は開くようになっているようです。ということは、後面は壁でふさがっているのでしょうか。いったん、海外のブレーキバンの写真も参考に、後面は閉じておきました。
その他も、写真からよく見えないところは成り行きで作っています。もし真の姿や寸法を知って作り直したくなったとしても、3Dデータを修正して再プリントする程度で済むので精神的ダメージはゼロです。こういう点は気楽です。
各コンポーネントをコピーして並べ直し、サポート材を付けて造形しました。
車輪やロッド類はバラバラなので再配置が大変な反面、バンは上下一体で楽をしました。データ上は上下が分かれていますが、分けて造形することは考慮されていません。
●出力条件
・使用樹脂: xULTRAT ※MIRACLP用のちょっぴり高い樹脂。臭いが少ないので使用。
・室温: 25度
・積層ピッチ: 0.035mm
・基底層照射時間: 70秒
・基底層数: 6
・通常層照射時間: 13秒
・各層消灯時間: 6.5秒 ※ハード的に固定なので毎回同じ
いつも機関車は0.025mmピッチで造形していますが、この機関車はサイドタンクに垂直面が多いので、Z解像度を少し粗くして積層ブレを抑えました。
ちなみにあとで見ても出力条件がすぐわかるよう、私は造形スライスデータのファイル名に主要パラメータを記入しています。
例) engine_t035_13s_70b6.photon
車輪は2度失敗し、これは3度目です。まだ何かフランジが波打っておりイマイチです。まあ、もともと走行安定性を求めるのは無理なので、ここで妥協しました。
1回目はサポート材の接続部が細すぎ、すべての車輪がそこで引き上げに失敗していました。造形が終わったら、爪楊枝のようなサポート材のトゲトゲだけがずらりと並んでいて唖然としました。
バンは形状が入り組んでいるため、層ごとに断面形状が大きく変化する部分もあります。それで1回目はやや目立つ積層のズレも出ていました。
少しは改善したいと、周囲を壁で覆ってFEPフィルムからの引き剥がしを一定に近づけました。
他の要因による縞模様が残るのはあきらめますが、いくらか目立たなくなりました。
なお、積層痕を本当になくしたければ、その部分を水平造形する方法があります。細かいディテールが出にくいとか、斜め造形に比べて裏側が不明瞭になるなど難点もありますが、とにかく縞模様は出ません。 写真の出力例は、交換寸前のボロボロなFEPフィルムで造形したもので、フィルム自体の傷も転写されていますが、それでも積層痕が出ることに比べれば十分きれいです。
もちろん、各層ごとに結構な力でFEPフィルムから引き剥がされるので、表面にわずかな歪みが出ることはあり(実物の金属車体の表面のよう)、平面の方程式で表せるような完全な平面にはなりません。
車輪を組み立てます。サポート材の付いていた裏側は凸凹があるので、ヤスリで整えました。
これに金属のシャフトを差し込むのですが、車輪に空いているシャフト穴が、どれひとつとして垂直に造形されていません。
左右の車輪がまったく平行にならないんです。確かに、こんな安いプリンターで完璧な車輪が作れるなら誰も苦労しません(笑)。
3Dプリントサービスで使われる、Projet 3500HDMax などの高精細プリンターならもっと正確に出るので、いざとなれば、車輪だけこういうサービスを使うのもいいと思います。
あっちこっちの組み合わせをヤスリで調整しながら組み立てているところです。
この楽しさは、昔の鉄道プラ模型の組み立てと共通です。
下廻りです。最初は動きが渋かったのですが、あちこちの組み合わせを調整しているうちによく転がるようになりました。
※注:その状態になるまで、それなりに苦労はしています。
車輪は全然平行になっていないのに、これなら動力車で押して無理なく走れそうです。
あとはここに上廻りを載せ、下からネジ1本で留めれば機関車は終わりです。
バンは上下一体なので、ピボット車輪をはめ込み、カプラーを入れたカプラーポケットをネジ留めすればOKです。
しかし、屋根も床もふさがっているものですから、中にウェイトを積むことすらできません。本当に何も考えていなかったですね。それでも3Dプリンターは造形してくれます。
機関車とバンを連結し、裏側から見たところです。
機関車の車輪は、車軸を台枠にパチンとはめてあるだけです。ここのクリアランスは幸い一発でうまくいってくれました。
見込み違いでサイドタンクの壁に第一動輪クランクピンが干渉しそうになることがあり、肉厚を内側からナイフで削りました。厚さ1mmを確保して造形しましたが、1.3mmぐらいまで肥厚していました。
何とか組み立てられました。何となくビッグワンガム風ですが、かなり嬉しいです。
チビ客車で押して試走中です。
ポイントやアンカプラーも脱線せず通過してくれました。十分遊べます。どれほど遊ぶのかはわからないんですけど。
当時の絵で見られるように、カラフルに塗り分けて装飾帯なども入れたいのが本当ですが、細かいマスキングを行う根性はもうありませんので、全体を黒塗りしてしまいました。
車輪のタイヤとフランジのみ、マスキングしてガンメタを塗りました。それほど目立つわけでもなく、鉛筆で側面を塗ってやる程度で十分だったかなと思います。
端梁に赤でも入れたら格好良くなるかもと思い、テストして、やめたりしていました(端梁の形に紙を赤色に印刷して重ねただけ)。
キャブ内の安全弁も金色に塗りたかったのですが、一体造形してしまったため筆を入れるのもマスキングするのも大変で、あきらめました。
走行のためチビ客車を連結した様子です。
実際に走らせてみると、思ったより押されている感じが少なく、自走しているように錯覚します。いかにも機関車かバンにモーターが入っているように見える格好だからでしょうか。思ったより、ですヨ。
縮尺1/120と大きいので、チビ客車よりもこの相手のほうが大きさはしっくりきます。客車の床の高さや車輪の大きさもうまく合っている感じです。
とりあえず、ここでおしまいです。前回のD52は資料を色々調べるだけで大変で、何か月もかかってしまいましたが、これは半分フリーなので簡単に、2週間かからずできました。これぐらいが私にはちょうどいいのかもしれません。
写真は切り継ぎ合成ですが、3Dデータを修正して両方向バン?を作り、機関車ももう1両プリントすれば、こんな姿(想像)も作れそうです。
実物は機関車2両につきバン1両とのことで、どうやって使われていたんでしょうね。
ワールド工芸のプラシリーズ第一弾、上田交通EB4111です。
偶然これの下廻りの長さが、私がてきとうに作ったバンの長さとほぼ同じです。
1軸駆動なのですが、事前のテストで、この動力で機関車を押しつつプラ貨車を2両程度は牽けることは判明しています。動力入りバンを作るのは面白そうです。これはやや、やってみるかも?という感じです。この機関車にしか使えませんけど。