Nゲージ蒸気機関車>蒸機の工作>FA-130モーターで走るC58(縮尺1/80)
昨年、マブチFA-130モーターで動くD51を作りましたが、いくつか構造的に改良したい点も出てきたので、どうせなら違うものをということでC58にしました。
C58ならD51の改造で行けるのではという期待もありましたが、そうでもない箇所も多く、色々発見がありました。
2020.8.10
使った3D CADは、Autodesk Fusion360です。商業利用不可の個人用ライセンスを利用したので無料です。
C58やD51の特徴であるランボード上の配管カバーが撤去されずに残っており、空気作用管もそこに収納された姿にしました。
ボイラー・ランボード等は新規に作図し、今まで作ったデータから使える部分を移植しながら修正していきました。
デフはD51のデフを下から切り詰めて流用、キャブもD51の屋根を延長のうえC59のドアを移植し、窓や雨樋等の位置を調整したものです。
全体の基本形状は蒸気機関車スタイルブック(新版)のトレースです。つまり3D CAD上に読み込んだ元図をなぞり画きしています。
ダブルチェックの意味で、蒸気機関車設計図面集など別の図面集や組み立て図も参考にしていますが、組み立て図よりもスタイルブックの描写のほうが、自分の好みに合っている部分も多くありました。
ちなみに蒸気機関車スタイルブックの旧版のC58のドーム形状は、新版とはまるで別物です。
実物写真はおもに「蒸気機関車の角度」を参考にしました。
D51に比べて困ったのはボイラーが思ったより細く、かつ低いことで、モーターや電池ホルダーの入るスペースがギリギリになりました。
電池ホルダー自体は何とか収まっても、配線を通すスペースも少ないので、配線の太さの考慮もいります。
3Dプリンターの造形サイズの都合で、台枠やボイラーは一体で造形することができず、仕方なく分割しました。
もっとも、分割しておけば一部だけ再造形できるメリットもあります。
やむなく水平配置する動輪などは、等高線状の線が入らないよう表面を平面表現にしました。ただ私の機材と造形条件では、そうしなくても肥厚して押しつぶされ平面になりがちです。
今回は初めから作るものを決めて全体を作図したため、下廻りの無駄な部品は少し減らすことができました。ただ可動部の形状はかなりいいかげんで、ロッド類はD51をそのまま切り継ぎしています。
動輪も、造形が終わってから実物を見に行き、「よし、違う。」など、わけの分からない確認をして帰ってきました(笑)。
造形する単位に部品をまとめて配置し、造形角度を決め、サポートを付けました。部品の修正・再造形を繰り返しそうな場合は、スライサーでサポートを毎度付け直さなくても済むよう、サポートも3D CAD上で作っています。
私はこの作業に何日もかかってしまうのですが、今回は昨年のD51のサポート構造を流用できる部品が多くあり、半分程度の労力ですみました。
サポート柱は直径2mmを基本とし、それを5mm間隔で立てることを基本としています。部品形状によって多少の違いがあります。Nゲージに比べて大きな部品が多く、私の3Dプリンターでは歪みが出やすいので、Nゲージよりも間隔を狭めて本数を増やしています。
3Dプリンターは2年前に買った Anycubic Photon、UV樹脂はAnycubic製のブラックです。積層ピッチ0.05mm、1層の照射時間は前回11秒だったのを16秒に伸ばしました。
最初に造形した動輪で途中分断する失敗があり(照射時間を伸ばしたのはそのため)、新品のFEPフィルムを傷物にしてしまったので、その痕が全造形物に影響することになりました。まあ、FEPフィルムはいずれ古くなるので、気にしても仕方ないです。
すべての造形には10日ほどかかりました。3Dプリンターに装備されていた消臭ファンは、効果がないばかりか、かえって庫内の臭気を部屋中に撒き散らしてしまう迷惑装備になっており、昨年配線を切ってしまったので快適でした。幸い、この機種は消臭と冷却のエアフローが分かれていたので、これが可能でした。
実は最初、久々に3Dプリントサービスを利用して楽に作ってみようと考え、エンジンとテンダーの上廻りの見積りを依頼してみました。
アクリルHiResoで4万3千円という見積りでした(上廻りだけ)。もし、下廻りも含んだ全パーツであれば、7万円くらいになったかもしれません。残念ながら今回はパスしました。
3つのギヤ付き動輪を台枠に組み込んでから、ウォームが3つ並んだドライブシャフトを取り付けました。力を出すためにギヤ比を大きくして、速度はうんと抑えています。
前回は電池交換などの際にドライブシャフトが浮いたりして、ギヤの噛み合わせがずれることがあったので、今回は構造を強化して安定度を増しました。実際に増したのかは不明(笑)。
配線が通るスペースがほとんど確保できなかったので、モーターについていた太いリード線は細いものに替えました。最初、目立たぬように黒色の線にしかけましたが、赤と青にしました。そのほうが電動プラ模型らしいと思いまして。
曲線半径550で大きな左右揺動があった場合、先輪がシリンダーブロックに当たって脱線する恐れがあったため、シリンダーブロックの一部をデータ上でざっくり切り欠いておきました。
外見には影響しますけども、調子よく走るオモチャであることが第一の望みなので、迷わずやりました。
先台車・従台車・テンダーを付けての曲線通過チェックはうまくいきました。
しかし、レールの継ぎ目付近などで若干の凸凹がある場合、軽く空転ぎみになることがありました。
たぶん動輪の組み立てや軸受けの具合が悪くて、6つの動輪が均等にレールに接しておらず、一瞬・一瞬を見ると3箇所ぐらいしか触れていないのではと思います。ごく軽い症状がたまに出る程度なので、遊ぶのには全然支障ありません。
電源用のスライドスイッチはどうしても設置場所がなく、仕方なくつまみを前方に向けて電池ホルダー後部に固定しました。
そのままではつまみを操作できないので、延長レバーを作ってつまみにはめ、それを横から引いたり押したりしてON/OFFすることにしました。これは案外うまくいきました。 止めたいときにポンと押せばすぐ止められるので、操作性はむしろよくなっています。
バルブギヤーなどの構成はD51と同じです。たまたまうまく動いていたので、あまり変えたくありませんでした。
動輪への取り付けは、第二動輪のクランクピン1箇所のみです。それだけではサイドロッドがシーソーのように傾いてしまうので、サイドロッドの両エンドの裏側には細いピンが出っ張っており、動輪に大きく開けた穴に軽く通してあります。このため取り付け・取り外しは簡単です。
こんな構造なので、サイドロッド両端が動輪表面から浮きやすく、悪くすると周囲のロッド類に絡んで止まる恐れがあります。一応そうなりにくいように周囲の形状や間隔を決めているので、今のところ走行中に絡んで止まったことはありません。
モーションプレート裏側の形状が悪くて台枠に取り付けられなかったのと、合併テコ周辺のクリアランスが足りずに動かなくなる問題があり、一度それらを修正のうえ再造形しました。
ロッド類は1時間半程度で再造形できるので、修正は気楽です。問題なく走るようになりました。
今度は上廻りです。
キャブは最近は一体で造形していましたが、後部妻板は別パーツにしました。C58のキャブはほぼ完全に密閉されている独特なもので、壁が邪魔になってキャブ内側へのサポート付けが面倒だったからです。
曲線通過のため、石炭皿が入る穴は実物より左右に広げています。他にたくさんある窓はふさいでいますが、理由はあったようななかったような…。
煙室部もボイラーから分割しています。デフ上部の細いステーの中央がうまく造形されない恐れがあったため、ランボード上に細いサポートを付けて支えています。実際には上下逆さまに造形されますから、このサポートでステー中央部を引っ張り上げることになります。
周囲を傷つけないよう、これらのサポートを切り取るのは緊張しました。
電池と、ボイラー内側のスペースは本当にギリギリでした。細いリード線に替えておいてよかった…。
これで造形したパーツはすべて組み立てました。建て付けはご覧の通り、怪しさいっぱいです。
斜め造形で、水平方向と垂直方向の膨張度合いなどが違い、おまけに照光むらまであるため、直角が正確に出ないんですよね。
キャブを付けての試走の結果、曲線でテンダーと干渉することがあったので、ドローバーを1.5mm長いものに替えました。ドローバーは破損しやすいため脱着式で、スケール通りの長さのものと、走行用にやや長いものをあらかじめ作ってありました。
一応1/80のプラ模型風のC58ができました。歪んでいないところを見つけるのが難しく、気持ちがモヤッとしているところもまだ正直ありますが、そこそこ嬉しいです。
データの作成に190ステップほど踏んでしまい(1ステップ=1保存という雑なカウント)、こんなものでも1か月半かかりました。
FA-130モーターのC58(拡大写真)
ナンバープレートは、下の天賞堂から拝借しました。
天賞堂 プラスチック製C58(拡大写真)
これはまともな市販品です。1/80では貴重なプラ製品です。
FA-130モーターのD51(拡大写真)
昨年作ったものです。今回のC58の母体になってくれました。C58と並ぶと大きいですね。
2年前の普及品の3Dプリンターによる表面の様子(未加工)です。表面が均一に造形されるわけではないので、こんなものでは使えないとお感じの方もいらっしゃると思います。
今売られている3Dプリンターは、同じ2K解像度でも少しよい部品が使われていますが、光造形の原理は同じであり、結果は使い方に左右されてしまいます。
ボイラー頂上付近に縞模様の段差ができにくいよう、斜めに造形しています。アンチエイリアス(各層の輪郭をぼんやりさせて、ドットのギザギザを目立たなくする設定)もかけています。
ディテールの粒度はNゲージ基準で、それを単純に1.875倍しているため、1/80の模型としてはずいぶん大味です。ただ、この3Dプリンターの性能的には、これぐらいが無理なく出るようです。積層ピッチも0.05mmと、大きめにとっています。
斜め造形で曲面部の積層痕を散らしているため、キャブの屋根やボイラー上部は意外と積層段差が目立たず、比較的滑らかに出ています。
給水ポンプの前に、ボイラー内から顔を出しているのはスイッチのレバーです。
前面の超拡大です。なるべく煙室扉や、デフ表面に積層段差や造形ブレによる線が出ないよう、造形角度を決めました。
配管類は加減弁ロッドの一部を除き、すべて一体モールドです。要所は部分的に浮かせて立体的に見えるようにしました。
デフの強度の確保のため、内側に厚みを持たせています。ただ前後のフチに近づくにつれて薄くしているため、デフ裏側が妙な立体形状になっています。デフ上部の内側に折れた部分は、前方に近い部分は内側に倒れていますが、中央部付近は厚みがあるため逆に外側に傾斜しており、ねじれています。
幸い脱線はせず、轟音を立てながらのんびりと走ります。いつまで動くかは何ともいえません…。
以上です。FA-130モーター+1/80のシリーズ?は、これで一区切りです。昔からのささやかな夢は叶いました(あんまり、壮大な夢は見ていません)。
本当は、モーターで動く蒸機のプラ模型がもっと色々発売されてほしいのですが、現状はアリイのあれが唯一のシリーズですね。
(おわり)
●関連リンク:FA-130モーターで走るD51(縮尺1/80)
以下はほぼ個人用メモです。もし前作のD51が壊れて再出力することがあれば、そのときに考慮したいフィードバックです。
D51ではシャフトの軸受けを電池ホルダーの留め具で兼ねていました。電池交換などの際に外れてドライブシャフトが浮き、動輪の位相がバラバラになることがありました。 | C58では軸受けを電池ボックスから独立させ、別パーツのはめ込みにしました。もし電池交換などで電池ホルダーが浮いても動力部の調整に影響はなくなりました。 |
D51ではモーターベースは一体で、まずモーター後部をはめこみ、次にモーター前部のボスを上から押し入れる方式でした。はめ合い精度が悪く、破損やピニオンギヤのかみ合わせ不調の原因になりました。 | C58ではかみ合わせ不調や破損を防ぐために、前方のボスをしっかりくわえ、後方のボスは別パーツのモーター押さえで留めるようにしました。 |
D51では動輪押さえを小さいツメで台枠に留めていました。これは精度が悪く緩みやすいことがありました。また動輪押さえが薄くてたわみやすく、ウォームの回転で押し出された動輪によって浮き、動輪ギヤの噛み合わせが外れて位相が狂うことがありました。
C58では動輪押さえがたわまぬよう強度を持たせ、取り付けツメは大型化して台枠にしっかり固定されるようにしました。
D51では上下の組み合わせに一部ネジを使っていましたが、ネジ山がなめて効かなくなる恐れがあり、電池交換のたびに道具を使ってネジを外す煩わしさがありました。
C58ではネジを廃止して、前方はツメによるはめ込みにしました。後方は摩擦によるはめ合わせ固定です。