「社会によって無力化された子ども」
と「子どもとしての権利」


「障害」には、インペアメント(機能損傷)とディスアビリティ(能力障害)の二つがあると言われます。インペアメントは、何らかの身体の組織または機能の欠陥を意味します。また、ディスアビリティは、現状の社会がインペアメントをもつ人々のことを考慮することなく、社会活動の主流への参加から締めだすことによって引き起こされる不利益や活動の制限であると定義されています。

2020年の東京オリンピック/パラリンピックを視座に、いま多くの劇場や団体が、身体的障害をもつ人々が舞台芸術にアクセスできるよう様々な活動に着手しています。車椅子への対応、ろう者のための手話通訳や字幕、盲者のための解説や介助など、様々な配慮が提供されはじめています。

一方、ADHDや自閉症、ダウン症等といった学習障がい者・児に対しての取り組みは、ほとんど行われていません。じっとしていられない、突然奇声を上げる、パニックになる…といった行動のために、断られてしまう、あるいは家族や介護者が他者に迷惑をかけないためにと自己抑制を強いられてきました。

近頃も、ニューヨークのブロードウェイ・ミュージカルを観劇していた障がい児がショッキングなシーンにパニックになり、他の観客から「出ていけ」「なぜ、そんな子を連れてきたんだ」と心ない言葉が浴びせられたというニュースが、SNSで広まりました。障がい児たちが、社会によって組織的に虐待され、軽蔑され、差別されてきたといえるのではないでしょうか。

学習障がいを持つ人々には、しばしば高度の芸術的才能が見いだされてきました。しかしながら、芸術活動と出会う機会が、社会的に故意に、閉ざされてきたと言わざるを得ないのです。

一方で、英国では、リラックス・パフォーマンス(Relaxed Performance)という取り組みが、国立劇場、ウエストエンドの商業劇場の一部、主要な地域劇場において始められています。障がい者・児が誰の気兼ねもなく、メインストリームの公演を観劇できるよう、劇場が一丸となって、過激な内容を一部排除するとともに、照明や音響に配慮、また必要な介助や支援を提供するという試みです。

障がいを持つ子どもたちも、健常児と同様に、『子どもの権利条約』の精神と実践のもとで守られ、権利を行使することができる社会が求められています。

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