Nゲージの黎明期の1970年前後は、蒸気機関車ブームでもありました。9mmゲージを採用したゼンマイ動力のD51や、モーターで走るわずか1,500円程度のプラ模型など楽しいものが色々ありました。本物のNゲージ鉄道模型を買うまでのつなぎとして利用された方もいらっしゃるかもしれません。
2007.1.7
1971年頃に「エーダイ」が発売した、ゼンマイ動力で走るD51の模型です。
これは「グリップ ミニトレーン」といい、プラ製の曲線レール8本がセットになったもので、当時いろいろあった鉄道玩具の中では圧倒的に精密な外観でした。いくつかのバージョンがありますが、「鉄道100年記念 蒸気機関車D51」のプレート(シール)とともに陳列ケース状のパッケージに入っていて、なかなか高級感があります。
ケースの下半分には約R280の曲線レールが8本と、リレーラー(補助台と書かれている)、それにゼンマイを巻くツマミが収納されています。ゼンマイのつまみは動輪を模ったものです。レールはこの手の製品にありがちなジョイント部の弱いものですが、バラスト彫刻もしっかりしたもので、おもちゃっぽさはほとんどありません。
機関車と炭水車はケースの白い台座にがっちり固定されていて外し方がわかりにくいのですが、裏側に刺さっている「くさび」を引き抜くと、機関車と炭水車の間の留め具が取れて、外せるようになっています。
動輪を押さえながらゼンマイを巻き、リレーラーでレール上に置くと、轟音を立てて身体を揺すりながら爆走します。最初の半周くらいはほとんど空転かもしれません。ゼンマイがさびているかも知れず、巻くのが怖いのですが、今でもちゃんと走ります。
「だいたい3周します」と説明書には書かれていますが、2周半くらいで息切れすることが多かったと思います。
後期の製品ではバージョンアップされ、ゼンマイのストッパーのつまみが付くようになりました。また、レールがセットされておらず、直接床の上を走る仕様のものもありました。
機関車の内部には薄型のゼンマイボックスがあり、コンプレッサーの後ろに開いた穴からゼンマイを巻くようになっています。従輪はなく、先輪はダミーです。
サイドロッドとエキセントリックロッドは一体となっていますが、この表現は後に発売されるバンダイの「ミニミニレール」でも同じです。
ライトにはキラキラ光る宝石状のクリアパーツがはめ込まれています。デフは大変薄くできていて、現在のNゲージ鉄道模型のデフよりも薄いくらいです。
先ほど触れたバンダイ ミニミニレールの初代D51です。これは9mmゲージではなく、約10.7mmという微妙なゲージです。実物の1/100ということなのでしょうか。
ライトと安全弁が欠損していますが、今も調子よく走ります。
前面とバルブギヤはグリップ ミニトレーンとよく似ていますが、動輪にはボックス輪心の表現がありません。先輪もまったくないので、デッキ下が不自然に空いており、ここだけは当時見ても変でした。これに銀屋根・ブルーの客車が1両ついて950円でした。
ちょっとKATOのD51を並べてみましょう。Nゲージ鉄道模型がいかに本物そっくりにできているかよくわかりますね。写真のD51は比較的最近のロットですが、初代D51はこれらの玩具と同じ頃、1973年に発売されており、今とほとんど同じ姿でした。
左がグリップ ミニトレーン、右がミニミニレールのD51です。ボイラーの太さやデフの薄さなど感じがとてもよく似ていますが、端梁の表現やドームの形などに違いがいろいろあり、まったくのコピーではありません。
キャブの前妻が段になっている様子は、同じ頃発売されているKATOのC11にも見られる表現です。金型の都合なのでしょうか。
今この前面を見てすぐに連想するのは、モアのC53と、アリイのD50です。
初代D51はこの小ささであるにも関わらず、ボイラーに単5電池を2本積んだうえで、エンジンドライブで自走します。写真の矢印のあたりにキャラメル形のモーターが入っていて、前方に伸びたウォームに動輪のウォームホイルが噛み合っています。
ちなみに初代のミニミニレールのポイントはこんな感じでした。手動ポイントと固定ポイントがセットになっています。手動ポイントはかなり割り切った構造ですが作動は確実です。
道床の両端に空いている穴は、架線柱や信号機を止めるためのものです。ジョイントはややぐらぐらしたものですが、どうも破損しにくくすることと、床面への追従をよくするためにわざとそうしてあるようです。
有名な童友社の9mmゲージのプラ模型です。蒸気機関車はC58・C10・C11がありました。構造はどれも同じで外形も似ています。特にC11はC10にデフを付けただけで、ナンバーもC10のまま(…少なくとも手持ちのは)でした。テンダ機であるC58も下のようにアレンジされていました。
「どこがC58?」と思われるかもしれませんが、そう書いてあるので仕方ありません(笑)。似てなくてもそう名乗っちゃう模型は別に珍しくはないですね。
ギヤボックスはしっかりした構造です。電池は後ろの貨車に積まれていてリード線で結ばれていますが、付属のリード線が硬いために車両が浮いてしまい、よく脱線していました。
ついでにKATOのC11も並べてみました。KATOのC11も1971年の発売ですから、発売時期は少しの間重なっていました。
今見ると古い仕様であるC11ですが、当時はそこそこ精密な製品であったことがわかります。
この童友社のC58には、他に2軸貨車が5両と非常に多くのレールがついて、たった1,500円でした。レールにはポイントやクロスもあり、見ただけでわくわくするようなものでしたが、当初は機関車の改造なしにはあまり良く走りませんでした。車輪とレールの噛み合わせがきつすぎて、カーブを通過しにくいのが原因で、車輪の裏側を削って幅を狭くし、ようやく落ち着いて走るという感じでした。
ただし、後期には動輪裏のボスがなくなって、前述の問題が解消されたものも存在します。
上がグリップ ミニトレーンのD51、下がKATOのD51です。長さはミニトレーンのほうがやや長い程度です。ボイラーが巨大とはいえ、よくこの形を維持してゼンマイが収まったものだと思います。
上がミニミニレールのD51、下がKATOのD51です。ミニミニレールはテンダーが長いため、KATOよりかなり長くなっています。
なお、これらの製品は特定のスケールを表明しているものではありません。
グリップ ミニトレーンとミニミニレールには、どちらにもバックプレートがあります(左がミニトレーン、右がミニミニレール)。エンジンドライブなのにキャブ内が空いているのがすごいですよね。
何の脈絡もありませんが、倒産したデルプラドのD51です。単純な造形ですが、シルエットがよいので走ったら楽しいでしょうね。どなたか動力化に挑戦してみませんか。
比較のため、下がKATOのD51です。
今はコレクション玩具のような鉄道関連商品でも、模型として実用になるくらいよくできていますから、単発の製品で高価な模型と玩具の間をつなぐような商品は、なかなか存在できないのかもしれません。