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モラルハラスメント

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「モラルハラスメント」という言葉を知っていますか?
「性的な嫌がらせ」を「セクシュアルハラスメント」と呼ぶことは、
広く知られるようになりました。
それから考えると、「モラルハラスメント」は「精神的な嫌がらせ」と
なります。
しかし、「セクハラ」が単なる「嫌がらせ」などではないことは周知の事実で、
この「モラルハラスメント」も、「精神的暴力」や「精神的虐待」とも呼べる、
とてもひどい人権侵害なのです。
巧妙に人の心を傷つける「モラルハラスメント」。
この見えにくい暴力は、被害者を精神的に殺していきます。
ひどいときには、被害者を自殺に追いやることさえあるのです。

家庭や職場の中での人間関係に悩んだことは、誰にでもあるでしょう。
あなたは、親、パートナーや恋人、教師、上司や同僚、友人などから、
精一杯しているのに認めてもらえなかったり、身に覚えがないのに、
ひどく責められたり無視されたりしたことはありませんか?
そのようなとき、あなたは、自分の努力がまだ足りないのではないかとか、
自分でも気づかないうちに相手を傷つけてしまったために
その人が怒っているのではないかと考え、もっと一生懸命に頑張ったり、
相手の説明を求めようとしたり、こちらの思いを伝えようとしたり、
相手との関係をよりよくするために、
いろいろな努力をしたりするかもしれません。

でも、もし相手が、この「モラルハラスメント」の加害者であった場合、
相手は、あなたのその罪悪感こそを利用し、
無視、皮肉、悪口などを繰り返し、あなたを追いつめていくのです。
しかし、その攻撃ひとつひとつは、
それほど問題だとも言えないようなことのため、
はっきりと攻撃を受けているとはわかりません。
また、たとえあなたが攻撃だと気づき、誰かに助けを求めたとしても、
まわりの人に理解してもらうことは難しいのです。
そして、もしそこであなたが反抗したり別れたりしようとすると、
相手はあからさまに憎しみをあらわにします。
そして、敵意をもった暴力が始まるのです。
あなたの側に責任を押しつける、言葉による暴力が…。

この「モラルハラスメント」は、最近急に出てきたものではなく、
以前からいたるところで行われていたはずです。
今まで、家庭や職場という閉じられた空間の中で行われるため
外部には見えにくく、たとえ外部に漏れたとしても、
もともと被害者の側に問題があるとされ、
教育や指導という名の下に行われることの多いこれらの暴力が、
人権侵害であり、虐待であると認識されてこなかったのです。
それはまさに、ドメスティックバイオレンスと同じ構図の中で
行われる暴力なのです。

わたしたちは、言葉や態度で精神的に人を傷つけていくやり方は
「モラルハラスメント」であり、
それは犯罪にも匹敵する人権侵害だということを、
広く社会に発信していきたいと思っています。
そのことによって、「モラルハラスメント」の被害を受けている人たちが、
自分の身に何が起こっているのかをはっきりと認識できるようになると
思いますし、そのことが、自分を責めることなく安全な場を選択するための
助けになればと考えます。
そのために、「モラルハラスメント」とはどういうものなのか、
どう対処すればいいのか、被害者の回復にとって有効なことは何か、
加害者の気づきと回復はあるのかなどについて、
考えていきたいと思っています。

ただ、この言葉が広まることによって、モラルハラスメントの加害者が、
「モラルハラスメントを受けた」と訴えることも考えられますし、
加害者でない人を、加害者だとまわりが追いつめてしまうことも考えられます。
加害者でない人が、自分のことを加害者ではないかと思い悩むことも
あるかもしれません
(本当の加害者は、そのように自分を振り返ったりはしませんが)。
それらのことに注意しつつ、それでもこの言葉が周知のものとなることで、
少しでも被害者の助けになればと思います。

 参考文献:『モラル・ハラスメント――人を傷つけずにはいられない』
       /マリー=フランス・イルゴイエンヌ 著 高野優 訳/紀伊國屋書店


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