慈恩寺そば(寒河江)

 山形のソバといえば、大きな箱板に盛られた「板そば」であるが、その田舎風の太くて硬い食感は好みが分かれるところである。私自身、多くの山形のソバに感じられるゴワゴワとしたざらつくような食感は、正直いってやや苦手であるが、この「慈恩寺そば」は今までの「板そば」の既成概念を打ち破る味だった。
 横幅30センチ以上はありそうな箱板に盛られたソバは、黒っぽい色や太さからは想像がつかないほどツルツルとした滑らかな食感。もちろん、田舎ソバらしいしっかりとしたコシと風味もあっておいしい。
 ツユはやや甘めで鰹節風味が強いが、ソバとの相性はよい。かなりのボリュームにもかかわらず、あっという間に平らげてしまう。

 この「板そば」が900円、他には「かもそば」、「にしんそば」、「天ざる」など種物もいろいろとある。
 この店へは、JR左沢線の寒河江駅からバスかタクシーで行くか、羽前高松駅から歩いて行くかであるが、いずれにしても不便な場所である。地元の人たちは、みな自家用車に乗って食べに来ているようである。
 古い農家を改築したという店内は、田舎家らしくホッとするような落ち着いた雰囲気。おびただしい数の伊万里焼のそば猪口コレクションや、土壁際に飾られている古い民具の数々が、イヤミではない自然な民芸調を醸しだしている。わざわざ食べに行く価値のある店である。
味5、雰囲気5、対応4、CP5 計19

評価時期 平成16年7月31日

慈恩寺そば(山形県寒河江市八鍬264−2 0237−87−1600 11:00〜18:00 正月三が日休み)

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弘 庵(寒河江)

 JR左沢線の寒河江駅から歩いて5分ほどの街中にある。外観は普通の住宅のようであるが、中へ入ると、廊下越しに広い座敷が広がっている。天井も高く、 由緒ある立派な旧家の造りである。店内には、水琴窟の水の滴る音がスピーカーから流されていて、心を落ち着けてソバと対峙することができる。
 ここでは通常、蕎麦粉9割で打たれる「太打ちせいろ」と「細打ちせいろ」(各650円)、そして「十割せいろ」(850円)という3種類のソバを供している。
 また、箱板に盛られた「板そば」は、2倍の量と値段、3種類のうち2種を箱板に盛り合わせた「板そば合い盛り」というのもある。

 9割の「せいろ」は、細打ち、太打ちとも蕎麦の風味が生きていて香りも高い。「十割せいろ」は、やや短く切れているようだが、透明感があって、なめらかな口当たり。ほのかな甘味があって、みずみずしいソバである。
 ツユの味は、やや鰹節風味が強いが、薄めのため繊細なソバの風味を殺さないところは評価できる。蕎麦の実のおひたし、季節野菜の漬物なども付いてくる。予約をすれば、紅花を打ち込んだ「雛(ひいな)そば」も調製している。
 ソバを打つ時に使用する水にはこだわりがあるらしく、月山、朝日岳水系の山ふところ、西川町大井澤中村、小清水の湧水とのことである。
 山形ソバのイメージが変わる、洗練された味わいのソバを打つ蕎麦屋である。

味5、雰囲気5、対応3、CP5 計18

評価時期 平成16年7月31日

弘庵(山形県寒河江市南町2−3−25 0237−85−6789 11:00〜15:00 17:00〜19:30 水曜休み)

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庄司屋(山形)

 山形では一番の老舗といわれ、江戸時代中期に山形城の三の丸付近でそば茶屋として創業したのが始まりとか。先祖伝来の山形特有の手打ちの技法を守るとともに、東京の洗練されたソバの味をも取り入れている蕎麦屋で、山形市内ではまず訪れてみたい一軒である。
 この山形と東京のソバの融合が、名物の「合もり板」(1600円)である。一方には、中太ぐらいの香り高く噛みごたえのある「田舎ソバ」、もう一方には、真っ白でほのかな甘味を感じさせる「さらしなソバ」が箱板に一緒に盛られている。
 ツユの味は、甘味と辛味のバランスがよく、とても洗練されており、さらしな、田舎双方のソバとも相性がよい。
 もちろん、普通の田舎だけを盛った「板そば」(1300円)、さらしなだけの「さらしな板」(1600円)、天ぷらの付いた「板天」(1800円)も用意されている。

 山形駅から歩いて10分ほど。街中の蕎麦屋なので地元客も多く、土日のお昼時は、けっこう広い店内も混雑しているが、わざわざ行けば、山形ソバのイメージが変わる店である。
 なお、東京の霞ヶ関にある山形県の物産センター「やまがたプラザゆとり都」には、この庄司屋の支店「出羽路」があって、ここのソバに近い味が楽しめる。

味5、雰囲気4、対応3、CP4 計16

評価時期 平成16年2月28日

庄司屋(山形県山形市幸町14−28 023−622−1380 11:00〜15:30 17:30〜19:30 月曜休み)

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作兵衛(大石田)

 山形県内の蕎麦屋の多くは、交通の便の悪いところにある。「山形そば街道」などと県の観光協会は宣伝しているが、いずれも車でなければ訪れることのできないところばかりである。
 大石田付近は昔から蕎麦の産地として知られていて、蕎麦屋の数も多いのだが、やはりJR駅から行くには不便な店ばかりである。
 その中ではこの「作兵衛」は比較的便のよいところにある。といっても、 JR大石田駅から20分余り歩かなければならない。涛々と流れる最上川に架かる大橋を渡るとまもなく「手打ち 来迎寺そばや 作兵衛」の看板が見えてくる。

 ごく普通の住宅を改築したような外観。玄関から靴を脱いで入ると、正面に調理場を覗くことのできる窓口があって、注文と会計はここで行なう。メニューは「板そば普通(650円)」、 「板そば大盛(750円)」、「にしん煮(350円)」の3種類のみである。注文を済ませて右手の座敷で、ソバの運ばれてくるのを待っていると、知り合いの家にお邪魔しているような気分である。
 箱板に盛られたソバは、山形らしい田舎ソバ。黒くて、太くて、噛みごたえがある。普通盛りでも十分なボリュームがある。ツユは、鰹節の風味がかなり強い感じである。ソバもツユも、けっして洗練された味ではなく、 よい意味で素朴さが感じられる。田舎の小母さんが心を込めて振舞ってくれたようなソバである。

最新調査時期 平成12年7月19日

作兵衛(山形県北村山郡大石田町横山108−3 0237−35−2735 http://www.mmy.ne.jp/raikouji 月曜休み)

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