「竹 泉」(新橋)
東京の一茶庵系の蕎麦屋としては、今もっとも勢力を伸ばしている「本陣房」の支店である。新橋と虎ノ門の間の外堀通り沿いにあって、かつては「本陣房」がこの場所にあった。現在、本陣房はもう少し新橋駅寄りに移転しているが、いまや系列店は、ここ「竹泉」を含めて、新橋に4店、御徒町と浜松町に各1店となっている。
この店の特徴は、一茶庵系らしい洗練されたおいしいソバが食べられるばかりでなく、日本各地の銘酒と良質な酒の肴が用意されていることである。「磯自慢」、「初亀」、「十四代」、「黒龍」、「〆張鶴」、「満寿泉」、「八海山」などいずれも日本酒愛飲家の垂涎の酒ばかりである。酒の肴は、旬の魚の刺身を始めとして、どれもハズレのないおいしさ。もちろん、「玉子焼き」や「ニシンのうま煮」など、蕎麦屋定番の料理もある。多彩な肴の中で、特にお薦めしたいのが「生のり」。塩味がきいていて、これだけでもお酒がどんどん進んでしまう。
酒と肴だけでも満足できる店であるが、メインのソバもすばらしい。「せいろもり」、「田舎もり」いずれも600円、せいろと田舎の「二色もり」が900円、変わりそばとせいろか田舎の「二色もり」が1100円、さらに「三色もり」が1200円と、好みと予算に応じて選択することができる。細打ちのせいろは香り高く喉ごしがよい。太打ちの田舎はさらに蕎麦の香りが際立っている。一茶庵伝統の柚子切りや紫蘇切りなど変わりそばは、素材のほのかな香りと絹のようなコシが心地よい。洗練されたツユとの相性も申し分ない。
また、特筆すべきは、二色や三色を注文したときのサービスのタイミングのよさである。お客がちょうど一枚食べ終わった頃を見はからって、実にタイミングよく次の一枚が供される。
本陣房系列の各店の中でも、とても居心地のよい一軒である。
味5、雰囲気4、対応4、CP3 計16
評価時期 平成12年11月2日
データ 港区西新橋1−5−10 03−3508−8166 11:00〜22:00 土日・祝日休み
「駕籠町藪そば」(千石)
江戸情緒あふれる、風情のある蕎麦屋である。小体な店構えとさりげなく小ぎれいな店内。4人から6人掛けのテーブル席が6卓、座敷が2卓と、外見より店の中は広い。
機械切りで極細の伝統的な藪系のソバを味わうことができる。冷たいソバは、「もり」が600円、「大もり」が750円。茹で方がやや軟らかい感じもするが、蕎麦の風味は十分に楽しめる。キリッと締まったソバツユもなかなかである。
そば前酒は、普通の燗酒の他、「菊姫」、「雪中梅」、「美稲」、「繁升」などの地酒も置いている。酒の肴は、「小柱かき揚」、「柱わさび」、「板わさ」、「鳥わさ」、「焼鳥」など江戸前の蕎麦屋らしいものばかり。「天ぬき」、「鴨ぬき」などがメニューに載っているのも珍しい。
混雑時に訪れたことはないが、空いていれば、一人くつろぎ、ソバと酒を楽しむには、絶好の空間を提供してくれる店である。
味4、雰囲気4、対応4、CP3 計15
評価時期 平成12年11月6日
データ 文京区本駒込2−29−20 03−3947−2611 11:30〜15:30 17:00〜20:00 日曜・祝日休み
「松 翁」(神保町)
平日の昼時は、開店直後から、神保町界隈のサラリーマンたちで賑わっている店である。店内はテーブル席のみ、25人あまりが入れるが、やや狭苦しく落ち着かない感じもする。
自家製粉のソバを出す店ということで、店の奥には、電動石臼とソバ打ち作業場をガラス越しに眺めることができる。
ここで石臼挽きされる手打ちの「ざるそば」は900円。中細打ちで、香りもほどよく、洗練された味わいのソバである。また、これに合わせるツユや薬味のネギ、本ワサビも繊細、洗練されていてすばらしい。白胡麻だけ余計な気がしたが、ソバを食べ終えた後、ソバ湯を飲むときに入れたら、なかなかおいしく楽しめた。ソバ湯は別に煮込んで作っているのか、ドロリとしていて味わい深い。
あくまでソバがメインの店であることはもちろんだが、「けんちん汁」もこの店の名物。よく煮込まれた大根、ごぼうなど野菜たっぷり、ヘルシーで身体が温まる。「ざるそばとけんちん汁」(1200円)というセットが、寒い冬の定番かもしれない。
また、「天ざる」(2200円)に付く天ぷらは特筆すべきもの。蕎麦屋の天ぷらというより、天ぷら屋のそれである。揚げたての活きた車海老や穴子、野菜を、その都度、客席まで運んできてくれる。これを、卓上にある塩でいただくと、あらためて素材の良さを感じることができる。
このほか、田舎ソバや季節の変わりソバとの組み合わせ「二色もり」(1000円)、手打ちうどんとの組み合わせ「めおともり」というのもある。一般の濃い口のツユ以外に、薄口のツユが用意されているのは、うどんをおいしく味わうための配慮だろうか。
夜は、「十四代」、「黒牛」、「飛露喜」、「九平次」、「獺祭」など流行ものを中心に約20種類の日本酒が用意されていて、居酒屋風に利用することもできる。「ごまどうふ」や「奴どうふ」、「たたみいわし」、「あさりの酒蒸し」、「穴子の煮こごり」、その他季節の肴が充実。最後に「ざるそば」でしめるというのもよいだろう。
味5、雰囲気3、対応3、CP3 計14
評価時期 平成17年3月14日
データ 千代田区猿楽町2−1−7 03−3291−3529 11:30〜15:30 17:00〜20:00 土曜11:30〜16:00 日曜・祝日休み
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「古式蕎麦」(湯島)
湯島天神への参道とも呼べる道路沿いに、ひっそりと店を構える。間口が狭いので、へたをすると通り過ぎてしまいそうな蕎麦屋である。
東京では珍しい、個性的な色黒のソバを供する。出雲そば系のようだが、生醤油と大根の絞り汁をツユにするところは、いかにも「古式」の名にふさわしい。「古式もりそば」(950円)は、平たい板に敷かれた簾の上に、四つ玉に盛られている(大盛りは6つ玉で1300円)。
真っ黒いソバは、太さが不揃いだが、みずみずしいツヤがあって口当たりはよい。硬くて、噛みごたえ、田舎特有のざらつく食感と蕎麦皮の風味があっておいしい。
ソバツユは、ソバとともに供される大根の絞り汁と生醤油を調合して、自分の好みの濃度のツユを作成する。生醤油はかなり濃いので、少しずつ加えていったほうがよいだろう。さらに、そのまま食べてもおいしい薬味の良質な削り節を、これに適量加えれると、鰹ダシの風味を補うことができる。絞り汁の辛味があるので、薬味のワサビは不要な気がする。食後のソバ湯は、大きな湯呑み茶碗に注がれたものが供せられる。
普通の「もりそば」は850円。ソバは「古式」と同じだが、ツユは濃くて甘辛い。「割子そば」は3枚で1200円。薬味は、鰹節、刻み海苔、紅葉おろし、トロロなどがたっぷりと添えられ、本格的な出雲そばの味を堪能できる。
また、温かいソバでは、「山揚げそば」(1200円)というのがユニークでおいしい。大きなトロロのかたまりを揚げたものが、かけソバの上にのせられていて、外側は香ばしく、中はふわっとしてアツアツという感じ。これに薬味のネギと大根おろしをたっぷりと加えて食べるソバは、健康にもよさそうである。
この店は、あくまで蕎麦屋であることを主張しているので、お酒を飲んで居座る客は、あまり歓迎されないようである。
味4、雰囲気3、対応4、CP3 計14
評価時期 平成15年4月21日
データ 文京区湯島3−20−5 03−3836−5229 11:00〜14:30 18:00〜21:30 不定休
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「なな樹」(恵比寿)
居酒屋風の蕎麦屋としては、かなりの老舗である。戸隠流の手打ちソバと信州料理の店で、夜はほとんど居酒屋の雰囲気である。用意されている日本酒も「菊秀」、「千曲錦」など信州の地酒。まず、これらの酒を飲みながら、「馬刺し」、「岩魚の燻製」、「ワサビの茎漬」、「野沢菜」などを肴にするのが、この店の典型的なパターン。信州名物の珍味「ざざむし」、「はちのこ」なども用意されている。
ソバのほうは、「戸隠そば」(550円)が看板商品。戸隠の伝統工芸であるネマガリダケの笊に盛られたソバは、太打ちの田舎ソバ。みずみずしくツヤがあって、なめらかな喉ごしなので、飲んでから食べるにはもってこいのソバである。ただ、ツユがあまりにも甘いのが残念である。
店内は、落ち着いた民芸風。テーブル席のみで、それほど広くないので、満席になるとやや窮屈な感じもする。混雑しているときは、すぐ近くにある支店「なな樹・奥社」を利用するとよい。
味3、雰囲気3、対応4、CP3 計13
評価時期 平成13年7月25日
データ 渋谷区恵比寿西1−13−2 03−3496−2878 11:30〜14:00 17:00〜21:00 日曜・祝日休み
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