「無境庵」(根津)

 根津神社の裏手、日本医科大病院の正面に、風情ある外観の店を構えている。さほど広くない店内も民芸調で、有田焼の大皿や多数のそば猪口、湯桶などの骨董品が飾られていて、古風な蕎麦屋の雰囲気を醸しだしている。ほとんどの席が座敷なので、腰を落ち着けてくつろぐことができる。ただ、BGMの琴の音楽だけは余計で、耳障りである。
 卓上には、湯桶に入ったそば湯ともり汁、そしてソバ猪口が常備されていて、お茶のかわりに、食前からそば湯を楽しむことができる。
 また、ソバを食べる前に日本酒を飲むのもよい。銘柄は青森の銘酒「桃川」、すっきりとした味わいのキレイな酒である。一合600円で、蕎麦の実を使ったお通しが付く。
 ソバのメニューは、「乙女そば」、「権現そば」、「夢境そば」などユニークな品を含めて多彩。定番の「もりそば」は700円で、中細打ちのなめらかな口当たりのソバである。蕎麦の香りは、手打ちにしては、少しおとなしい感じ。ツユはやや濃いめの辛口である。「しそ切り」、「ゆず切り」など季節の変わりソバも用意されている。
 上野、根津、本郷などの江戸歴史散策の途中にでも、立ち寄りたい一軒である。 

味3、雰囲気4、対応4、CP3 計14

評価時期 平成13年5月21日

データ 文京区弥生1−6−4 03−3815−4337 10:00〜19:00 金曜休み(日曜・祝日を除く)

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「吟八亭やざ和」(亀有)

 葛飾区亀有という街のイメージとは、およそかけ離れた雰囲気を持った店である。大きなケヤキ板を縦に並べた、大胆な外観にまず圧倒される。暖簾をくぐって中へ入ると、狭いロビーがあって、扉に「打場」と表示された蕎麦打ち部屋がある。ソバを食する場所へ行くには、さらに2階まで階段を上がらなくてはならない。
 2階へ上がると、今度はロビーに蕎麦を挽く石臼が置いてあって、時々ご主人が丁寧に石臼を回している姿がみられる。引き戸を開けて店内へ入ると、またもや何枚もの大きなケヤキ板が目につく。テーブルや椅子もモダンなデザインで、独特の空間を演出している。

 ユニークな店の雰囲気に目が奪われがちだが、手挽きでの自家製粉のソバの味もかなりレベルが高い。「せいろそば」(800円)は、ツヤのある細打ちで、豊かな蕎麦の風味を感じることができる。一日限定20食の「田舎せいろ」(950円)も細打ち。やや色黒で、蕎麦の外皮の香味がさらに強い。田舎ソバによくあるゴワゴワ感がなく、なめらかでシャキッとした歯ごたえである。いずれも、ご主人のおいしいソバへの並々ならぬ熱意を体感できる完成度である。
 あくまでソバがメインだが、夜は、「磯自慢」、「十四代」、「九平次」などの銘酒とともに、「丹波の黒豆とうふ」、「にしん」などの酒の肴を楽しんでみるのもよいだろう。

味5、雰囲気4、対応3、CP3 計15

評価時期 平成13年5月22日

データ 葛飾区亀有1−27−8 03−3690−8228 11:30〜15:00 17:00〜20:00 木曜・第3水曜休み

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「蕎楽亭」(市ヶ谷)

 市ヶ谷から牛込中央通りのダラダラとした坂を登ったところにある、比較的新しい(平成10年開業)蕎麦屋である。それほど目立つ看板が出ていないないので、蕎麦屋と気づかず通り過ぎてしまいそうだが、よく見ると出入口脇のガラス越しに、打ち場と電動石臼があってそれとわかる。店内は奥へと長く、オープンカウンター席とテーブル席が並ぶ。カウンター席に座れば、ソバを茹でたり、天ぷらを揚げたりという、厨房内で行なわれているすべての仕事が丸見え。こうしたキッチンをオープンにした蕎麦屋も珍しい。
 自家製粉の蕎麦粉を使って打たれるソバは2種類。「ざるそば」(900円)は、ややあら挽きの極細打ちで、蕎麦の風味が抜群。「十割そば」(1050円)も、同じくあら挽きの極細打ちだが、「ざるそば」にくらべて色が黒っぽく、やはりすばらしい風味である。少し短く切れているのは気になるが、シャキッとしたコシがあって、ご主人の目指しているソバの輪郭をはっきり感じさせる味わいである。

 洗練されたツユとの相性も良好。ざると十割の双方をくらべながら味わえる「二色もり」(1000円)があったり、プラス200円で大盛りが食べられるのもうれしい。
 若いご主人は神保町の「松翁」で修業したようで、天ぷらやけんちん汁に同じタイプの仕事を見せてくれる。「天ざる」は2100円と値が張るが、天ぷら屋のように、活きた才巻海老や穴子を、目の前で割き、揚げて、一品ずつ供してくれる。もちろん味のほうも、天ぷら屋のものに引けを取らない。
 夜は、「泉川」、「央」など福島酒を中心に、群馬の「水芭蕉」、和歌山の「黒牛」といった地方銘酒を味わい、多彩な酒の肴を楽しむことができる。「生ゆば刺身」、「ざる豆腐」、「穴子の白焼き」、「米茄子の田楽」、そして若鮎、鱧、白魚など季節の天ぷら。いずれも満足できる味わいである。
 昼時はけっこう混雑していることもあるが、ご主人をはじめ若いスタッフが、テキパキと店内を動き回っている。お客への気配りなどはまだまだだと思うが、ソバの味は一級なので、今後の展開が楽しみな蕎麦屋である。
 平成17年5月初旬に、神楽坂に店舗移転の予定とのことである。

味5、雰囲気3、対応3、CP3 計14

評価時期 平成17年4月16日

データ 新宿区払方町15−6 03−3269−3233 11:30〜15:00 17:00〜21:00(土曜は11:30〜15:00のみ) 日曜・祝日休み

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「乃むら」(神保町)

 書籍の街、神保町に、平成13年にオープンした新しい蕎麦屋である。今までの蕎麦屋の風情とは明らかに異なる店内の雰囲気は、業界のニューウェーブといえる。白色と木目調で統一されたテーブルや椅子、天井、壁面は、蕎麦屋というより、お洒落な喫茶店かイタリアン・レストランの印象を受ける。店内に流れるBGMも、昔懐かしいジャズ・ボーカルである。
 斬新な店内の雰囲気に反して、ソバのメニューはいたってオーソドックスな手打ち蕎麦屋の品書きが並んでいる。「せいろ」、「田舎そば」とも各700円(追加は一枚600円)。「せいろ」は、蕎麦の風味豊かな細打ち。やや短く切れてしまっているが、絹のようなしっかりとしたコシがあって、なかなかおいしい。一方「田舎そば」のほうは、やや幅広の太打ち。色調はあまり黒っぽくなく、蕎麦の香りも弱い感じがする。これらのソバに合わせるツユは、少し甘辛く濃くて、せっかくのソバ、とりわけ「せいろ」のよい香りを消してしまう感じがする。

 また、ここの鴨せいろは、「鴨つくねせいろ」(1400円)である。鴨肉をつくねにしているので、鴨特有のダシがつけ汁によくしみ出している。太めのネギは、表面を焼いてこげ目をつけているので、香ばしく仕上がっている。ただやはりつけ汁が濃いので、細打ちのソバより、太打ちのソバを使ったほうがよいと思われる。
 夜は、「開運」、「出羽桜」、「越乃景虎」、「大七」などの地酒とともに、酒の肴を楽しむこともできる。「板わさ」、「栃尾の油揚げ」、「ざる豆腐」、「焼き味噌」などが各500円というのも良心的価格でうれしい。
 店の雰囲気のおかげか、若い女性が一人でソバを食べている姿も見受けられ、確かに今までの蕎麦屋とは一風異なるようである。
(平成17年初めに閉店しました。)

味4、雰囲気3、対応3、CP3 計13

評価時期 平成13年7月4日

データ 千代田区神田神保町2−21−9 03−3512−2456 12:00〜15:00 18:00〜22:30 土日・祝日休み

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「むさし野」(武蔵関)

 西武新宿線の武蔵関駅から歩いて数分、石神井川を渡ったところに、さりげなく暖簾を出している。平成12年にオープンした新しい店で、「蕎麦酒房」と名乗っているだけあって、エビスの生ビールの他、日本酒各種からそば焼酎まで、お酒が豊富。酒の肴も、200円の「冷奴」から「そばの焼きみそ」、「厚焼玉子」、「鴨のつくね焼き」、「おでん」など多彩なものを、けっこう廉価で提供している。
 夕方から夜だったら、これらの酒と肴で一杯やってから、ソバを食べるのが、定番となるだろう。
 メインのソバのほうは、なかなかのこだわり。壁面には「こだわりの七箇条」として、ご主人のソバに対する信条が綴られている。一言でいえば、ソバはよい材料を使って、挽きたて、打ちたて、茹でたてを味わえといういうことである。そしてもちろん、ご主人は、これを実践している。

 「十割そば」(1000円)は、茨城県御前山村産の常陸秋蕎麦を自家製粉した蕎麦粉のみを使用。やや色黒の風味高い細打ちで、なめらかな舌ざわりが特徴。甘辛のバランスのとれたツユとの相性もよい。一方、「もりそば」(600円)は、前述の蕎麦粉に、北海道産の蕎麦粉をブレンド、蕎麦粉八割で打たれる。風味はややおとなしいものの、さらに細打ちでなめらか、十分満足できる手打ちソバである。
 大盛りが200円(十割は400円)増し、追加のツユ・薬味なしが1枚400円(十割は800円)というのも、良心的な値段である。
 蕎麦屋のこだわりの店主というと、とかく頑固そうなイメージがあるが、ここのご主人は、とても気さくな感じである。けっして緊張することなく、気楽においしいソバと酒を楽しめる店である。

(閉店しました。同場所は現在「にはち」という蕎麦屋です。)

味4、雰囲気3、対応4、CP4 計15

評価時期 平成13年8月14日

データ 練馬区石神井台7−9−6 03−3920−2011 11:30〜14:30 17:00〜22:00 水曜休み

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