「武蔵野そば処」(中野)

 深夜の零時まで営業している蕎麦屋である。夜遅くまで営業しているラーメン屋は多いが、こうした蕎麦屋は数少ないので、貴重な存在である。中野のブロードウェイ脇の飲み屋街の中にあるので、飲んだ後の仕上げに、ここでソバを食べる客も多いようである。
 平成13年末に店が改築され、以前の田舎の農家に来たような懐かしい感じは薄れてしまった。今は、1階が蕎麦打ち場兼厨房と各5人程度のテーブル席、座席、2階が20人ほど入れるメインの座敷、3階は個室座敷になっている。
 以前店内に吊り下げられていたカンジキや蓑笠などの民具は、階段など新しい店内のあちらこちらに分けて飾られている。印象深かった古い柱時計も今は1階の柱に掛けられている。ただ、前の店のような統一的な趣きある民芸調とはほど遠い。

 ソバを食べる前に一杯飲むときは、兵庫の八重垣「にごり酒」や福島の清瀧「天然生しぼり」。コップに並々と注がれるので気持ちがよい。また、最近のお薦めで、新潟の河忠酒造で造っている「想天坊」純米酒や吟醸酒の味わいも格別である。
 酒の肴は、春の山菜、夏野菜、きのこ類などを揚げた季節の天ぷらが充実している。軽くつまみがほしいときは、「山芋の素揚げ」、、「ふき味噌」、「セリのおひたし」などもある。
 ソバは、やはり冷たい「武蔵野そば(もり)」(700円)を食べたい。注文すると、蕎麦打ち場で、ご主人がソバを切る音がきこえる。しばらく待つと、まず各種の薬味とソバツユが運ばれてくる。薬味は、ワサビとネギの他に、紅葉おろし、胡麻、紫蘇の穂、食用菊などがあるが、個人的には、紅葉おろしだけで十分な気がする。ツユは、醤油風味が強く、やや濃く辛口である。
 ソバは、平打ちで太さがやや不揃いな田舎風。ソバの香りは、強いときと弱いときがあるが、口中での食感はいつもよい。また、太さのわりに、つるつるとした喉ごしがあるのも心地よい。ある程度飲んでから食べるソバとしては、最適な味わいかもしれない。
 なお、「武蔵野そば」の大盛りは1000円、「うどんとそばの合もり」は1400円である。

味3、雰囲気4、対応4、CP3 計14

評価時期 平成15年9月18日

データ 中野区中野5−55−11 03−3389−4751 11:30〜14:00 18:00〜24:00 日曜・祝日休み

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「利 庵」(目黒)

 目黒駅から歩いて10分余り、お洒落な街の代名詞でもある白金台に、しっとりとした風情で店を構えている。店内も、木製のテーブル、椅子といった調度品、木板張りの天井から吊り下がったレトロな電灯の笠などが、落ち着いた雰囲気をかもし出している。

 冷たいソバは、「せいろう」(750円)、「田舎」(850円)の2種類、他に季節の変わりソバがある。「せいろう」は、洗練された極細打ちで、蕎麦の香りが芳しくすばらしい。「田舎」は、やや黒めの細打ち。そば殻のざらつく食感があるが、蕎麦の香りはさらに高い。ツユは2種類のソバに合わせて変えているようで、「せいろう」にはキリッと締まった辛口、「田舎」にはやや甘味のあるツユが供される。いずれもソバの旨みを十分に引き立ててくれる。

 お酒の友に食する肴も充実している。とくに「だし巻き玉子」(800円)は人気の一品。アツアツでふわっとした食感があり、甘味もほどよい。他にも、椎茸と玉子焼を巻いた「そば寿司」をはじめ、「ぬた」や「柱わさび」などお酒を引き立てる肴がいろいろとある。これらの旨い肴をつまみつつ、自分で片口から注いで飲む升酒の味は格別である。

 「利庵」は、土日や昼時には行列ができるほどの人気店である。落ち着いてソバと酒を楽しみたいなら、訪れる時間を考えた方がよい。また、客層が多彩なため、子供連れや喫煙客と同席せざるを得ず、不愉快な思いをすることも時々ある。ソバがおいしいだけに残念である。

味5、雰囲気4、対応3、CP3 計15

評価時期 平成12年7月26日

データ 港区白金台5−17−2 03−3444−1741 11:30〜20:00 月曜・火曜休み

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「福田屋」(渋谷)

いつも若者で賑わう渋谷の喧騒の中にありながら、熟年者が逃避できる静かな空間を提供している。若者向けのショップや居酒屋が同居する雑居ビルの2階にある。店内は、気取った雰囲気ではなく、町中のごく平凡な蕎麦屋という感じである。酒、肴、ソバとも良心的な価格で楽しめるので、とても庶民的な店といえるだろう。

 お酒は、明治神宮の御神酒にもなっている東京都東村山の地酒「金婚正宗」。吟醸酒の「吟辛」は400円で飲むことができる。すっきりとさわやかな飲み口の酒である。これに合わせる肴としては、「板わさ」や「あられ」がお薦め。「あられ」は、やや大きめの小柱を一つ一つ揚げたもので、煎餅のあられを連想させる形状である。また、「玉子焼」もぜひ食べてみたい一品である。美しく黄色に焼かれていて、ふわっとしていて、甘味もほどよくておいしい。

 ソバは「せいろ」が550円とこれも良心的な値段で、しっかりとボリュームがある。極細のソバは、藪系の機械切りだが、蕎麦の香り、コシともにあって、喉ごしも心地よい。バランスよくきりりと締まったツユとの相性も抜群である。「鴨せいろ」(900円)もおいしい。鴨肉がたっぷりと入っていて、鴨のダシがツユに深みのある味を加えている。

 場所がら、昼時や夜は混雑するので、ゆっくりとくつろぎたいなら、夕方5時の開店直後の1時間ぐらいに訪れることを薦める。

味4、雰囲気3、対応3、CP4 計14

評価時期 平成12年8月9日

データ  渋谷区道玄坂2−25−15 03−3476−6437 月〜金曜11:00〜15:30 17:00〜20:30 土曜11:00〜15:30 日曜・祝日休み

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「布恒更科」(大森)

 JR大森駅と京急大森海岸駅との間、建ち並ぶマンションの谷間に、時代から取り残されたように昔ながらの風情あるたたずまいをみせる店舗である。店内も変に飾ったところがなく、いかにも近所の人々に親しまれていそうな町場の蕎麦屋といった感じである。4〜6人掛けのテーブル席が8か所、奥の座敷に1テーブルあり、落ち着くことができる。

 ソバは常時5種類が用意されている。「もり」(800円)は、角ばった切り口の細打ち。ほのかな香りとしっかりとしたコシがあっておいしい。「御前更科そば」(900円)は、白いさらしな粉を使った喉ごしのよいソバである。「生粉打ちそば」(1000円)はもっとも香りが高く、蕎麦の滋味あふれる一品。やはり細打ちで食感もよい。「荒挽きそば」(1000円)は、幅5ミリ近くあるだろうか、きしめんのように太い平打ちの個性的なソバ。長方形の笊に豪快に盛られている。これら純正ソバの他に、日替わりの「変わりそば」(1000円)があり、季節に応じて様々な素材を打ち込んでいる。たとえば、秋の季節には、「栗切り」、「菊花切り」、「菊の葉切り」、「ひじき切り」、「人参切り」などの変わりソバがメニューに載っている。
 また、そばツユは、かなり濃い味わいなので、ソバに浸す量は加減したほうがよさそうである。

 そば前の酒と肴もなかなか充実している。日本酒は、新潟の「〆張鶴」や「鶴亀」、静岡の「満寿一」など銘酒を揃えている。お酒を注文すると、お通しに小杓文字にのった「焼き味噌」が供される。酒の肴には、まず天種。穴子、めごち、はぜなど江戸前のネタを、やはり江戸前らしく黒っぽい油で揚げている。また、一人では食べきれないぐらい巨大な「玉子焼」もよい。豪快な見た目の割りには、ふわっとした食感が特徴である。甘味も適度でおいしい。

 腰を落ち着けて憩うことのできる、江戸情緒あふれる蕎麦屋である。

味4、雰囲気5、対応3、CP3 計15

評価時期 平成15年7月1日

データ 品川区南大井3−18−8 03−3761−7373 11:30〜15:00 17:00〜20:00 日曜休み


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