『チャーシューの”行く春”』(文:東海林さだお) 読んでネ。(^ ^;

    チャーシューは、

    ラーメンの丼の中では

    とてもエラソーにしている。    
   海苔、メンマ、ナルトなどと一緒に並んでいると、   
   一族の長という貫録さえ感じさせる。   ラーメン屋でラーメンを注文し、
   湯気を上げたラーメンが到着すると、
   大抵の人はその全容を一応点検する。      スープの脂の光り具合、ネギの浮き沈み、メンマの質、 
   フーン、この店では
   海苔をこういうふうに丼のフチに立てかけるわけね。      そうしてチャーシューを見る。
   「居てくれたのね」
   海苔やメンマやネギに投げかけたときと    
   まったく違う尊敬の眼差しになる。   常々チャーシューを尊敬している若い人などは、   
   「いらしてくださった」
   というふうに尊敬語を使う。
   その分、海苔やメンマやナルトに対しては、
   「おー、いたか」
   と横柄になる。
    ↑        ↓    カーソル↑をイラストの上に置いて見てね。   ↓    ↑
    チャーシューは、ラーメンの丼の中では     
    まちがいなくキャリアである。
    いきなり本部長。
    メンマが準キャリで、
    ナルト、モヤシ、ワカメ、ネギなどは
    明らかにノンキャリということになる。

         丸写しです。  「今度はチャーシューが怖い」
                 ★新日本トホホ普及協会    
   


『紹介おもしろ文庫part2』
文春文庫『昼メシの丸かじり』 東海林さだお著(476円+税)46pより、

   チャーシューの”行く春”

                 を原文まるごと紹介してみたい。
                  (但し、絵はガマンしてネ)
                   「ここで笑わないと笑うトコもうないよ」

  チャーシューの行く春”』

 チャーシューは、ラーメンの丼の中ではとてもエラソーにしている。
 海苔、メンマ、ナルトなどと一緒に並んでいると、一族の長という貫録
さえ感じさせる。
 ラーメン屋でラーメンを注文し、湯気を上げたラーメンが到着すると、
大抵の人はその全容を一応点検する。
 スープの脂の光り具合、ネギの浮き沈み、メンマの質、フーン、この店
では海苔をこういうふうに丼のフチに立てかけるわけね。
 そうしてチャーシューを見る。
「居てくれたのね」
 海苔やメンマやネギに投げかけたときとまったく違う尊敬の眼差しに
なる。
 常々チャーシューを尊敬している若い人などは、
「いらしてくださった」
 というふうに尊敬語を使う。その分、海苔やメンマやナルトに対しては、
「おー、いたか」
 と横柄になる。
 チャーシューは、ラーメンの丼の中ではまちがいなくキャリアである。
 いきなり本部長。
 メンマが準キャリで、ナルト、モヤシ、ワカメ、ネギなどは明らかにノン
キャリということになる。
 特にネギはノンキャリ中のノンキャリで、いくら頑張ってもウエには行け
ない。どう頑張ってもネギ止まりで終わる。
 ところが、こうしたチャーシューも、チャーシューメンの丼に配属される
と様子が一変する。
 まわりは本部長だらけだ。
 右を見ても本部長、左を見ても本部長。
 ビールなどを出すラーメン屋では、チャーシューをおつまみとして出す。
 ちっぽけな皿に、四、五枚のチャーシューが少しずつずらされて並ん
でいる。本部長が折り重なっているのだ。
 先頭の本部長が転んで将棋倒しになっているのだ。
 だからラーメン屋の厨房にいるときのチャーシューは、どこに配属され
るか戦線恐々としているはずだ。
 おつまみの皿にだけは配属されたくないと思っているはずだ。
 実際、ラーメンの丼の中で、あれほどゆったりとくつろいで、我が世の
春を謳歌していたチャーシューとは思えない、なんとみすぼらしく、なん
と貧寒としていることか。
 全員板のように硬直し、全員緊張気味で表情も硬い。
 実際に口に入れても、ラーメンのツユの中にひたっていたときの、あ
のおいしいチャーシューとは思えないほど味気ない。
 地位が人をつくるのだ。
 ラーメンのツユがチャーシューをおいしくしているのだ。
 ラーメンの丼の中で、熱いスープにひたっていてこそチャーシューは
おいしい。熱いスープの中で、沈むがごとく、浮かぶがごとく、沈みき
ってもダメで浮いていてもいけない。
 家屋でいうと床下浸水。
 最初板みたいに硬直していたチャーシューが、スープの熱で少しネジ
レ、少しヨジレ、少しチヂレた、世に名高い”チャーシューの三ジレ”
が、食べ手をしてカジレという気にさせるのである。
 そうなのだ。かじってこそチャーシューなのだ。
 そう多くはないが、たまにチャーシューを細切りにしてのせている店
があるが、あれはいけません。
 再び言うが、かじってこそチャーシュー。
 ラーメンをすする合間合間に、少しかじっては戻し、また少しかじっ
ては戻し、少しずつ小さくなっていく一片の、”行く春”を惜しむところ
にチャーシューの風情があるのだ。
 人によって好みは異なるだろうが、チャーシューは脂の多い三枚肉、
バラ肉にとどめを刺す。
 豚肉のおいしさは脂のおいしさ。チャーシューのおいしさも脂のおい
しさ。ナーニが肩ロースだ、ナーニがモモ肉だ、ナーニがウチはヒレで
す、だ。
 ぼくなんか肉のとこは要りませんね。迷惑ですね。一片全部脂んとこ
でもかまいませんね。
 でも、ま、それは人好き好きだ。
 だから好みのチャーシューを注文できる店もある。
 阿佐ヶ谷の「航海屋」は、「赤身」「中トロ」「大トロ」と称し、もちろん大ト
ロが一番脂の部分が多い。
 全部入り、なんて、時にはゼイタクしてみるのもわるくないかもしれま
せんね。
 チャーシューがデカイのが自慢、という店もよくある。
 新宿の西口の「萬来」がそれで、厚さ四センチなんてのが入っている。
 いきなり警視総監のお出まし。
 警視総監が三人も入っていて、警視総監を一人ずつかじることになる。
 かじってもかじっても警視総監。
 こうなるとラーメンを食べている、というより警視総監を退治している、
というような気分になる。
 このように、ラーメンの周辺では権勢を誇るチャーシューも、ひとたび
高級中華料理店に配属されると地位は更に低下する。
 チャーシューは、コース料理の最初の前座として出てくる。
 蒸し鶏、クラゲ、ピータン、アワビの冷製などといっしょに皿に並ぶ。
 どう見ても、この皿の中ではチャーシューの地位が一番低い。
 ラーメン屋では本部長だったのに、ここではノンキャリである。
 チャーハンの中にはこま切れ状態になって配属され、ノンキャリ以下、
パートのおじさん扱いとなる。
 チャーシューがラーメンを懐かしがるゆえんである。

 
 


        最初板みたいに硬直していたチャーシューが、
   スープの熱で少しネジレ、少しヨジレ、少しチヂレた、   
   世に名高い ”チャーシューの三ジレ” が、
   食べ手をしてカジレという気にさせるのである。


       そうなのだ。かじってこそチャーシューなのだ。         そう多くはないが、たまに
   チャーシューを細切りにしてのせている店があるが、   
   あれはいけません。         再び言うが、かじってこそチャーシュー。         ラーメンをすする合間合間に、
   少しかじっては戻し、また少しかじっては戻し、   
   少しずつ小さくなっていく一片の、
   ”行く春” を惜しむところに
   チャーシューの風情があるのだ。
 
 


    最近のラーメンブームの過熱ぶりはすごい。    
普通のラーメン

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『ゴハンの丸かじり』 東海林さだお著。いつもの丸写しです。(^ ^;
                          ラーメンつながりです。見てネ。(^ ^;
 
 

   讃岐で、
   自分でうどんチャッチャをやって以来、   
   すっかりやみつきになり、
   立ち食いそば屋に行くたびに
   店主がチャッチャするのを見ては、
  「いいな、チャッチャできていいな」
   とうらやんでいたのだった。
セルフのうどんの店
 
 





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   人によって好みは異なるだろうが、
   チャーシューは脂の多い三枚肉、
   バラ肉にとどめを刺す。
   豚肉のおいしさは脂のおいしさ。
   チャーシューのおいしさも脂のおいしさ。   
   ナーニが肩ロースだ、
   ナーニがモモ肉だ、
   ナーニがウチはヒレです、だ。

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