Nゲージ蒸気機関車>蒸機の工作>C55 1次形前期(3Dプリンター)
2021.10.15
私が3Dプリンターで初めて造形したのがC55の動輪輪心でした。その時は業務用機の造形サービスを利用しましたが、6年経った今は家庭用3Dプリンターでも行けそうな気がしたので自分で造形しました。ついでに機関部上廻りも作りました。
1次形前期 | 1次形後期門鉄デフ
種車としてトミックスのC57 1号機を使いました。今回入手したのはジャンク品の不調機でたまに先頭部がふらつきます。カッコ悪いだけで走行に支障はないため構わず使いました。
動力部は輪心とシリンダーブロックを新製して交換し、前端の赤い部分を削り取りました。C55とC57はデッキ傾斜部の形状が違うので当たってしまうためです。
テンダー本体はC57で代用し、石炭パーツのみ造形しました。ちなみに図に画かれている従台車はC58の部品を適当に置いただけです。ここは造形しません。
3D CADで3Dデータをもとに作った平面図です。目的の3Dデータができているので平面図はもう使いませんが、こういう逆起こしができるのは面白いです。
今回はキャブが大きい1次形のうち前期の仕様にしました。コンプレッサーと給水ポンプが20センチほど高く、逆転棒がコンプレッサーを避けるように上側を回っているものです。
一般に入手できるC55の図面を複数参照してデータを作成しました。私の解釈が間違っているのでしょうか、図の形状と寸法が一致していないように感じたところもあり、いつものように色々な写真を見ながら妥協点を探しました。 部品の厚みを確保する関係などで、どうしてもデフォルメが必要なところもあります。
今回は使用する樹脂を変え、CraftLab 3Dで販売しているxULTRAT BLACKを使いました。樹脂が変わったので適した条件を見つけるために多少の試行錯誤はありました。この樹脂はAnycubic Blackに比べてやや柔軟性があり、またサポートが付く側も比較的きれいに造形できます。その代わり価格は高めなのと、現在は1kg単位の販売なので必要なのは少量でも初期費はかかります。
(Phrozen Sonic Mini 4K/xULTRAT BLACK/t0.035/3.8s 室温23〜27℃)
造形時の部品配置とサポート構造を載せてみます。サポートは無料のスライサー(ChituBox)でそのつど付けました。
以前のバージョンに比べればだいぶ良くなっています。世界中で使われているので、フィードバックを受けて技術者が努力したのかもしれませんね。
底部のラフトは厚さ0.2mm、積層ピッチは0.035mmで初期層は6層としました(0.035×6=0.21≒0.2mm)。この初期層のみ35秒照射で定着させました。
ボイラー部は上部を滑らかに見せるため26度傾けました。以前のAnycubic Photonでは、デフ側面などの層の乱れを緩和するための板を横に立てたりしましたが、現在のPhrozen Sonic Mini 4Kでは不要です。
必須かどうか未検証ですが、デフの取り付けステーは細いサポートでランボード上と前デッキのステップ上に支えています。
ボイラー部の厚さは、以前は造形サービスの制約もあり0.8mmは確保していました。 プリンターが自前になってからは徐々に薄くしており、今回は0.5mm(モーター上は0.4mm未満)です。 薄いほうが事後の遅延硬化による変形が小さいかと思いましたが、表側に結構な厚さのディテールも一体化しているためか、変形具合には違いを感じませんでした。
今回キャブは別パーツにしました。バックプレートも作ったため合体させるとサポートが立てにくいことがあるためです。
シリンダーブロックの基本寸法はトミックスのC57に合わせ、ディテールのみC55風にしました。
一部サポートが突き抜けていることに今気づきました。出来上がりに影響しない部分です。
輪心は昔作ったデータを引っ張り出し、クランクピン穴の直径やカウンターウェイトの形等を調整しました。
裏側にサポートを付けたくなかったので、立てて造形しました。各輪心ごとに3本ずつのサポートで済みました。
ピン穴の直径は造形直後はちょうどよい・またはやや緩めという程度でしたが、数日経つと簡単に抜けるようになったため(たぶん0.03mm程度の収縮)、穴の内側を黒の塗料で筆塗りして少しきつくしました。
つかみ棒は15本いっぺんに造形しました。
底面積が小さく、スライサー(Chitubox)が誤認識して正しくラフト(底面)が付かなくなることがあります。予防のためあらかじめ厚さ0.01mmの板を底部に敷いておきました。
石炭は剥離面積を小さくするため斜めに造形しました。
現状、3Dプリンターで造形できるのは普通の出来事ですが、細かい失敗はやっぱりあります。しかし、たいていすぐにやり直せるのがデジタル製作の便利なところです。
ボイラーを斜め造形したとき、ランボードの中で最初に現れる最後部の角にサポートを立てる必要がありますが、1度目のやり直しの際にこれを忘れてしまいました。
当然のように欠損しました。何も支えがないと引き上げられませんものね。パテでも盛って直そうかと迷いましたが、結局10分後には足りなかったサポートを立てて、3DプリンターのGOボタンを押していました。
こういうのは印刷物的なところです。樹脂さえあれば何度でも…。
板を並べるように幅を持たせたので大丈夫だろうと思った冷却管がグニャグニャになっていました。ただ、こういう歪みは何日か経つと直っていくこともありますよね。
また逆止弁の先端が細すぎ、アルコール洗浄中に欠損してしまいました。これは取り扱いミスでもありますが、取り扱いに神経を使う模型はあまり好きではないです。
表面状態を見ると、これはそもそも照射時間が足りていませんね。私の3Dプリンターは、照射が不足すると細かい縦線がたくさん発生する傾向にあります。
逆止弁は軸を太くし、後部にサポートを加えました(後方に傾けて造形するため)。
冷却管はそれぞれの段の下側にも補強を張り出させ、さらに補強をボイラー側に伸ばして連結しました。念のため照射時間も1層3.5秒から3.8秒に伸ばしました。たった0.3秒ですが約1割のエネルギー増強になるかと思いまして。
基本塗装はアクリジョンのブラック:つや消しブラック=3:1程度にしました。
歪みもありドットのガタガタもそのままですが、実物はとても小さいのでそれほど目立ちません。
事実をストレートにご覧いただいたほうがよいと思いまして拡大写真も晒しています。
歪みは1週間ぐらいは進むことがあるので(直ることもある)、様子を見てドライヤー修正しようかと思います。
こちらは元のトミックス製 C57 1号機です。
ナンバープレートは余っていたものを適当に付けています。
1両分の各部の資料が十分集まる機は少なく、細部は色々な写真の合成体です。
本当はC55 1次形のテンダーは3次形やC57とちょっと違うのですが(後部台車の位置など)、私には実機の見た目ではほぼ区別がつかないこともあり、何もしませんでした。
少しつや消しの度合いを抑えると、ボイラー上部などにも木目かさざ波のような模様が見えますが、私の肉眼では細かいざらつきとして感じられる程度です。以前の業務用機 HD3500Maxよりも全体的にきれいに造形されている印象です。ただ寸法精度はまだもう一歩及ばない気がします(だいぶましにはなっています)。
なおこの樹脂 xULTRAT BLACKはSonic Mini 4Kでも使いやすかったです。グレーは以前Photonでも使ったことがあり割と好きでした。特に4K機専用ではありませんが細部はほぼ自分の望んだとおりには描写され、サポート切断のときに砕けて飛び散る程度もやや少なく、作業性は良かったです。 ただ柔軟性に関しては比較の問題ですから過信は禁物で、折れるときは折れますので。Nゲージ量産品の台車や配管に使われているような素材とは違うので誤解のないよう注意です。
特別強い動機もなく始めたものです。データの段階で度々納得がいかず、特にC55の特徴となるキャブやフロントデッキは何度か作り直しました。
ダイキャスト部の加工は少なく、造形後にはただパチパチはめるだけなのですぐ形になりました。
●おもな参考書籍(書籍名のみ・一部)
・蒸気機関車設計図面集 原書房
・蒸気機関車スタイルブック(旧版・新版) 機芸出版社
・蒸気機関車の角度 機芸出版社
・1号機関車からC63まで ネコ・パブリッシング
・蒸気機関車メカニズム図鑑 グランプリ出版
(以上はほとんどの国鉄蒸機の製作時に参照しています)
・改稿 国鉄蒸機発達史 Rail Magazine 300 ネコ・パブリッシング
・スポーク動輪の世界/華麗なるパシフィックC51・54・55 誠文堂新光社
他は自分で撮影した実機写真や、天賞堂の16.5mmゲージ模型のパッケージ図なども参考にしています。資料により実物形態の謎が深まることもあります。これは個体差や後天的改造なのか、製造メーカーによる違いか、図であれば作図者様の感性による違いか、単なる作図ミスか、印刷技術や紙の収縮や伸びによる変形か、など…。
ただ自分にとっての正解は、自分で作っていくものなのでしょうね。私は今のところそのとおりにも作れていません。
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