「くろ麦」(青山一丁目)

 地下鉄駅と直結したビルの地下の飲食街にある、一茶庵系の蕎麦屋である。昼時は、多くのサラリーマンやOLたちが、あわただしくソバをかき込んで出て行く。店内はそれほど広くないので、くつろぐためには、午後2時過ぎに訪れる必要がある。

 まずは一杯飲もうと、冷酒を注文したところ、「白鹿」の本醸造生貯蔵酒の300ml瓶が冷蔵庫からそのまま出されてきた。一寸がっかり。徳利や片口に入れるなどの配慮があってもよい感じがする。酒の肴には名物の「ごま豆腐」、「自家製さつま揚」などがよい。「ごま豆腐」は、ごまの風味がほのかで、しつこくないのがよい。「さつま揚げ」はホタテ入りと野菜入りの2種類が盛られていて、その風味とふわっとした食感が心地よい。

 ソバは、「せいろ」が780円。ソバの香りはあまり強くないが、しかっりとしたコシがある。「さらしな」は1100円とやや高値ながら、ほのかな甘味があって上質、滑らかな口当たりが特徴である。他には、季節の変わりソバをせいろソバと盛り合わせた「三色」(1250円)、7種の薬味とともに食べる「ぶっかけ」(1100円)などがある。

味3、雰囲気3、対応3、CP3 計12

調査時期 平成12年5月29日

データ 港区青山1−1−1 03−3475−1850 11:30〜20:30 日曜休み

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「まつや」(神田)

 神田の須田町・淡路町界隈には、昔ながらのたたずまいを漂わせる老舗の飲食処が集まっているが、蕎麦屋の「まつや」もその一軒である。歴史を感じさせる落ち着いた店構え。
 同じように暖簾がかかっているが、向かって右手が入口、左手が出口である。
 店内へ入れば、何度も塗りなおして黒光りしている柱や古い柱時計、天井などに、やはり老舗らしさを感じることができる。
 ソバを食べる前に、ぜひ一杯飲んでくつろぎたい。日本酒は白亜の磁器の徳利と猪口で供される。酒の肴は、やや硬めながらしっかりとソバツユ味のしみこんだ「にしん棒煮」、「やきとり」(各700円)、「鳥わさ」、「わさびいも」、「わさびかまぼこ」(各600円)などがよい。
 お通しに付く「そば味噌」も名物。混ぜられている蕎麦の実が香ばしい、水飴状の甘い味噌である。
 ソバは、「もり」が550円、「大もり」が700円である。蕎麦の香りとコシがあり、しっかり角張っていながら、喉ごしがとてもよい。
 ツユは甘辛く濃いので、ソバを全部浸してはいけない。軽く浸したところで、すばやくソバをすするのがおいしい食べ方ではなかろうか。
 温かいソバでは、「かしわ南蛮」。良質のやわらかいササミ肉と長ネギ、そしてなめらかな食感のソバに芳しい絶品の汁がからむ。こちらのかけ汁は、十分飲み干すことができる。湯桶を持ってきてくれるのもうれしい。
 それほど混雑していない午後の昼下がりに訪れれば、もう気分はご隠居。江戸前ソバの伝統を身を持って体験できる店である。

味4、雰囲気5、対応4、CP4 計17

調査時期 平成15年9月16日

データ 千代田区神田須田町1−13 03−3251−1556 11:00〜20:00 日曜・祝日休み

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「九段一茶庵」(九段下)

 古本の街、神保町からさほど遠くない九段下の裏通りに、ひっそりと店を構えている。店内は黒塗りのテーブルと椅子が並び、蕎麦屋にしてはモダンな感じを受ける。また、入ってすぐ右側には、二人づつ4人座れる小座敷がある。全部で28席というところか。

 まずはお酒ということで、冷酒を注文すると、ギンギンに冷した鉄瓶に入れられ日本酒が出てきた。ここの定番は「出羽桜」の吟醸酒。吟醸香の芳しい銘酒である。他にも数種類の日本酒が置いてあるらしく、冷蔵庫には日本酒の瓶が何本か並べられている。新潟の「麒麟」の蔵元で造られている「九段一茶庵」の名を冠したコシヒカリ純米大吟醸もある。

 酒の肴は、「焼のり」、「そば焼みそ」、「板わさ」など蕎麦屋らしいものが揃っているが、お薦めしたいのは、「汲み湯葉のさしみ」(700円)で、食感よく味わいがあっておいしい。また、一茶庵の焼印の入った「たまごやき」(800円)もしっかりとダシがしみ込んでいてよい。

 ソバは、「せいろ」が900円、「田舎」が1000円。「せいろ」は中細打ちで、蕎麦の風味が豊か。かなりコシを残した茹で具合である。「田舎」は太くて黒い、噛みごたえのあるソバである。変わりそば2種を田舎と一緒に盛り合わせた「三色そば」(1200円)もある。
 ツユは、やや甘めながら、鰹節の香りが生きた、洗練された出来である。

 店内の壁面には、一茶庵の創始者である片倉友蕎子の食に関する筆書が、額にして飾られている。古本屋めぐりの帰りにでも、ぶらりと立ち寄りたい店である。

味4、雰囲気4、対応4、CP3 計15

調査時期 平成13年5月12日

データ 千代田区神田神保町3−6−6 03−3239−0889 11:00〜21:00(土曜は11:30〜19:00) 日曜・祝日休み

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「傘 亭」(高田馬場)

 高田馬場から早稲田通りを小滝橋方向に10分ほど歩いたところに、あまり目立たず、ひっそりと暖簾を掲げている。店内も広いとはいえず、カウンター6席と壁際の申し訳程度のテーブル4席のみである。それもそのはず、店はご主人がひとりで切り盛りしている。店主は、なかなかのこだわりの人物のようである。カウンター席の前には、蕎麦をはじめ、醤油、昆布、塩にいたるまで、原材料の出所について事細かに記述されている。

 ソバを食する前に飲む日本酒も充実している。愛媛の「梅錦」と石川の「菊姫」は純米酒から大吟醸酒まで各種、他にも「神亀」、「刈穂」など銘酒揃いである。これらの酒をちびりちびりと飲みながら、酒の肴を注文する。「焼きみそ」、「月見芋」、「ざる豆腐」、「生海苔」など酒の進むものばかり。「ざる豆腐」は、硬めのしっかりとした味わい。「生海苔」の塩気も日本酒にはぴったりで、これだけでも、どんどん飲めてしまう。

 ソバは「せいろ」が800円。洗練された細打ちで、滋味あふれるおいしいソバである。麺が心持ち短い感じもするが、コシはしっかりとしている。このソバに合わせるツユが、ややしょっぱいのだけが気になる。「変わりそば」(1000円)も、季節によって何種類か出している。

 そば通を自称する人たちが、喜んで訪れそうな隠れ家的な蕎麦屋である。

味4、雰囲気3、対応3、CP3 計13

調査時期 平成12年6月26日

データ 新宿区高田馬場3−33−5 03−3364−5758 12:00〜売切れまで 金曜休み 

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