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モラルハラスメント

             おわりに

ここで、モラルハラスメントが進んでいく流れを、もう一度説明しておきましょう。

まず最初に、「支配の段階」があります。
それは、加害者が被害者を、なんらかの方法で惹きつけるところから
始まります。
そして少しずつ影響を与え、被害者の考えや行動をコントロールしていくのです。
その際、モラルハラスメントに特有の、ちょっとした嫌味や皮肉、ほのめかし、
相手を拒否するような口調や態度など、被害者を支配下に置くための攻撃が
使われます。
そのとき被害者は、自分のせいだと思ってしまったり、混乱して何も
考えられなくなったりし、次第に、相手の支配に組みこまれていくのです。

しかし、被害者が自分の尊厳を守ろうとして加害者に抵抗すると、加害者は
憎しみを感じます。
そしてそこから、はっきりと精神的な暴力をふるい始める「暴力の段階」に
入るのです。
中傷や罵倒などの言葉による冷たい暴力は、相手の罪悪感を刺激し、
相手に責任を押しつけるような巧みなやり方でふるわれます。
このときには、被害者の方もすでに精神的に支配されている場合が多く、
また、相手にそれほどの悪意があるとの想像もできにくいため、それが
暴力であると認識することが難しいのです。

その結果、被害者はひとりで責任を感じ、苦しんでいきます。
もし、それに耐えられなくなったり暴力だと気づいたりした被害者が、
加害者から離れようとすると、加害者は憎しみをあらわにし、今度は
明らかな悪意をもって、なお一層、被害者を攻撃していくのです。

これは、モラルハラスメントの被害を受けた人には、よくわかる話だと思います。
しかし、その他の人には、わかりにくいことかもしれません。
それでも、わたしたちの実感として、このようなモラルハラスメントは、
職場や学校、家庭の中などいたるところで確実に存在します。

これらの見えにくい暴力が存在すること、そしてそれは、被害者にとって
とてもつらく悔しい状況であること、そしてそれらの暴力は、わたしたちの意識の
持ち方によって気づくことができることなどを、より多くの人たちに理解して
いただきたいと切に願っています。

そして、わたしたちひとりひとりが、モラルハラスメントを少しでもなくす方向に
考え行動していくことが、すべての人の人権を尊重し、真に対等な人間関係を
つくっていく一助になるのだと感じています。

そもそもわたしたちには、その性別、年齢、人種、職業、能力などに
何ら関係なく等しくもっている、さまざまな権利があります。
その中には、「自分の感情と考えをもち、それを表現する権利」や、
「自分自身でいる権利」「尊敬をもって扱われる権利」
「自分のことを自分で決める権利」「恐怖を感じなくてすむ権利」
「不完全である権利」なども含まれています。

しかしモラルハラスメントの行われる場所では、それらの多くの権利が
侵害されてしまうのです。

じっくりと考えてみると、夫婦や親子の関係、教師と生徒、先輩と後輩、
上司と部下など、さまざまな関係の中で、これらの権利をないものとしたり
されたりしていることに気づかれると思います。
その中で、常に片方がもう片方を支配し、コントロールする関係が固定化
されてしまうと、さまざまな暴力が起きてしまいます。

その構図の中で、モラルハラスメントだけではなく、
ドメスティックバイオレンスやセクシュアルハラスメント、性暴力、子どもへの
虐待、職場でのいじめなど、さまざまな暴力や虐待が行われているのです。

もし、日常生活の中で、「うまく言えないけど、なんだか圧迫感を感じる」とか、
「いつもある人の顔色をうかがっている」「何か問題が起きると、自分が悪いような
気になる」「自分が価値のない、つまらない人間のように思えてしまう」などと
感じることがあるとしたら、あなたにそのように感じさせる相手の言動は
暴力なのかもしれません。

まずあなた自身が、あなたの感情や感覚を信頼してあげてください。
加害者は、あなたの落ち度を責めてくるかもしれません。
でも、自分が完璧で何の落ち度もなかったと証明しなければ、暴力を
ふるわれたと言えないなどということはありません。

あなたがもし、モラルハラスメントの被害を受けているとしたら、自分の人生が、
その基礎から崩れ去ってしまったかのような感覚になっているかもしれません。
それでも、あなたの存在を尊重し、等身大のあなたでいてだいじょうぶだという
安心感を与えてくれる人たちは、必ず存在します。
その人たちとつながっていくことで、あなたはしだいにまわりの人たちとの
関係を取り戻していき、そして自分自身への信頼感も取り戻していけるのだと、
わたしたちは信じます。

今は加害者の影響力を、自分を必ず脅かす魔術的な力のように感じられるかも
しれません。
それでも次第に、加害者の言葉に重きを置かないでいられるようになり、
そして、相手には自分を本当に支配する力などないのだということが
実感できるのだと思います。

自分を愛すること、または自分を愛することができると信じることで、
あなたが自分の中のパワーを実感できるようになることを祈っています。
        


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