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モラルハラスメント

          1.見えにくい


この「モラルハラスメント」で特徴的なことは、
それが精神的・心理的なことであるため、まわりに被害が見えにくく、
証拠を示すことが難しいということです。
そのため、他の人に説明してもなかなかわかってもらえません。

また、加害者は被害者のほうに問題があるとか、
自分こそが被害者であるなどの主張をします。

被害者は、まわりの人からも「あなたにも悪いところがある」と言われ、
加害者に抵抗することも、加害者から逃げることもできない状況に
追い込まれていきます。

ここでは、まず、この被害者にとって一番辛い、
「見えにくい」ということについて、説明してみたいと思います。

1.証拠がない
 1)証拠が残らない


この暴力は、家庭、学校、職場など、外部の人間の目に触れない、
密室性のあるところで行われます。
その閉じられた空間の中で、暴力は言葉や態度など
証拠が残らないものによって行われ、被害者の身体には表面上、
傷は残りません。
後で外部の人に証拠を見せたいと思っても、
暴力の手段も、暴力の痕跡も残っていないので、
わかってもらうのは非常に難しいのです。
たとえ身体症状に表れたとしても、
加害者の精神的暴力との因果関係を証明するのは難しく、
それどころか、「自己管理ができていない」、「あの人には子ども時代に
何かあったのよ」などと、新たな攻撃の材料を提供してしまうことにもなります。

また、このモラルハラスメントは、加害者からの直接の暴力だけではなく、
加害者の影響を受けた第三者からもふるわれます。
その場合、その第三者の暴力の証拠が残ったとしても、
加害者は第三者が自発的に行動しているように見せているため、
加害者自身の暴力の証拠は見つけられません。

 2)暴力だと思わない

ひとつひとつの暴力は、後で他の人に言葉で説明をしたところで、
暴力だと信じてもらえないことが多いのです。
被害者は、加害者がそれを承知していて、その範囲内で
暴力をふるっているのではないかと思うほどです。
たとえ、外部の人が見ている前でその暴力がふるわれたとしても、
被害者が暴力の証拠だと思うものが残っていたとしても、
それを見た人は暴力だとは気づきません。

しかし、加害者の言葉や態度の裏には、被害者に対する
人権侵害が隠されており、モラルハラスメントというメカニズムの中で
加害者によって浸食され、抵抗することも防ぐこともできない状態に
追い込まれた被害者だけが、その本当の意味を感じ取り、
傷ついていくのです。

2.外に対しての顔

加害者は外の人に向けてはいい顔をしています。
被害者というえじきを手元に確保しているのですから、
他の人にはいい人間としてふるまうことができるのです。
「まさかあの人が」という人が加害者である可能性が大きいということは、
よく言われるところです。

しかし、そのことが自分たちの身近で起こっているという認識が
まだあまりない今、社会的地位を獲得している人ほど、
カモフラージュしやすい現実があります。
加害者は権力を持っていることが多く、聖職と言われる人に
加害者がいることもあるのです。

3.カモフラージュ
 1)仲間を装う


加害者は、人の目があるときは虐待を悟らせないようにふるまいます。
対外的には仲のよいふりをし、仲間を装うのです。
もし虐待の途中で誰かが近づいてきたら、すぐやめることができ、
平穏を装います。
被害者の方も、他の人に説明してもわかってもらえるとも思えず、
また、本当のことを説明しようものなら、後でまたそれを理由に
暴力をふるわれることがわかっているので、従わざるを得ません。

 2)被害者を装う

加害者は対外的に、自分がいかに傷ついたか、被害者の面をつけて
出していきます。
「あの人は攻撃的だ」「あんなことを言うなんて」「私は傷ついた」
「こんなことをしたのよ」と、外に見せる行動では、あくまでも
自分は被害者であると主張するのです。
その前に自分が何をしたか、何を言ったかは問題にならず、
自分が被害者であると証明できるものは何でも、
ときには事実を歪曲してまでもまわりに主張していきます。
加害者は、被害者を装った加害者なのです。

 3)教育・指導という名のもとに

親や教師、上司など、立場が上の者から下の者に
モラルハラスメントが行われる場合、「教育」や「しつけ」「指導」
などという名のもとに行われることがあります。
「愛情」だとされる場合まであるのです。
それらの美名のもとに、モラルハラスメントの暴力性は
隠されてしまうのです。

4.秘密の強要

加害者は被害者に対し、秘密を守るよう強要します。
黙るよう圧力をかけるのです。
そのときも、はっきりとそう言葉にするわけではありません。
被害者の罪悪感や恥の感覚を利用し、また、
家族や会社のためであるとほのめかすことによって、
被害者自らが喋らないことを選んでいるかのように思わせるのです。



以上のように、加害者の暴力は何重にも覆い隠されます。
それは、まわりの人に対してだけではなく、被害者に向けても使われ、
そのために被害者自身、被害を受けているのかどうか自信がない
という状態が長く続きます。

次は、加害者が自分のしたことを合理化し、自分を正当化するための
メカニズム――被害者が反論し、自分を守ることを難しくするもの――
についてまとめます。


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