天 笑(枚方市)
うどんの文化圏だった関西にも、近頃は本格的手打ちソバの店が増えてきている。大阪の淀屋橋から京阪電車に乗って、30分足らず、大阪のベットタウンという感じの枚方市にある「天笑」も、開店して数年という手打ちソバ屋である。
枚方市駅を出て、京阪の高架沿いに歩くこと数分、マンションの1階に暖簾を出している。店内へ入ると、まわりに20人は座れるかという巨大な一枚板のテーブルが、フロアの中心に据えられている。ほとんどの客は、このテーブル席でソバや酒を楽しむことになる。床には自然石が組まれ、壁面は土壁部分もあって、個性的な空間が演出されている。
ソバの風味を皆が楽しめるように、店内は禁煙である。
自家製粉の店ということで、福島県会津、長野県黒姫、茨城県岩瀬など現在使用されている蕎麦粉の産地が壁に表示されている。
冷たいソバは2種類。「細切そば」(800円)は、陶器の丸皿に笊が敷かれたところに盛られていて、見るからにみずみずしいソバである。極細、繊細で風味豊かな味わい、喉越しもすばらしい。おそらく茹で時間はかなり短いだろう。合わせるツユは、キリリとして甘味が抑えられ、ソバの風味が生きるようにやや薄め。薬味のネギのせん切りも、美しく繊細である。
「荒挽そば」(800円)は、それほど太くはない中細切り。黒い外皮が混ざっていて、ごわつく野趣あふれる食感である。短く切れてしまっているが、蕎麦の香りは申し分ない。
また、お薦めの日本酒と付きだし、そばがき、細切か荒挽のソバのセット(2000円)というのがなかなかお値打ちである。
混雑時は、空き席待ちで並ぶこともあるが、順番が来ると、接客の女性がテキパキとに席へ案内してくれる。いまや地元客でも人気の、本格蕎麦の名店である。
味5、雰囲気4、対応4、CP3 計16
評価時期 平成15年10月28日
天笑(大阪府枚方市岡南町10−30 072−846−7166 11:00〜14:30 17:30〜19:00(水曜昼のみ) 木曜・第4水曜休み)
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京都市内にも、近年、個性的で本格的な手打ちソバ屋が増えている。府立植物園の近く、地下鉄の北山駅から歩いて数分のところにある「じん六」は、蕎麦粉の原産地にこだわり、風味の違いを楽しませてくれる蕎麦屋である。
この店では、ぜひ「そば三昧」(普通1250円、大盛1550円、特盛1850円)を食してみたい。産地や収穫年の異なる3種類のソバを堪能することができる。ソバはすべて細打ちで、茨城産は香りはおとなしいが上品な味わい、長野産はもっとも蕎麦の風味が高く、福井産は風味のバランスと喉越しがよい。またある時は、福井産のソバを収穫年違いで味わい、新ソバの緑がかったその色と風味の高さに驚いたこともある。
これらの微妙な風味の違いを楽しむソバに合わせるツユは、薄口醤油ベースなのか、色が薄くかなりしょっぱい。甘味はまったく無く、まるで塩でソバを食べているような感じである。蕎麦粉が本来持っている香りと味の個性を楽しめるようにとのことだろう。薬味は自分ですりおろすワサビと辛味ダイコンを選択することができる。
ソバ前の吟醸酒は、三重の滝自慢、山形の盾の川、滋賀の松の司など日替わりで全国の銘醸酒を楽しむことができる。陶器の片口で供され、漬物など簡単な付きだしが添えられる。
酒の肴は、蕎麦の風味が高く固さもほどよい「そばがき」、まったりとして胡麻の味が生きている「ごまどうふ」、ダシの味がしみて甘味もほどよく、やわらかく煮込まれた「にしん煮」など、いずれも酒の友として満足できる品々である。
店内は、山小屋風で天井が高く開放感がある。自然木の一枚板を利用したテーブル席と小上がりの座敷席があるが、20人も入ればいっぱいになってしまう。店内はすべて禁煙、BGMは流れていない。店主ともう一人のスタッフのみで切り盛りしているため、なかなか手が回らず、けっこう待たされることもあるが、慌ててはいけない。ここは、ゆっくり落ち着いて、酒と肴、ソバを楽しむスローフードの店と心得るべきである。
味5、雰囲気4、対応3、CP4 計16
評価時期 平成18年7月19日
じん六(京都府京都市北区上賀茂桜井町67 075−711−6494 11:45〜17:00 月曜・第4火曜休み)
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段葛こ寿々(鎌倉)
ソバを 古都鎌倉、鶴岡八幡宮に向かう若宮大路沿いにあって、風情あるたたずまいを見せる蕎麦屋である。昭和初期に建てられた家屋を使用しているとのことで、店内のあちらこちらに古い木造建築のよさと懐かしさを感じることができる。テーブル席と板張りの座席合わせて20席ほど、それほど広くはないので、土日など混雑時は順番待ちになることもある。
ソバ前酒は、やはり冷酒の樽酒がよい。メニューに表示はないが、おそらく菊正宗だろう。お通しには、江戸前蕎麦屋でよく見かける、水飴状の「そば味噌」が供される。酒の肴も「だし巻き玉子」、「焼きのり」、「わさび芋」、「板わさ」など江戸前のものが中心だが、珍しいつまみとして、「たたみいわし」と「たこぶつ」がある。特に、軽くあぶった「たたみいわし」は香ばしく、酒が進む。
メインのソバのほうは、「もりそば」が700円。コシがしっかりとある細打ちで、風味のよいソバ。全体的にはそれほど黒っぽくはないが、所々に黒い外皮の部分が点々と打ち込まれている。ツユはとても洗練されていて、深い味わいコクがある。
その他のソバでは、「辛味おろしそば」(900円)、「鴨南つけそば」(1300円)などもよい。
接客の女性スタッフの丁寧なサービスも申し分なく、鎌倉という場所にふさわしい、趣のある蕎麦屋である。
調査時期 平成14年2月9日
段葛こ寿々(神奈川県鎌倉市小町2−13−4 0467−25−6210 11:30〜18:30 月曜休み)
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昔から蕎麦の生産地として知られ、長野県でも代表的な観光地の一つである戸隠には、数多くの蕎麦屋が軒を連ねていて、どの店へ入ってもある程度のおいしいソバを食べることができる。そんな中でも、この「うずら屋」はこだわりのソバを供する店として、県内の人たちにも評判のようである。
お薦めはやはり冷製の「ざるそば」(840円)。地元生産者から仕入れた玄蕎麦を冬季に石臼で製粉、新鮮な旨みを残した状態で挽いた蕎麦粉をマイナス20℃で冷凍保存、これを日々解凍し手打ちを行っているという。
戸隠名産のネマガリダケの編み笊に盛られたソバは、中細打ち、みずみずしくてツヤがある。風味もほどよく、コシもあっておいしい。ツユはやや甘い感じもするが、あまり濃くないので、ソバの味を邪魔しない。薬味は自分でおろす本わさびと大根おろしとネギ。おつまみに野沢菜漬けも付く。
その他のメニューとしては、「深山おろし」、「芋汁そば」、「天ざるそば」などがあるが、春の「山菜の天ぷら」はお薦め。タラノメ、コゴミ、ウドなど旬の山の幸を楽しむことができる。
木材をふんだんに使った店内は2階建てになっていて、1階が喫煙可能なテーブル席、2階は禁煙でテーブル席と座敷席が広がっている。2階は落ち着いた雰囲気なので、思わず一杯やりたくなる。ここでは、「真澄」をはじめ長野の地酒が各種用意されている。
土日の昼時は混雑することが多く、順番待ちになることも多いので、平日または昼時をはずして訪れたい店である。
調査時期 平成14年4月30日
うずら家(長野県上水内郡戸隠村戸隠中社3356 026−254−2219 10:30〜16:30 水曜休み)
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長野市内では、話題の人気店である。桃畑などが広がるのどかなロケーションにありながら、連日昼時になると、大勢の地元客が車で訪れる。訪れる時刻をかなり外さない限り、まず順番待ちを覚悟する必要がある。店内に名前を告げたあとは、席が空いて名前が呼ばれるまで、ひたすら外の駐車場で待つのである。
山小屋風の店内は1階のテーブル席と、靴を脱いで上がる2階の狭い座敷席に分かれている。BGMには軽音楽が流れている。
この店の人気の秘密は、ソバの味もさることながら、そのボリュームとコストパフォーマンスの高さにある。並の「もりそば」が575円、「中もりそば」が600円。そして、これ以上のせると崩れそうなほど超特盛りに盛られた「大もりそば」が650円である。
盛りのわりにツルツルと食べられるのは、なめらかな喉越しのよい細打ちソバのためだろうか。香り、風味ともなかなかよい。合わせるツユは、ダシと甘辛味のバランスがよく、キレがある。
また数量限定ながら、蕎麦本来の風味を活かした「十割荒挽きそば」(750円)、上品な味わいの「さらしなそば」(750円)、そして「もり」、「十割」、「さらしな」すべてが楽しめる「そば3枚」(1050円)も用意されていて、ソバ職人としての技術の高さも見せている。
他には、種物の「天もりそば」(1250円)もお薦め。巨大な海老2本とたっぷりの野菜の天ぷらが添えられている。ソバの量は同じく、プラス25円で「中もり」、プラス75円で「大もり」にすることができる。
ソバ前に、キリンビール、エビスビール、「菊正宗」樽酒などを飲みながら、「板わさ」、「わさび芋」、「鴨焼」などの酒の肴を楽しむこともできるのだが、お客が行列している昼時は、とてものんびり一杯やる雰囲気ではないのが残念である。
味4、雰囲気4、対応3、CP5 計16
評価時期 平成17年4月27日
たなぼた庵(長野県長野市川中島四ツ谷350−2 026−285−6126 11:00〜15:00 17:00〜20:00(火〜土) 月曜休み・祝日の場合は火曜休み)
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蕎麦屋というカテゴリーにとどまらない奥深さを感じる名店である。場所は丹波篠山の自然に囲まれた山間、落ち着いてゆっくりと食事をするには理想的な環境である。けっして交通の便がよいとはいえず、JR福知山線の篠山口駅からタクシーでも30分近くかかるのだが、それでもわざわざ予約して訪れる価値がある店である。
一見普通の民家のような、平屋一戸建ての玄関の引き戸を開けて中へ入ると、正面左手の方にやや照明を落とした畳敷きの個室と、ガラス戸の開放的なテーブル席に分かれている。昼の時間帯なら、まわりの風景を満喫しながら食事のできるテーブル席がよい。
ここでは、蕎麦懐石風に一品ずつ供される「蕎麦ひとそろえ」(4500円)をぜひ楽しみたい。
コースの中で印象的なのは、まずソバ前に供される季節の食材を使った肴の箱盛。一品一品丁寧に調理された数々の肴の美しくおいしいこと。たとえば春であれば、ワラビ、コゴミ、ウド、モミジガサ、ノビルなどの山菜の他、鹿肉のロースト、ダッタン蕎麦揚げ、タケノコのお浸し、モロミ味噌などを一口ずつ味わうことができる。合わせる日本酒は、秋田の由利正宗、福井の黒龍、島根の王禄、愛知の義狭などこだわりの銘酒が用意されてる。
メインのソバは原産地にこだわり、4種類が供される。たとえばある日は、徳島県祖谷産蕎麦粉で打った細打ちソバ、茨城県水府産の蕎麦がき、島根県三瓶産の粗挽き太打ちソバ、福岡県丸岡産のおろしソバなど。これらを、ツユの濃淡を変えたり、塩につけて食べたり、生醤油で食べたりと多彩な味わい方でソバの魅力を堪能させてくれる。
その他、季節の食材を使った煮物や、ダッタン蕎麦粉をつけて揚げた天ぷらなども供され、最後のデザートを食べ終わった頃には、何とも言えない爽快感と充実感に満たされるのである。
ひと通りの食事が終わるまでにに要する時間はおよそ2時間。このゆったりとした時を本当に楽しむことのできる人に訪れてほしい店である。きっと、店主は一期一会の心からのおもてなしで迎えてくれるだろう。
味4、雰囲気5、対応5、CP4 計18
評価時期 平成18年7月17日
ろあん松田(兵庫県篠山市丸山154 079−552−7755 12:00〜16:00入替制 18:00〜 火曜休み 要予約)
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