「睦(むつみ)」(東中野)

 JR東中野駅西口から徒歩1分足らずの便利な場所にあって、おいしい酒と肴、そして手打ちソバを楽しむことができる。他の飲食店も軒を並べるビルの1階に店を構えていて、定員20人ほどのこじんまりとした感じの蕎麦屋である。
 ここでは、ソバを食べる前に、多彩な酒の肴をつまみに日本酒や焼酎を楽しみたい。日本酒は「黒龍」、「〆張鶴」、「磯自慢」、「八海山」などを定番として、その他各地銘醸蔵の酒が揃っている。焼酎のほうも、鹿児島の本格いも焼酎がいろいろとメニューに載っている。
 酒の肴は、「玉子焼き」や「そばがき」など蕎麦屋定番の品の他に、季節の旬の食材を使用した料理や、ご主人が工夫を凝らしたオリジナル料理が用意されている。
 たとえば、ある日の「酒肴三点盛り」は、カマンベールの天ぷら酒盗添え、スダチ風味のいかソーメン、屋久島産トビウオの燻製胡桃和えという三品。「鯵のなめろう」や「鯵のたたき塩昆布あえ」には、鯵をおろしたあとの骨をそのまま揚げたものが添えられ、これが香ばしくてとてもおいしい。また、「いかの和風カルパッチョ」は焦がしネギ醤油が淡白ないかの味を補い美味。「地鶏の塩焼き」もしっかり歯ごたえがあって旨味がある。

 旨い酒と肴に、ついつい蕎麦屋であることを忘れてしまいそうだが、最後はしっかりソバでしめたい。
 冷製のソバは、正方形の笊に盛られた「もりそば」(650円)と「細打ち荒挽きそば」(680円)の2種類。「もり」は、蕎麦の香りはおとなしいが、なめらかな食感、中細打ちのソバである。「荒挽き」は、やや平打ちの麺で田舎風。黒い外皮が所々に打ち込まれているが、同じくなめらかな喉越しである。合わせるツユは、やや塩味が強く濃い口なので、ソバの風味を消してしまう感じがする。
 女将さんの接客対応も気持ちよく、居心地はよいのだが、混雑してくると、どうしても人手不足の感が否めない。それでも、酒と肴の楽しみがあって、一度行くと何度も通ってしまう蕎麦屋である。

味3、雰囲気3、対応3、CP3 計12

評価時期 平成18年3月11日

データ 中野区東中野4−4−5 03−5389−1450 11:30〜13:30 18:00〜22:00 日曜・祝日休み

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「一 喜」(大泉学園)

 西武池袋線の大泉学園の駅から歩くこと10分余り、住宅街の中にさりげなく店を構えている。若い夫婦が2人で切り盛りしていて、店内は、テーブル席と座敷席合わせて20席ほど、こじんまりとしている。
 自家製粉の店ということで、店内の片隅では電動石臼が、営業時間中も、ガラガラと音をたてて回っている。茨城県の金砂郷産、常陸産、水府産などの蕎麦の実を挽いている。
 この粉を使って打たれる冷製のソバは、外二の小麦粉を加えて打った「せいろ」(800円)と「生粉打ち粗挽きせいろ」(1000円)の2種類。
 「せいろ」は、やや太さにムラのある細打ち、香りはおとなしいが、みずみずしいツヤがある。しっかりとコシを残した茹で方である。また、「生粉打ち粗挽きせいろ」は、蕎麦粉十割で打った、同じく細打ちのソバ。やや黒っぽく、外皮が混じっている。ゴワゴワ感はなく、なめらかな口あたりだ。合わせるツユは洗練されているが、やや濃くて、しょっぱい。

 大盛はないので、足りない場合は、やや小ぶりの笊に盛られた「追加せいろ」(400円)、「追加生粉打ち」(600円)を注文することになる。
 酒と肴も充実している。「加賀鳶」、「菊姫」、「浦霞」、「黒牛」など地方の地酒が10種類以上。肴のほうは、蕎麦屋定番の「板わさ」、「あげそば」、「だし巻玉子」、「鴨焼き」などの他、「穴子天ぷら」、「活車天ぷら」、「狸天ぷら」(かき揚げ)などがメニューに載っている。
 若い女将さんのさわやかで気配りのある対応も気持ちよく、多くの地元客に愛されている店のようである。

味4、雰囲気3、対応4、CP3 計14

評価時期 平成14年8月26日

データ 練馬区南大泉5−1−9 03−5387−4643 11:30〜20:00 火曜休み

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「信 濃」(高円寺)

 JR高円寺駅南口のパル商店街から、少し脇道に入ったところにある、さりげない町場の蕎麦屋である。しかし、入口のすぐ横には、ガラス張りの打ち場、店内へ入れば電動石臼があって、自家製粉の手打ち蕎麦屋とわかる。店内はテーブル席のみだが、けっこう広々としていて、30人は座れるだろうか。
 ご主人が作る手打ちソバは、「ざるそば」と「生粉打ちそば(十割そば)」、それと柚子切りなど季節の「変りそば」という3種類。
 「ざるそば」(650円)は、やや太めのみずみずしいソバ、香りはおとなしいがしっかりとしたコシがあっていかにも手打ちソバらしい。
 また、「生粉打ちそば(十割そば)」(850円)は、黒っぽくさらに太いソバ、やや平打ち気味で、ツルツルというよりよく噛んで食べるという感じだ。屋号が示すとおり、長野県へ行くとよくこうしたタイプのソバに出会う。

 いずれも丸い竹編みの笊に盛られ、大盛がプラス150円、海苔かけがプラス50円である。合わせるソバツユは、残念ながら、醤油味が強くしょっぱいのが気になる。個人的には、もう少し甘味とコクがほしい。
 メニューの品数はしぼっているようで、種物はそれほど多くないが、「野菜天ざる」はナス、カボチャ、サツマイモなど野菜の天ぷらがたっぷりの付いていて、空腹の時にはお薦めである。また、夏季に登場する「冷かけそば」もおいしい。冷したぬきソバ風に、揚げ玉、刻み海苔、鰹節、胡瓜の繊切り、蒲鉾繊切りなどたくさんの具材が盛りつけられている。
 帰りがけに、いつも声をかけてくれる気さくなご主人が、楽しんでソバを打っている蕎麦屋のようである。

味3、雰囲気3、対応3、CP4 計13

評価時期 平成18年3月22日

データ 杉並区高円寺南3−44−15 03−3314−0248 11:30〜14:30 18:00〜22:00 毎月15〜19日休み

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「すず木」(南大泉)

 西武池袋線の保谷駅から歩いて5分ほど、ほうや幼稚園のすぐ近く、住宅地の中にひっそりと店を構えている。真っ白い壁とコンクリート打ちはなしの壁を組み合わせた外観。入口の足元にはまぶしく輝く白い玉砂利が敷かれている。店内に入ると、今度は大谷石の壁があったり、洒落た小物がたくさん飾ってあったりして、ほとんど蕎麦屋に来たことを忘れてしまう雰囲気である。
 このトレンディーな16席ほどの小さなカフェ・レストランのような蕎麦屋を切り盛りするのは、やはり都会的な感じのする若い夫婦二人。接客も含めて、二人で息の合った仕事を見せてくれる。
 ソバは、基本となる「せいろ」が800円(おかわりはプラス500円)。蕎麦粉十割で打たれ、素麺のように極細の、繊細なみずみずしいソバである。香りはそれほど強くなく、おとなしい感じだ。
 ソバツユは、とても洗練されていて絶品だが、繊細なソバに合わせるにはやや濃い印象を受ける。

 また、同じく蕎麦粉十割の「石臼手挽きせいろ」が用意されていることもある。粗挽き粉の粒が際立っている、やはりみずみずしいソバ。少し短く切れているが、ヌメリのある食感があって蕎麦の旨みを感じる。
 メニューの品数は厳選されていて、それほど多くないが、「おまかせ肴」(1000円)、「そば三昧」(1500円)、「そば天楽」(2000円)などのおまかせコース料理は内容が充実している。
 「そば豆腐」や「そばがき」などいわゆる蕎麦料理の他、サラダやおひたし、香の物といった自家製の肴がとてもおいしく、思わずビールや冷酒で一杯やりたくなる。ポテトサラダのバルサミコソースがけなど、新しい感覚の料理に出会うこともある。酒は、宮城「墨廼江」、福井「黒龍」、石川「菊姫」といった地酒が揃っている。
 プチ・レストランに来た気分で、おいしい創作料理とソバを、ゆったりと楽しむことのできる店である。

味4、雰囲気4、対応5、CP3 計16

評価時期 平成14年10月5日

データ 練馬区南大泉4−43−32 03−5387−2010 11:30〜14:30 17:00〜20:00 月曜休み

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「出雲そば本家」(神保町)

 東京における出雲そばの老舗である。神保町の交差点近くの路地を入ったところにある。数年前に店の場所が若干移動し、風格のある建物に建て替えられた。店内へ入ると、正面右にガラス越しの打ち場、左にはやはりガラス越しに電動石臼を臨むことができる。
 打ち場は広々としていて、二人の職人が同時に延しの作業が可能なスペースとなっている。演出過剰な感じもするが、この打ち場前のカウンター席に座れば、職人が見る見るうちにソバを打ち上げていくところを目のあたりにしながら、酒やソバを楽しむことになる。
 1階は、テーブルや椅子、天井など、黒で統一されたシックな雰囲気、2階も和風のテーブル席と座敷席があって、とても落ち着いた空間となっている。以前の店ではなかったBGMも、クラシックやヒーリング系の音楽が静かに流れている。
 伝統の割子そばの味は昔から変わらない。割子は3枚からで、1枚400円。腹具合に合わせて、何枚でも追加することができる。ソバは、黒っぽい細打ち、しっかりとコシがあり、噛んで味わうソバ。外皮が打ち込まれていて、ざらつく食感だが、風味はとてもよい。

 薬味は、鰹節、刻み海苔、刻みネギ、モミジおろし、うずらの玉子、梅干。これらをお好みで、各割子にのせて、ツユをぶっかけながら食べる。ツユは濃くて、かなり甘辛いので、かけ過ぎないように注意する必要がある。モミジおろしも、唐辛子が甚だ利いているので、使いすぎには注意である。最後に残ったツユに混ぜて飲むソバ湯は、ドロッと濃くておいしい。
 夜は、「豊の秋」や「李白」、「天界」など島根の地酒と多彩な肴を楽しむことができる。「あぶりめのは」、「のやきかまぼこ」など、やはり島根の酒の肴と合わせるのもよいだろう。
 おいしい蕎麦屋の集中している神保町界隈でも、別格の位置を占める名店である。

味4、雰囲気4、対応4、CP3 計15

評価時期 平成17年2月14日

データ 千代田区神田神保町1−31 п@03−3291−3005 11:30〜20:30(土曜は〜15:30) 日曜・祝日休み

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「玄 菱」(神楽坂)

 地下鉄東西線、神楽坂駅の早稲田寄り出口から地上に出て、さらに少し早稲田方面へ歩いたところに、ひっそりと暖簾を掲げている。狭い間口から中へ入ると、右手に電動石臼の置かれたソバ打ち場があり、左手にはテーブル席が整然と奥まで並んでいる。せいぜい20席ほどだろうか、一番奥には少人数が座れる座敷席もあるが、こじんまりとしていることに変わりはない。
 BGMは流れていないが、照明を少し落としていて、とても落ち着いた雰囲気である。
 ソバを味わう前に、充実した肴で、恵比寿樽生ビールや「大雪渓」、「菊姫」、「繁枡」、「富久鶴」などの地酒を味わいたい。
 ボリュームのある「玉子焼き」は特にお薦め。大きさが大、中、小とあって、人数に応じて選ぶことができるが、小でも一人で食べるとなるとかなりの量である。しかし、だし汁のたっぷりとしみ込んだやわらかい玉子焼きは、ジューシーで甘味が少なくて、とてもおいしい。
 その他、季節の食材を使った肴のあれこれ、「やきみそ」、「板わさ」、「鴨ロース焼き」、「にしん」など蕎麦屋定番の肴などで一杯やるのもよいだろう。

 メインのソバのほうは、「せいろ」、「田舎」(各650円)、「しらゆき」(750円)の3種類。いずれも長方形の笊に盛られ、大盛はプラス250円である。2種類を選んで、「二色」とすることもできる。
 「せいろ」は、やや太打ちで、かなりコシがある。香りはおとなしく、しっかりと噛んで味わうソバ。「しらゆき」は、やはり太めで、ほのかな甘味があって、上品な味わい。なめらかで、絹のようなコシである。そして「田舎」は、極太打ち。東京の蕎麦屋ではなかなかお目にかかれない太さで、山形天童の某ソバを思い出す噛みごたえである。合わせるツユは、けっこう濃い口である。
 また、「かき揚天せいろ」(1600円)も人気のメニュー。ミツバと小海老を使った巨大なかき揚が自慢である。サクッとした衣に箸を入れると、ピンク色の小海老がプリンとあらわれる。食感も見た目どおりで、満腹、満足の一品である。
 一人か少人数で、こっそりと訪れたい蕎麦屋である。

味3、雰囲気4、対応3、CP4 計14

評価時期 平成17年4月16日

データ 新宿区天神町2番地 п@03−3267−5122 11:30〜15:00 18:00〜21:30(土・日・祝日は17:30〜21:00) 原則無休

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