それでは、『伊賀の聴恋器』の第一話です。
* 『伊賀の聴恋器(ちょうれんき)』 51p * .
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『伊賀の聴恋器(ちょうれんき)』は、傑作『忍法笑い陰陽師』と相通じる、コミカル短編忍法帖です。
まずは、服部大陣(はっとり たいじん)の発明した摩訶不思議「聴恋器(ちょうれんき)」の説明を読ん
でいただきたい。読んで笑っていただきたい。
ここで、『ボクの忍法ローリング・スクラッチ・ホールド』又の名を
『忍法いつもの丸写しシリーズその38』だよん。 (^ ^;
それはどんなものかというと──まず現代の医者の使っている聴診器を頭に浮かべていただき
たい。
耳にさしこむ方は細い竹製になっており、それにつながれた革製の管はすぐに合して一本とな
る。その接続が彼の最も苦心したところであり、その皮を猫の皮にしたところは、反響のいい三
味線からヒントを得た彼の味噌である。ただ現代の聴診器は、その他方の尖端に象牙製の円筒が
ついていて、これを患者の肺部とか心臓にあてるのだが、彼の道具はまたもそこで管が二つに
分れ、それぞれの先に円筒ではなく、ぐいのみみたいなものがくっついている。
さてそのぐいのみみたいなものが何でできているのかというと、それが奇絶怪絶で、一方は男
性の陰嚢の皮を蔭干しにして、なめして、二重に貼り合わせて作りあげたもので、原料は死罪場
から仕入れて来た。赤黒色に白い粉をふいて、みるからにうす気味が悪い。彼はこれを陽恋盃と
称した。
他方は──実は彼はそれも死罪場から女の子宮をもらって来ようとしたのだが、係りの役人が男
の死罪人の陰嚢は無造作に払い下げてくれたにもかかわらず、女の死罪人の子宮は「何にするの
だ」と難色を示したし、それに実は彼も子宮を果してなめすことが出来るのか、いささか自信が
持てなかったから──これは手持ちのはまぐりを、貝細工職人のところへ持っていって、盃様の
ものに作ってもらった。これを彼は陰恋盃と称した。
一方は陰嚢で、一方は貝殻とは甚だ不つり合いだが、どうにもやむを得ない。
「さて、この陰恋盃をじゃな」
「つまり貝殻の方か」
「左様、男のふぐりにぴったりとあてる。すると──」
「海の響(ひびき)が聴えて来やしないか」
と、いったのは南蛮好みの旗本であったが、大陣には何のことだかわからない。
「うんにゃ、精汁のどよめきが聴える」
と、大まじめでいった。
実は、彼も自分の発明に半信半疑のところがある。お万さまを見たとき、たしかに睾丸のひし
めき合う音をほんものの耳で聴いたような気がしたが、事実、この道具を作り出してから、お万
さまのことを頭に描きつつ自分のふぐりで実験してみたら、たしかに何やら音響が聴えたのであ
る。
「一方で、陽恋盃の方をじゃな」
「きんたまの皮か」
と、殺風景な用語でたしかめたやつもある。
「女の子宮部にぴったりとあてる。──」
「どこだ、それは」
「へその下あたり──まあ下腹部界隈じゃ」
少々あいまいな表情をしたが、相手は昂奮した。
「そんな、干し柿みたいなものより、ほんものをそこにぴたりとあてたらどうじゃ」
「馬鹿、そういうふるまいに及んでよいか悪いかを事前に調べるための診断ではござらぬか。
だいいち、そのほんものにはすでに陰恋盃がぴったりくっついておるのじゃから、そんな面積の
余裕はない」
「あ、そうであったな。──で、聴えますか、女性にくっついたその干し柿、いや陽恋盃の方
も子宮の音を伝えますか」
「伝えます。実に迦陵頻伽(かりょうびんが)のような妙音が。もっとも、相手に惚れた場合にかぎる
が」
大陣は力強くいった。ほんとうのところは、こっちは自信がない。自信がないための強調だが、
とにかくこの聴恋器の効能は法螺を吹かなければならない。
「いや、それよりも陰陽相合したときの妙音を何に例(たと)うべきか」
うっとりといった。
「たとえ、男のみ大音響を発しても女人のほうは何の音も発せぬことがある。たとえいかな
る嬌態でだましても卵子の方はごまかされぬ。また例えば、いかに好色漢であろうと爺いなど、
どれほどもがいても睾丸は虫のごとき音しか発しておらぬ。すべて、それらを見分けるのがこ
の聴恋器でござる。これは閻魔の浄玻璃鏡(じょうはりきょう)であり、また天の声である」
そして、おごそかにいった。
「聴いて進ぜる。貴公の妻にしたいと思うておる女人をつれてござれ。──」
そういわれても、おいそれと同伴でやって来て、精子と卵子の合奏を聴いてもらおうという人
間は──とくに女性は──そうあるまいと常識では思われたのだが、それが案外そうでもなかっ
た。
(丸写しオシマイ)
『ボクの忍法ローリング・スクラッチ・ホールド』又の名を
『忍法いつもの丸写しシリーズその38』でした。(バカだねぇ)
「忍者はもはや時代遅れだ」
忍び組服部組の一門、服部大陣(はっとり たいじん)は
公然と批判する
「しょせんは匹夫下郎のわざだ、といいたいが、それ以下だ」
「火つけや闇討ちや泥棒を得意とする集団が
これからの時代に珍重されるわけがないじゃないか」
クールなはずの大陣が
柳生宗矩の娘お万さまに惚れてしまって
てんやわんわ抱腹絶倒ずっこけ咄
恋のライバルは柳生一門の三剣士
腕にも顔にも自信がない
得意は弁舌とはったり
「卵丸交響説」と摩訶不思議「聴恋器(ちょうれんき)」
めざすは恋の勝利者
さぁどうなる服部大陣の片思い
『伊賀の聴恋器(ちょうれんき)』
***
( 注:*は手裏剣のつもり
(^ ^; )
(これがいわゆる、”少年摩羅人アルク・コーガン”の
『失笑・スピロヘータネッチョリ目線:流し目波状攻撃』part60
っつーこと? あ、ごくろうさんpart60)
インテリ忍者のずっこけ咄、『伊賀の聴恋器(ちょうれんき)』をどう読んだかな、明智君、むははは
は。
◆オレのオモシロ度(初読)=★★ (★5つが最高。)
◇ボクのオモシロ度(再読)=☆☆☆
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ボクの「伊賀の聴恋器(ちょうれんき)」データ * 。
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えー、これはボクの個人的趣味です。
忍法名とか脇役陣とか時代とかをExcelで並べ替えして遊ぼっかな、っつーつもり。
えー、今回は忍法は登場しません。が、しかし、主人公服部大陣(はっとり たいじん)が発明した
抱腹絶倒の道具がいくつも登場しますので、ボクが勝手に『忍具』と名付けちゃいました。笑っ
て許していただきたい、むほほほほ。
忍法帖第?作目
初連載誌:オール読物1972年11月号
(山田風太郎50歳:執筆時)
時代設定:元和2年夏〜3年5月半ば(1616〜1617)
登場人物
伊賀忍者
@服部 大陣(はっとり たいじん)忍び組服部組の一門。26歳位。
:忍具聴恋器(ちょうれんき)(陰嚢の皮をなめした陽恋盃を女陰にあてがい、貝殻で造
った陰恋盃をふぐりにあてがい男女の相性の音を聴診器のように聴く摩訶不思議な道
具。服部大陣が発明する。服部大陣の怪説「卵丸交響説」によると、男女の相性が良
いと卵子と精子が交響曲のような妙なる音色を発するという。)
:忍具軽松明(かるたいまつ)(移動用照明具。服部大陣が発明する。)
:忍具錨縄(いかりなわ)(縄の先に小さな錨をつけた武器兼登攀用具。服部大陣が発明
する。)
:忍具浮踏(うきふみ)(革袋に息を吹き込む遊泳具。服部大陣が発明する。)
:忍具聴金(ききがね)(一種の聴音器。朝顔大のラッパを二つ作り、その間を革製の管で
結び、一方を目的の場所におき、管をのばして遠いところで一方を耳にあてるという道
具。聴恋器の母胎となる。服部大陣が発明する。)忍法名使用せず&不明
A服部 半蔵(はっとり はんぞう)初代服部半蔵は慶長元(1596)年に死去・八千石の服部石見守
(いわみのかみ)・江戸城の半蔵門にその名を残す。忍法名使用せず&不明
脇役陣
@与謝 蕪村(よさ ぶそん)江戸時代の俳人。
「甲賀衆が忍びの賭(かけ)や夜半(よは)の秋」という句を詠んだ。
A柳生 又右衛門 宗矩(やぎゅう またえもん むねのり)徳川家の剣の師範。3千石。柳生石舟
斎新左衛門宗巌の五男。のちの柳生但馬守宗矩。45歳位。
Bお万(おまん)柳生又右衛門宗矩の娘。19歳位。
C柳生 七郎(やぎゅう しちろう)柳生又右衛門宗矩の息子。10歳位。のちの柳生十兵衛。
D曳馬野 玄馬(ひくまの げんま)柳生一門の高弟。27歳位。
E酒巻 源左衛門(さかまき げんざえもん)柳生一門の高弟。27歳位。
F野寺 知之丞(のでら とものじょう)柳生一門の高弟。21歳位。
Gお葦(おあし)柳生家の遠縁の娘。
Hお市(おいち)柳生家の侍女。
I坂崎 出羽守(さかざき でわのかみ)徳川家康の家臣。元和元(1615)年5月8日大阪夏の陣の
時大阪城から千姫を救い出す。宇喜多中納言秀家のもと家臣だったが徳川家に仕え
る。
J宇喜多 豪兵衛 猛秀(うきた ごうべえ たけひで)宇喜多中納言秀家の妾の子。
K張飛(ちょうひ)古代中国の三国志の蜀の豪傑。
L宇喜多 中納言 秀家(うきた ちゅうなごん ひでいえ)慶長5(1600)年9月15日関ヶ原の戦の西
軍豊臣方の総司令官。戦国武将。敗れて八丈島に流罪となつ。
Mドヴォルザーク(どう゛ぉるざーく)クラシック「新世界から」の作曲家。
Nジャンヌダルク(じゃんぬだるく)イギリスとの戦いでフランス軍を勝利に導いた娘。魔女として火あ
ぶりにされた。
Oマルキ・ド・サド(まるき・ど・さど)フランスの作家。「悪徳の栄え」「ジェスティーヌ」などの著作。
サド・マゾの語源となる。
Pマゾッホ(まぞっほ)作家。サド・マゾの語源となる。
Q千姫(せんひめ)徳川秀忠の娘。徳川家康の孫娘。亡き豊臣秀頼の妻。
R本多 忠刻(ほんだ ただとき)豊臣秀頼死後、千姫の夫となる。
* ボクの「伊賀の聴恋器(ちょうれんき)」データ おしまい*
ではでは、出羽の守、大変長らくお待たせいたしました。
今週のメイン・イベント (^ ^; あり??? 何か変よ。 え? あいむ・そりい?
あいむ・そりい!
『伊賀の聴恋器』は短編集なので、
いかがわしいシーンがほとんどありませんので、
『声に出して読めたらエライ禁断の伊賀の聴恋器』 (^ ^; .
のほぼすべての短編は、お休みさせていただきます。ご了承ください。
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何だこりゃ?っつー肩すかしで、ごめんネ。だって、スケベシーン過激じゃないんだもん。
『声に出して読めたらエライ禁断の伊賀の聴恋器のほぼすべての短編』 (^ ^; は、お休みでした。
ほぼすべて???っつーことは???すべてじゃぁない、っつーこと???
◆オレのゴックン度(初読)=お休み (★5つが最高)
◇ボクのゴックン度(再読)=お休み
* 「伊賀の聴恋器」の巻 おしまい *
2004.04.09.(また読者が減っちゃったかな)
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