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認 知 症
知っておいてほしいこと
認知症の人は、自分が憶えられなくなっていることや思い出せないことなどを
巧妙に隠します。
また、新しいことを憶える能力は低下しますが、社交性や人柄などは
あまり変わりません。
来客があるときは認知症の人も気を張ってがんばっているようで、
あまり認知症の症状が出ないことも多いものです。
短時間ならその状態は保てます。
そのため、認知症の人と一緒に住んでいる人は認知症だと気づいても、
たまにしか会わない人にはなかなかわかってもらえないのです。
介護について、家族間でしばしば意見が食い違うことがあるでしょう。
家族のみんなが認知症について理解していなかったり、
なぜ認知症の人がそのような行動をとるのかとか、
将来どのようなことが起きるのかがわかっていないために
起きることもあります。
認知症の人とともに住んで日々の介護をしていない人は、
認知症や認知症の人の介護がどういうものなのか理解しないまま、
批判的になることもあります。
外部の人にとっては、日々の継続的な介護がどのように大変であるかを
理解することは難しいのです。
そのため、認知症の人が言ったことやしたことでつらくなった介護者が、
そのことを周りの家族や親戚に話した場合、
「いくら何でもそんなことは言わないだろう。そんなに非常識じゃないよ」
と言われることもあるでしょう。
そう言われると、介護者は、自分の言葉を信じてもらえない寂しさと
怒りを感じるものです。
「そんなつもりじゃないと思うよ」とか「こんなふうに考えたら?」と言われたら、
「こんなふうにしか受け取れない私が悪いっていうこと?」と思います。
「はじめは、なるべくいい方に受けとめようとしたのよ。
でも、もう限界なのに、わかってはくれないの?」と思い、悲しくなります。
「がまんしてくれ」と言われても、
「今まで、がまんしてたの。もう限界なの」と思うし、
「そんなふうに受け取られたら、本人がかわいそう」という言葉は、
「そんなふうにしか受け取れないあなたが悪い」と言われているようです。
「悪気はないんだから」という言葉には、
「悪気がなかったら何を言ってもいいの?」とか、
「どんなつもりだったとしても、言われ続ける私はかわいそうじゃないの?」
という思いが浮かびます。
そのような言葉の最初に必ずつく「でも」という言葉。
これは禁句だと思います。
それを言われたとたんに、受け入れてもらえない感じがして、
一層傷つくのです。
認知症の人の介護は、家族にいろいろな思いを起こさせます。
重労働、経済的な負担、
愛する親や配偶者は決してもとのようには戻らないという現実、
いつ終わるかわからない介護、責任について、
親子関係や夫婦関係の変化、家族間での意見の不一致、
嘆き、落胆、孤独、怒り、うつ、など。
認知症のための症状は、
認知症になる前の性格が症状を左右するという説もありはしますが、
それでも病気の症状であり、人格の問題ではありません。
とはいえ、いろいろな症状を見せられる介護者にとっては
つらいことです。
介護者は認知症の人の「症状」を話していても、話された他の家族は、
認知症の人の「人格」をけなされているように感じることもあるでしょう。
そのため、家族がきちんと話を聞かなかったり、
けんかになることもあります。
また、家族の中で、何か違和感を感じながらも
今まで真剣に向き合わないで済ませられてきたことに、
向き合わざるを得ない状況に追い込まれる感じがすることもあります。
別れる覚悟で、たくさんのけんかをし、
たくさん話をしていくこともあるでしょう。
そのようにしながらも、認知症の人の介護を通して、
なおいっそうの親密感や一体感を感じる家族もあります。
しかし、家族間の衝突や以前の不和を
再燃させるようなことにもなるのです。
家族間に不和が生じたり、介護の重荷がひとりだけに
かかってしまっている場合は、問題は深刻になります。
認知症の人の介護をたったひとりですることは、無理なことです。
家族全員で介護をし、周りのいろいろな人にも助けてもらい、
社会的な資源も充分に活用しましょう。
また、子どもがいる場合は、小さな子どもであっても、
できる限りわかりやすく認知症について話をし、介護に参加させましょう。
認知症の人と遊ぶ、歌を歌うなど、子どもにもできることはたくさんあります。
そのとき、認知症の人が悪いことをしたからこうなってしまったのではない
ということは、よく説明してあげてください。
認知症の人の介護は、何か特別なことをするというより、
ただ、日々ともに暮らす、ともに生活をするということなのかもしれません。
腹が立つこともあります。けんかをすることもあるでしょう。
いっしょに楽しむことも、いっしょに悲しむこともあるかもしれません。
認知症の人にとって居心地のいい空間、居心地のいい会話は、
たぶん、認知症でない人たちにとっても、
居心地のいいものなのではないでしょうか。
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