「浜町藪」(日本橋浜町)
創業は明治時代というから、藪系の蕎麦屋としては老舗中の老舗である。現在は、近代的なビルの1階にあり、店内もモダンな印象で、老舗らしい風情があまり感じられないのは残念である。しかし、老舗の伝統は、味のほうで継承されているようだ。
冷製の「せいろ」は600円(大盛750円)。藪系のソバらしい機械切りの細打ちで、風味がある。茹で方はやわらかいが、喉越しよくツルツルと食べることができる。
合わせるツユは、これぞ江戸前という伝統を感じさせる甘辛味。味わい深いツユで、ソバに少量からませると絶妙の相性である。
種物は、昔ながらの品揃えで、種類はそれほど多くない。「天せいろ」(1400円)は、海老の天ぷらが2本のみとシンプル。厚い衣に包まれていて個性的だが、ごま油で揚げられた天ぷらは、香ばしく、食感もすばらしい。
また、温製のソバもなかなかおいしい。「かしわ南ばん」(900円)は、上質の鳥肉とネギがたっぷりと入っていて美味。鳥の旨みが、だし汁をさらにおいしくしている。寒い時期は、身体が温まって心地よい一品である。
店のすぐ近くには、明治座の劇場もあり、観劇帰りの人や地元の人に愛されている様子である。
味4、雰囲気3、対応3、CP3 計13
評価時期 平成15年5月26日
データ 中央区日本橋浜町2−5−3 03−3666−6522 11:30〜19:30 日曜・第4土曜休み
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JR阿佐ヶ谷駅から、旧中杉通りの商店街を歩くこと15分近く、早稲田通りへ出るすぐ手前に店を構えている。以前は、都心の市ヶ谷に店があったが、数年前にこの地に移転した。場所は変わっても、背伸びすることなく、一茶庵系の蕎麦屋として堅実な職人技を見せてくれている。
店内に入ると、すぐ右手には、水場を配した風情ある坪庭。床全体には、黒い玉石が埋め込まれている。客席は、テーブル席と座敷席があって、それぞれ12人ぐらいずつ座れそうである。ソバ打ち場と石臼は、店の奥の方である。BGMはないが、とても憩える空間、腰を落ち着けて酒と肴、ソバを楽しむことができる。
ソバを食べる前に、ビールや日本酒で一杯やりたい。日本酒は、冷酒では「雪雀」、「天狗舞」、「菊姫」など、燗酒は「菊正宗」が用意されている。肴は、美しく切り分け盛られた「板わさ」、ネギと蕎麦の実たっぷりの「焼みそ」、平日のみ供される「玉子焼」など、蕎麦屋定番のものが揃っている。
ソバのほうは、一茶庵系らしく「せいろ」(700円)、「田舎」(800円)、「さらしな」(800円)の3種類のソバを打っている。「せいろ」は、中細打ち、二八ソバらしいなめらかな口当りで、香りのよいソバ。「田舎」は、「せいろ」と同じ蕎麦粉を使っているようだが、少し太めに打たれている。噛みごたえはあるが、同じくなめらかな口当たり。「さらしな」は、中細平打ち、ほのかな甘味があって、ツルツルと食べられる、白くて上品なソバである。
また、温かいソバでは、「ひなどりそば」(1000円)がよい。だし汁は少し濃い目だが、鳥の旨みが溶け込んでいる。中に入っている皮付き地鶏もとてもおいしい。
女将さんの対応もテキパキとして心地よく、とても居心地のよい蕎麦屋である。
味4、雰囲気4、対応4、CP3 計15
評価時期 平成15年6月7日
データ 杉並区本天沼1−1−4 03−5373−6631 11:30〜20:00 月曜休み
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蕎麦屋とは思えないようなユニークな店名である。「いちななろく」とそのまま読むそうで、店舗の住所、郵便番号に由来しているようだ。西武池袋線の練馬駅からは5分ほど、交通量の多い幹線道路に面したマンションの1階に店を構えている。
狭い入口から店内へ入るとびっくり。その店名や立地からは想像のつかない、和風の風情ある空間が広がっている。左手に、打ち場を目前にするカウンター席、さらに進むと右手にテーブル席と奥座敷席。天井には太い梁が渡され、椅子やテーブルなどを含めて調度品はすべて落ち着いた色合いの木製で統一されている。BGMにはジャズが流れ、やや暗めの間接照明やスポットライトもよい雰囲気を演出している。
ここでは、ソバを手繰る前に、豊富な種類の日本酒と肴を楽しみたい。「宗玄」、「開運」、「銀盤」、「大七」、「神亀」、「田酒」など全国各地の銘醸酒が15種類以上揃っていて、常温か冷やで味わうことができる。酒は、銘酒居酒屋風に、一合枡にグラスを立てたところに、一升瓶から直接注いでくれる。
酒の肴のほうは、「鴨わさ」、「鴨つくね」、「鴨肉どうふ」、「ネギ味噌の油揚げ包み」、「揚げだしそばがき」、「玉子焼き」など。全体的に味付けがややしょっぱいので、ついつい酒が進んでしまう。荒挽き「鴨つくね」の軟骨のコリコリとした食感と鴨肉の旨みもなかなかである。
メインのソバも、香り高くおいしい。箱笊に盛られた「せいろ」は700円(大盛は箱笊2段で1100円)。見た目もみずみずしい中細打ちのソバで、喉越しがよい。ツユは、ややもったりとした感じで、もう少しキレがほしい。薄めのすっきりとしたツユのほうが、ソバの香りが生きるように思うのだが。
テキパキとした女性の接客も気持ちがよく、ゆっくりとくつろいで、酒、肴、ソバそして雰囲気を楽しめる蕎麦屋である。
味4、雰囲気5、対応4、CP3 計16
評価時期 平成15年8月25日
データ 練馬区練馬1−7−6 03−5999−1765 11:30〜15:00 17:00〜24:00(日祝23:00) 水曜休み
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JR大森駅から5分ほど、繁華街から少し離れた、静かな住宅街に店を構えている。昭和初期に建てられたというレンガ造りの洋館を改装して店舗としたユニークな蕎麦屋である。玄関で靴を脱いで、スリッパに履きかえ、建物の中へ入ると、昔の洋館らしい高い天井に驚かされる。天井に据付けられたレトロな扇風機がゆっくりと回転している。
客席はいくつかの部屋に分かれていて、いずれも白い壁とこげ茶色の木製の調度品で統一されている。古い大型金庫がそのまま置かれた部屋、畳敷きにした座敷席の部屋など、どこに座ってもゆっくりとくつろいで酒と肴、ソバを楽しむことができる。
BGMは、静かに流れるクラシック音楽。店内禁煙というのも気持ちがよい。
まずは、エビスビールや宮城の「日高見」、群馬の「水芭蕉」、石川の「加賀鳶」などの地酒を味わいながら、蕎麦屋らしい酒の肴を楽しみたい。「やきみそ」、「わさび醤油漬け」、「出汁巻き卵」、「蕎麦豆腐」、「焼のり」、「かまぼこ」などのほか、月変わりの肴も各種用意されている。「わさび醤油漬け」は、わさびの根をせん切りにして酢醤油に漬け込んだもの、酸味とピリ辛さで酒が進む。甘味をおさえた「出汁巻き卵」や煮汁がしみ込んだ旨みたっぷりの「煮穴子」もよい。
ソバのほうは、「もり」が750円。丸い編み笊に盛られたソバは、「翁」系の端正で美しい中細打ち。香りはおとなしいが、ツルツルと喉越しのよいソバである。合わせるツユは、洗練されたバランスとコクですばらしい。
また、「鴨汁もり」(1550円)は、肉厚の鴨肉と鴨つくねが入っていて、鴨脂の旨みたっぷり。鴨汁が少し濃すぎるようで、ややソバが負けている感じもするが。その他、「辛味おろし」、「つけとろ」、「穴子てんぷら」などがメニューに載っている。
「しのはら」は、食を楽しむ空間演出の点で、きわめてすぐれた蕎麦屋である。
味4、雰囲気5、対応3、CP3 計15
評価時期 平成15年9月14日
データ 大田区大森北4−13−19 03−3764−3851 11:30〜21:00 木曜・第3水曜休み
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東京下町の情緒を残す江東区森下。その森下の交差点のそばに、あまり目立つことなく、さりげなく暖簾を掲げている。風情のある敷石を渡って店内に入ると、まずは下駄箱がある。お客は皆ここで靴を脱いで、スリッパに履き替えてから席に着く。
店内は、やや低めのテーブル席が数か所に分かれて配置され、奥には座敷席もある。30人ぐらいは座れそうである。
ここでは、ぜひソバ前酒を楽しみたい。日本酒は、「醸し人九平次」、「黒龍」、「十四代」、「飛露喜」、「松の司」などの銘酒が厳選され、充実した品揃え。ビールもエビスビールである。
酒の肴がまた充実していて、蕎麦屋の定番はほぼ皆揃っている。蕎麦の風味が生きている「そば豆腐」。やや甘めに煮込まれ、山椒と柚子刻みをふりかけていただく「にしん姿煮」。火入りの木箱で供される「焼きのり」、その他、「焼きみそ」、「鴨たたき」、「出し巻玉子焼」、「そば苗のお浸し」など。杓文字にたっぷりと盛られた「そばがきのつけ焼き」も名物である。
メインのソバのほうは、やはり冷製の「せいろ」(840円、追加半盛420円))か、信州安曇野産の玄蕎麦を粗挽きにした「田舎」(945円)を食べてみたい。「せいろ」はみずみずしい細打ちで、香りもなかなかであるが、「田舎」はさらに香りが高く、すばらしいソバである。外皮が多く入って黒っぽいソバは、「せいろ」と同じく細打ち。口中でざらつく粗挽き特有の食感が心地よく、ソバを食べているという口福感に満たされる。
また、辛味大根でいただく夏の「おろしそば」、冬の「みぞれそば」もお薦め。夏は爽快感、冬は身体が芯から温まる一品である。
「京金」の起源は、100年以上前にさかのぼるという。そんな老舗らしい風格と味わいを感じる蕎麦屋である。
味4、雰囲気4、対応4、CP3 計15
評価時期 平成16年9月26日
データ 江東区森下2−18−2 03−3632−8995 11:30〜20:30(日曜・祝日20:00) 月曜・火曜休み
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以前から埼玉県の吉川にあって、ソバ好きたちの覚えめでたき名店だったが、近年、東京の下町、両国へと移転してきた。移転前と基本的にメニューは変わっていないが、高級感が増して、ハレの日に訪れる蕎麦屋という感じになった。
店内は、テーブルの木目色に合わせて、壁面、天井、柱などは同系の薄茶色で統一されている。大テーブルが数か所にゆったりと配置されていて、広々した空間が演出されている。
ここでは、まず酒と肴を楽しみたい。日本酒は「磯自慢」、「大七」、「醸し人九平次」などの銘酒が厳選されている。そして、これらに合わせる一品料理は、品数こそ少ないが、いずれも酒が進む一品ばかりである。
「生ゆば刺身」は、クリーミーな味わいが何ともいえずおいしい。「焼きみそ」は、焼いた陶器の上にのせられて供されるが、蕎麦の実がとても香ばしい風味。「穴子煮こごり」は、ダシのきいたゼリーに良質の穴子が埋め込まれている。「そば豆腐」も、蕎麦の実がたっぷりかかっていて風味豊か。また、外のサヤごと焼き上げた、季節モノの「焼きそら豆」も個性的でよい。
メインの「せいろ」は900円、「追加せいろ」が800円。中細打ちのソバで、しっかりとしたコシ、香りはおとなしいが、喉ごしがよい。ただ一枚では少量で、やや物足りない。ツユは、とても洗練されていてコクがあるが、少ししょっぱい。
太打ちの「田舎」は1000円。黒っぽく、さらに強いコシを感じるかたいソバだが、田舎特有のざらつき感はなく、なめらかな食感である。
またこの店では、温かいソバをぜひ味わってみたい。「ごぼうかき揚天そば」(1400円)は、揚げたてのアツアツのごぼうの天ぷらがのっていて、運ばれて来たときは「パチパチ、ジュー」という音を立てている。福島の辛味大根と京都の九条ねぎがたっぷりのった、「青ねぎおろしそば」(1500円)もお薦め。大根おろしの辛さと青ねぎの食感が心地よく、健康にもよさそうだ。汁の味も、鰹節の香りが立っていてすばらしい。
東京へ移って、都内の人にとっては行きやすくなったが、価格も東京値段になってしまった。私個人的には、以前のこじんまりした店舗のほうが、落ち着いて酒とソバを楽しむことができたような気がする。
味4、雰囲気4、対応3、CP3 計14
調査時期 平成16年9月26日
データ 墨田区亀沢1−6−5 03−3626−1125 12:00〜15:00 17:00〜21:00 月曜休み
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