nothing changed
俺はやり過ぎたのだろうかと、マイクロトフは自問する。
春麗らかな日の昼下がり。執務室の窓辺に置いてある長椅子に腰を下ろし、眩しい外の景色をなんとはなしに見下ろしながらマイクロトフは溜息を落とした。
赤騎士団は相変わらずなのだろうか。
これまでだって型破りな団長に振り回されて、それでもなんとかまともな運営を保ってきていた有能揃いの赤騎士団は。身も心も春の化身と化したあの男に更なる災難を被ってはいないだろうか。
マイクロトフの心配は、そんな自団の事では無い赤騎士団の事に尽きていた。
どうもあの日、以前のように気楽に付き合っていこうと告げたあの夜からカミューの様子が変わった。その原因はやはり自分なのかとマイクロトフは暗い気持ちになる。
―――俺は以前のようにいられるのが良いと言ったのに…。
自然とマイクロトフの瞳が遠くを見詰める。
―――それで何やら誤解をしたみたいだったから追いかけてその誤解をといただけなのに。
知らずその表情が憂いに満ちる。
―――誤解をとくだけにしては、やり過ぎたのだろうかやはり…。
と、小さな吐息が零れるのだった。
考えるにどうやら好意の意思表示の大放出をしてしまったらしい。
マイクロトフが長年友誼を深めていたカミューと、互いに恋情をもって相思相愛になったのはそう遠く無い最近のことである。
最初にそんな気持ちを抱いたのは紛れも無くカミューからだったろう。マイクロトフの方がカミューへのそんな気持ちを自覚したのは、彼の向けてくるひたむきな眼差しによるものだったのだから。
出来ればカミューの方から打ち明けて貰いたいと思い始めたのはいつ頃からだったか。そう思って見守っているといつの間にかカミューの様子がおかしくなってきて。それはつまりマイクロトフに好きな相手が出来たなどと言う噂が騎士団内に広まってからなのだが、それである日カミューが泥酔して帰ってきた。その時に追い詰めて心情を吐露させたのだ。無論マイクロトフの気持ちも打ち明けた。
それで、なんとなく満足してしまったマイクロトフにも落ち度はあったと思う。
元からカミューが己に寄せてくれる焦がれるほどの想いは心得ていた。さりとて気付いていても、その好意に充分な好意を持って返せるとしても、マイクロトフだって随分悩んだし勇気がいったのだ。
だから未だに心構えがなっていないのか、相愛になった今でもカミューを前にすると照れる。
照れるから極力親密にならないように牽制をしていたのだ。もっとゆっくり親しくなれば良いと思って。だがそれがカミューに要らぬ不安を与えていたらしいと知ってマイクロトフは即座にそんな自分を反省した。
カミューは言わば長年お預けを食らった犬のようだったのである。
いや、こんな表現をしてはカミューが気を悪くするだろうか……しかしそんな表現が一番しっくりくるのがマイクロトフにとってなんとも物悲しかった。
まさに鎖を解き放たれた飢えた犬のようなのであるから。
ともあれそんなカミューだったからこそ、最近になってカミューに友情以上の何かを感じ始めたマイクロトフと違って、かなりその辺―――どの辺だ―――が限界らしかった。それはもうあんな誤解をしたりその前に飲んだくれたりと、理性のぶっち切れ具合がいかほどのものか教えてくれるのだから。
何年も自分を想い続けてくれていたらしいそんなカミューの気持ちは尊重したい。だが最近自覚し始めたマイクロトフの気持ちだって無視出来ないと思う。この食い違いをいったいどうすれば良いのだろうか。
そこまで考えてマイクロトフは再び溜息を落とした。
と、そこへ軽快なノック音が響き渡り、マイクロトフが応答を返す前に扉が派手に開かれた。
「マイクロトフ〜」
語尾にハートマークでも飛んでいそうな調子のカミューがマイクロトフの思索をぶち破った。浮かれた声に重い吐息で返して立ち上がる。
「どうしたカミュー。今は仕事中だろう」
「うんっ」
にっこりと笑ってカミューは両手を広げると一目散にマイクロトフをめがけてやってくる。そしてあっという間に抱きつかれた。それを押しやりながらマイクロトフは喚く。
「仕事中で何故ここに来る!」
「休憩なんだよ〜」
「だったら大人しく茶でも飲んで休んでいろ!」
「いやだ、俺はマイクロトフの胸でひとときの憩いを味わうよ」
「馬鹿者!」
胸に頭を擦り付けてくる男の頭を叩き落としてマイクロトフはなんとかその身体を引き剥がした。
「痛い〜、ひどい〜」
「痛い目にあいたくなければ大人しく執務室で休憩をしていれば良い」
「冷たい……」
じっとりとした眼差しでカミューは引き剥がされた両手をウズウズと蠢かせながらマイクロトフを見る。ふいっとそんなカミューから目を逸らすと追うように言葉が投げられる。
「少しの時間でもマイクロトフの顔が見たいと思ってきているのに……もしかして、迷惑? やっぱりこんな俺は鬱陶しい?」
「………」
鬱陶しく無いと言えば嘘になる。だが今ここでそれを言ったらこの男は身も世もなく泣いて縋りつくなり喚き散らすなりするにきまっているのだ。それを身をもって思い知らされているマイクロトフは深い溜息を落としてカミューに視線を戻した。
「迷惑では無い……ただ休憩時間は貴重だろう。休める時にきちんと休め」
「俺の事心配してくれてるの? 良いんだよ。こうしてマイクロトフといられるだけで元気になるんだからね」
そしてにっこりとそれはもうマイクロトフが見惚れる程の綺麗な笑顔をして手を伸ばしてくる。それをやや赤い顔をして今度は黙って抱き締められた。何しろカミューにそう言われてはマイクロトフには何も言えないのである。
相愛になってから暫く、カミューは毎日無理を押してでもマイクロトフとの時間を作ろうとしていた。それではただでさえ忙しい身には随分な負担だろうと思ってマイクロトフはそんな無理をして会う必要など無いと言った事がある。その時に何やら誤解をしたらしいカミューを宥めるのに苦労をしたのだが、いざ誤解が解けると彼は臆面もなく言い放ったものだった。
「マイクロトフといるだけで、言葉を交わすだけで、触れ合うだけで、疲れなんて何もかも解けてなくなるんだよ。本当だよ…」
綺麗な微笑でそう真摯に告げられては、参るより他に無かった。
以来、その言葉を証明するかのように事あるごとにマイクロトフの元へと通い詰めるカミューなのである。それこそ、恥も外聞もなく、愛のために。
それまでの想いを内に秘めて鬱々としていた姿などまるで夢だったかのように、カミューはマイクロトフに愛を告げる。どうやら彼の中では意識の切り替えが行われたらしい。
少し前までは触れることさえ躊躇っていたのに。
「マイクロトフ〜」
抱き締めたマイクロトフの体温を全身で味わって、事もあろうに背に回した掌はさわさわと好きなところをさ迷う。
「おい……」
「あ、ごめんごめん」
「直ぐ戻るのだろう」
「うん。残念」
言いながらもぐりぐりと頬を押し付けて身体中でマイクロトフを堪能している。
だがやはり執務中の僅かな休憩時間に抜け出してきたのだろう。名残惜しげにそろそろと身を離す。だが離れ際、そっと耳元にその唇が寄せられた。
「また来るからね」
「………」
「マイクロトフが来てくれても良いんだけど。今日休みなんでしょ? ずっとここにいるの退屈しない?」
「………」
「ま、でもここで待ってくれてる方がこうして抱き締め放題なんだけどさ」
「早く行け!」
マイクロトフが反射的に拳を振り上げるとカミューが素早く身を離す。
「ははは、照れ屋さんなんだからまったく」
「馬鹿者が!!」
「じゃあね、愛してるよ〜〜」
「………!!」
扉まで駆けて行って最後にそんな事を臆面もなく告げる男に、マイクロトフはわけもなく羞恥が募って口をぱくぱくとさせた。だが何かを怒鳴り返そうとする前にカミューの姿はさっさと扉の向こうへと消えてしまった。
そしてまるで嵐が過ぎたような部屋に一人取り残されて、マイクロトフはまたふらふらと窓際の長椅子に腰を下ろして、外の景色にぼんやりと視線を向ける。何故か、麗らかな春日の眩しさがやけに目に痛く感じるのだった。
* * * * *
ぐふふふふ。
不気味な含み笑いが聞こえて、赤騎士団副長はびくっと肩を奮わせた。だが流石は騎士団でも上位に立つ者というか、奇特な男の部下として伊達に長くはないというか。顔色を変えなかったのは見事だ。
太陽が西へと傾きかけた頃、不意に休憩を告げて何処かへと姿を消した上司、赤騎士団長カミュー。彼の最近の言動はとても奇怪だった。尊崇と敬愛を捧げる自団長ながら本当にこんな人がこの赤騎士団の長で良いのだろうかと疑問さえ持つほどそれは奇怪だった。
休憩だと言う、その僅かの時間を経て何気ない顔をして戻ってきた彼は、だが機嫌の良さを隠しきれ無い様子で再び執務に没頭し始めた。そして突然先程の含み笑いである。
はっきり言ってなんだか怖い。
副長とて騎士の名を受けてからはや幾年。数々の戦場において武勇を連ねてきた身である。青年期をそろそろ過ぎて、邪気の無い幼児にはもう「おじさん」としか呼ばれないような外見になり、その細い目がどうしてか穏やかな印象をかもすために「赤騎士団最後の良心」などと噂されていようが実際はこれでも勇猛果敢な騎士である。そんな副長が思うのだ。怖いと。
彼はそろそろと最大の注意を払って、さり気ない風を装い敬愛する団長へ視線を向けた。途端に背筋を伝った得たいの知れ無い感覚に思わず椅子ごとひっくり返りそうになる。
頬を染め、まるで恋する乙女。軽く小首を傾げてその潤んだ視線はどこを見ているのか分からないが、遠くを見詰めている。そして動きの止まって久しいらしい右手に握られた羽根ペンの先は、いじらしく緩んだ唇がそっと噛んで慰撫していた。
副長はわなわなと震えた。
こんな精神衛生上、たいへん宜しく無い職場は無い。
何が哀しくて雄々しく凛々しい青年のこんな姿を見なければならないのだ。彼は男泣きに泣きたい衝動に駆られ、だがそれも寸でのことで堪えて反射的に席を立った。だが上司の方はそんな副長の動きに微塵の反応すら見せない。
副長はふらふらと部屋を出た。
そこで隣接する続き部屋で執務に励んでいた部下たちが揃って副長を見た。
「どっ、どうされたのですか!」
よほど顔色が良くなかったらしい。副長は憔悴も顕わな声音で返した。
「仕事にならぬ……」
そして副長は空いた椅子にどっさりと身を置くと、両手で顔を押さえつけ重い溜息を落とした。
「カミュー様はいったいどうされたのだろう。まるで良く無い何かに取り憑かれておいでのようだ……」
「取り憑かれて?」
途端に部下たちは眉をひそめて副長の周囲に集い始めた。
「そう言えば先ほどお戻りになられた時にちらりとお顔を伺ったが……ぼんやりとしておられた」
「さようか? あれはどちらかと言えばうっとりではないか?」
「あの僅かな時間でカミュー様が何にうっとりすると言うのだ」
「しかし実際に蕩けるような顔をしておられたぞ」
「そうだったか?」
「ああ」
そこで沈黙が降りる。皆一様に腕組みをしたり項垂れたりをして尊崇する団長の様子を思い出しているらしい。そこで副長がぽつりと呟いた。
「このところの休憩時間に、カミュー様がどこへ足をお運びか知っている者はおらんか」
「あ、俺知っています。青騎士団の方ですよ」
若い騎士がひょいと答えた。
「青騎士団……?」
ひくりと副長の声が震えた。
とそこで重々しいノックの音が響き、一同の思考は中断された。
「何者か」
扉の傍にいるものが声をかけると珍しい人物の声が返った。
「青騎士団から参った」
その声は青騎士第一隊長の声である。慌てて扉を開けると背の高い第一隊長が室内を睨みつけるようにして立っていた。といっても彼の眼差しは常に何者かを威嚇するようなのでこれはいつもどおりである。
「いったいどうされた」
今日は青騎士団とは何の連携もなかったはずだと副長が立ち上がろうとした。しかし第一隊長はそれを構わないと手で制して室内に踏み込んできた。
「赤騎士団長殿のことで相談に参った」
「カミュー様がな、何かっ」
たった今カミューがどうやら青騎士団に出入りしているらしいと話していたばかりだ。途端に赤騎士立ちは目を見開いて青騎士団の第一隊長に視線を集めた。しかしそんな赤騎士たちの内情を知ってか知らずか、彼はここを訪れた時から表情を全く変えずにまた別の名前を出した。
「マイクロトフ団長なのだが」
「カ、え? マイクロトフ様が?」
肩透かしを食らった形の赤騎士たちに、彼は更に続けた。
「溜息で金が溜まれば大金持ちになっている」
「はあ?」
青騎士団の第一隊長の言動は時に相手をおちょくっているのでは無いかと思うほど突拍子が無い。だが次の言葉に赤騎士たちはぐっと詰まった。
「原因は赤騎士団長殿だ。事あるごとに暇さえあれば団長の元へおいでになる。それを気になさってあの方は胸を痛めておられる」
無意識に落としておられる溜息がとても気の毒だ。と言う第一隊長に赤騎士たちは言葉をなくす。おかしいのはカミューだけかと思えばマイクロトフまでとは。あの前向きで陽の中を真直ぐに脇目もふらずつき進んで行くような、迷いや憂いなどまるで無いような青騎士団長が溜息を……。
「団長があのような調子では青騎士団の士気に関わる」
第一隊長がぴしりと言った。
「た、確かに」
話を聞いただけでも赤騎士たちはこれほど狼狽しているのだ。これが全ての騎士の知るところとなればその動揺は計り知れないだろう。
「早々に何とかしなければ、このままでは団長の溜息は積もり積もって蔵がたつ」
重い吐息と共に吐き出された第一隊長の言葉に、赤騎士たちは首を傾げながらも頷いた。蔵が云々のところはともかく、何とかせねばならないのは同感である。
「だが以前カミュー団長がおかしくなられた時、助言を下さったのはマイクロトフ様だ」
「あぁ、そうだった。しかし今回はそのマイクロトフ様も様子がおかしいとあっては……」
自分たちだけでどうにかする手立てなどまるで浮かばない一同である。そして彼らははぁーっと溜息を落として首を振った。
双璧とさえうたわれる団長たちはいったいどうしてしまったのだろうか。そして我がマチルダ騎士団の行き先はどこに向かっているのだろうか。
* * * * *
その日は朝から雲ひとつ無い晴れやかな空がどこまでも続いていた。
まるで俺のようだと、赤騎士団長はひとりごちる。その傍らで副長がやけに浮かない顔をしていた。原因は当然のこと隣で浮かれている赤騎士団長である。
常にもまして躁状態のカミューである。やる気百倍と看板でも立っていそうな状態であるからして、仕事が捗っているのは良いとする。だがその弊害が、たまったものではなかった。
「うふふ……」
何と言ったか今この男は。うふふと笑ったか。副長は掌にじっとりと浮かんだ汗を感じて、その不快さに顔を顰めた。いったい今度は何を思い出しているのやら、ここ数日この赤騎士団長の執務室を訪れる部下たちの顔ぶれが随分と減ってしまった事から、それが誰も聞きたく無いような類のものであると、僅かながら考えられる。
まぁ今時分は騎士団もそう大変な時期でもなく、また国境も随分と落ち着いているからそう気に病むこともない。しかし領内では不埒な盗賊どもが徒党を組んで悪さを働いているとか、そんな噂が出ているので気が抜けないのは確かだ。
だが団長がこの有様では―――。
副長は深く溜息を落とした。
「なんだ、暗いな。悩み事かい?」
唐突に団長から悩み事などこの世の中に存在などしないだろう、とでも言いたげな声で問い掛けられて副長は慌てて首を振るう。
「い、いえ……あ、まぁその。盗賊の噂を思い出しまして」
「盗賊?あぁ、話は聞いている。何か悪い噂でもあるのか?」
最近領内で跋扈している盗賊団がある。聞こえてくる話ではかなり性質が悪いらしいが、今のところそう大きな組織でも無いようだから騎士団も動かない状態だった。
「はぁ、いえ」
困惑したままの状態で副長は頷いて首を振るうとカミューはくすりと笑ってさらりと鼻歌でも歌い出しそうな勢いで言った。
「ま、今の領内巡察は青騎士団の役目。不埒な輩がいたら始末をつけるのは彼らだろう。赤騎士が気にする事では無いよ」
「さようですな……」
「さぁ、午前中に済ませられる仕事は片付けてしまおう。昼からは、ふふ、青騎士団との打ち合わせ会議だよ」
「…さよう、ですな」
張り切るカミューの声音に、副長はがっくりと項垂れて書類を指先で摘み上げた。
本来ならば赤騎士団と青騎士団と、その面々は会議室の大きなテーブルを挟んで左右に分かれていなければならない筈が、この日はその席割が大きく形を違えていた。
「カミュー……お前は俺の正面に座っているはずだろう…」
「良いじゃないか、隣の方が良く声が聞こえる」
「そこはうちの副長の席だ、譲れ」
「追い払うのか? ひどいな」
後から来た青騎士団の面々よりも随分と早く会議室に訪れていたらしい赤騎士団。その団長の型破りな態度に誰もが重苦しい沈黙を守っていた。何も言うまい、今ここで口を挟めば何があるかしれない。
「馬鹿者。いつも通りの席が一番効率的だろうが。それが分からんおまえでもあるまい」
「ちぇー」
マイクロトフに叱られてカミューが渋々立ち上がるのに、一同があからさまにホッとする。いくら何でも団長同士が隣り合って仲良く会議なんて姿は今まで聞いた事も見たことも無い。それで大きな不都合があると言うわけでは無いが、やはり形式を重んじる騎士団においてそれはあまりにしまりがないだろう。
そして一同がはらはらとしながらもカミューが通常通りの席につくと、会議は始められた。だが思ったほどに会議が滞ると言うことはなく、やはりカミューもそれなりに真面目な面持ちになる。時折不必要なほどに真正面に座る青騎士団長を見詰めることさえなければ。
そしてそろそろ会議も終わろうかと言う頃。会議室の重厚な扉の向こうから騒がしい音が聞こえて、それが慌しく開けられた。
「何事か、会議中であるぞ」
扉側の騎士が声を上げると、駆け込んできた青騎士は威儀を正して会議室に座す面々を見回した。
「し、失礼いたしました。しかしながら急を要すのであります!」
青騎士はそこに居並ぶ幹部たちを目の前にして、緊張を隠せぬ様子で無礼を詫びたが、直ぐにマイクロトフへと視線を定めると大きく息を吸い込んだ。
「例の盗賊団が村をひとつ占拠いたしました。略奪と殺人が行われております」
「なんだと……っ!」
震える声でマイクロトフが驚きを隠さずに立ち上がる。当然ながら他の者たちももたらされた情報に顔色を変え、カミューもまた例外でなくその視線を鋭く青騎士へと向けた。
「は! 逃げ出してきた村人を保護いたしましたが、その証言によると未だ村には大勢の女性が囚われているままだと」
そして騎士団に早急な救出を求めているのだと。
ち、と下唇を噛んで考え込むカミューに、隣に座っていた副長が囁きかけてくる。
「いかがいたしますかカミュー様。現在ゴルドー様は不在です」
「……あぁ、そう言えばグリンヒルの市長に呼ばれて出向いていたか」
「はい、ですから勝手な振る舞いは後々問題に…」
「問題も何も、ここで何も手を打たない方が問題だろう。それに……」
緩やかに肩を落としてカミューはふと笑った。
「もうとっくにあいつは飛び出して行ってしまったし」
会議室に既にマイクロトフの姿は無い。それを示唆するカミューの言葉に副長も「はぁそうですな」と頷く。そして何も言わずに飛び出して行ってしまった団長に、取り残された形の青騎士たちを見た。
カミューはそして笑顔をしまいこむと一転、厳しい面差しに変えてそんな彼らを一瞥した。
「何をしている。早くマイクロトフを追わないか」
「あ、いやしかし」
「構うな。ゴルドー様不在の今、騎士団の最高責任者はわたしだ。いいからさっさと行け! それとも虐げられる民を前に動けぬとでも言うのか?」
それでも騎士か! と叱咤すると流石に彼らの表情が変わる。
何を言うまでもなく彼らは身も心も騎士である。カミューの言葉にさっと顔を赤くすると席を立ち足早に会議室を出て行った。それを見送る赤騎士たちであったのだが、続いてカミューもまた立ち上がるのにハッとする。
「カミュー様?」
「我らも急ぐぞ。賊の討伐は青騎士団に任せるとしても、他にするべき事も多くある。よもやその全てを青騎士だけにさせるつもりか?」
領内の村のひとつが盗賊如きに占拠されるなど、あってはならない。
カミューの瞳に浮かぶ色に、残っていた赤騎士たちも慌てて席を立つ。そして会議室を後にして颯爽と行く団長の後を追う。そうしながら彼らはそこに、尊崇すべき赤騎士団長本来の姿を見出し、喜びに瞳を輝かせたのであった。
* * * * *
足早に進みながらカミューはついてくる騎士たちに次々と指示を出していた。
「門番に伝えろ。決してマイクロトフを一人では通すな―――せめて誰か一人部下が追いついてから通せ」
頭に血が上ると無茶をする男だから、団長の立場も忘れて一人で飛び出しかねない。勿論カミューとて彼の剣の腕と悪運の強さは充分に理解しているが、かと言って一人では到底向かわせられないものである。それはカミューのみならず青騎士も、また赤騎士たちも心得ている。
ところがそうして指示を受けた赤騎士が走り出そうとしたところで、向こうからひとつの人影が迫ってきた。
「門番には既に連絡済みです」
青騎士団の第一隊長がそんな事を告げながらやってくる。確か彼もまた先程の会議に出席していたはずだ。そして無言で飛び出して行ったマイクロトフを、カミューが叱咤する前にすかさず追って出て行ったのだ。
「流石だな」
にやりと笑ってカミューは第一隊長と相対する。
「それほどでも。ご存知無いかもしれませんが、あの方のおかげで青騎士団は不測の事態でも慌てず落ち着いて行動する癖がついているので。それこそ空から槍が降ってもそれを拾って溜め込むくらいの余裕はあります」
なんだその喩えは……と一同は一瞬沈黙するが、カミューはそうでもなかったようだ。
「知ってるさ。それでマイクロトフは?」
にこにことカミューは笑いながら問うのに、対する青騎士団の第一隊長は「えぇ」と頷いた。
「押し留める門番が苦労をしているところでしょう。助走でもつけて城壁くらい飛び越えそうな勢いですよ」
「そうか……」
呟いてカミューが俯いて何ごとかを考えはじめる。側にいた副長は、そんなカミューの口元に浮かぶ微笑に良からぬ気配を感じて青褪めた。
「なっ、なりませんカミュー様!」
「なにがだい?」
ゆっくりと振り向いて首を傾げるカミューだが、その目は副長では無い別の何かを見ている。副長はぶるぶると首を振って冷や汗を掻きつつ両手を広げた。
「ゴルドー様不在の今、マイクロトフ様が城を飛び出す勢いならばカミュー様はこのロックアックス城にて……―――」
「大人しく守りを固めていろと? それはお前たちに任せるよ」
「は? あ、いえカミュー様!!」
「わたしはマイクロトフを追いかける」
言うなり駆け出すカミューに副長が「なりません〜〜!」と叫ぶが、彼の足は止まらない。どころか、青騎士の第一隊長までがそんな副長をまぁまぁと宥める始末。
「ここのところカミュー様もずっと城詰めが続いておられる。そろそろ鬱憤晴らしも宜しいでしょう」
「しかしっ!」
ここ最近様子のおかしかった赤騎士団長が、以前通りに戻るのは大歓迎だが、こんな好戦的なところだけ戻っても大迷惑である。しかしそうして顔色を変える副長に、青騎士団の第一隊長はにやりと笑ってカミューの後を追って駆け出した。そして追いつくとちらりと振り向いたカミューににこりと微笑みかける。
「お供致しましょう」
そして彼はこちらです、と正門では無い別の方向へとカミューを誘う。
「馬を用意させてあります。団長に早く追いつけるかと考えまして」
「良いね」
手際の良さにカミューは満足気に頷いて裏門の方へと足を向けたのだった。
裏門への道すがら、第一隊長から事の次第を聞いて賊が占拠したと言う村の詳細を知る。
「なんだ、結構近いな」
「えぇ、不敵な者どもですね」
「このマチルダの騎士を甘く見られているのかな?これはちょっとただじゃすませられないな」
裏門に待ち構えていた愛馬に身軽く飛び乗りながらカミューは物騒な事を言って笑った。
「そうですねぇ」
呑気な第一隊長の相槌にひとつ頷いてカミューは愛馬の腹を蹴って駆け出した。ひと息遅れて第一隊長もその後を追う。
「カミュー様!」
「なんだい」
「私が言うものではありませんが、くれぐれも無茶はなさらないでくださいよ。無茶はマイクロトフ団長の専売にしておいてください」
「分かっているさ」
軽やかに答えてカミューは馬を更に煽って駆けた。
件の村まで馬を駆れば直ぐ。
いかなマイクロトフと言えども真正面から飛び込むような無謀はすまい。部下が付いているのなら尚更だろう。あの周辺の地理ならば平騎士の時分に知り尽くしているカミューである。マイクロトフも同様、恐らく村の際にある林にでも一時潜むに違いないと当たりをつけて、その用に馬を走らせた。
案の定。木立の中を器用に馬を進めて行くと、蹄が土を抉ったらしい真新しい痕跡を見つけた。
「カミュー様」
「うん。流石に慎重には動いているようだな。間に合ったらしいよ」
にやりと笑うとカミューの愛馬が不意に首をもたげた。
「どうした?」
前屈みになってその首を慰撫するように叩けば、ピンと立っていたその耳がピクピクと動く。誘われてカミューも耳を澄ませば遠くから僅かではあるが馬のいななきが聞こえた。
「……見つけた」
いや、この場合見つけられた、なのか。カミューはにっこりと笑うと愛馬の耳に囁いた。
「さ、行こう。分かるだろう?」
すると答えるように愛馬は僅かに方向を変えると木々の生い茂る木立へと、何の迷いもなく踏み入って行こうとする。カミューはただ邪魔になる張り出した枝を払い落としながら黙って馬の歩みに身を任せた。
「カミュー様?」
青騎士の第一隊長が怪訝な声を上げる。
「黙って付いて来い。マイクロトフのいる場所へは、こいつが案内してくれるよ」
カミューの馬はただ足取り軽く、むき出しの木の根を上手く交わしながら奥へ奥へと分け入って行くのだった。
* * * * *
ガサガサと木々を掻き分けながら進んでいけば、そこにはカミューの予想通りに青い騎士服が木立の中にちらほらと見え隠れして見えた。嬉しくてならず馬を少々急かしてその場へと駆け付ける。
すると、とつぜん現れたカミューと第一隊長の姿に驚いたのだろう。青騎士たちはかくかくと指をさして固まる始末で、だがそんな彼らには頓着せずにカミューは颯爽と馬から降りると一番向こうにいる見覚えのある背中へと急いだ。
「マイクロトフ」
駆け寄りながら名を呼ぶがその背中は振り返らない。
「マイクロトフ?」
二度呼ぶと、漸くその背中がピンと伸び、ゆるゆるとその黒い頭が振り返った。そしてその黒い瞳がカミューの姿を認めてすうっと細められる。誘われるようにカミューも目を細めてにっこり笑うと、マイクロトフの唇がふと震えた。
「こ………」
「こ?」
カミューが首を傾げた途端マイクロトフが大口を開けた。
「……んなところで何をしとるかおまえは!!!」
響き渡った大声に辺りにいたらしい野鳥が一斉に飛び立つ。
「マ、マイクロトフ団長、声、声が大きすぎますっ!」
「あれ、怒られてしまったよ」
慌てふためく青騎士たちの中で一人赤い色の目立つカミューは困ったように笑う。その横へ追い付いた第一隊長が深々と溜息を吐いた。
「分かっていた事でしょう。無謀さではあなたはマイクロトフ団長にも負けませんよ。意図しているだけによほど性質が悪いんですから」
やれやれと首を振る第一隊長だったが、マイクロトフは肩を怒らせて更に怒鳴った。
「カミュー! どうしてここにいるっ!」
「そりゃあ、おまえを追いかけてきたからに決まってるじゃないか」
当然じゃないかと、場も状況も関係なく蕩けるような笑みで答えられてマイクロトフは喉を詰まらせた。
「な…っ! おまえ、団長としての自分の立場を分かっているのか! 今すぐ戻れ! 即刻城に帰れ!!」
正論を吐き怒鳴り叱り付けるマイクロトフであるが、対するカミューの方はまるで風にそよぐ柳の如く柔らかな笑みを浮かべている。まるで言葉も価値観も違う遥か彼方の異邦人を相手にしているかのような心地になってマイクロトフはがっくりと項垂れた。すると心外だとばかりにカミューは年甲斐もなく唇を尖らせた。
「つれない。第一、自分の立場も後先も考えずに飛び出して来たのはマイクロトフであって、私はちゃんと部下たちに後を頼んで出てきたのになぁ」
くるりと振り返ってカミューは共にここまでやってきた男に同意を促した。すると、渋々ではあるが彼は頷き、ちらりと自団長を伺い、軽く溜息を落とした。
「確かにカミュー様は赤騎士団の方々に、任せると言い置いてここにおいでです。まぁ多少の無理強いはございましたが?」
それはもう、見事な手際で相手に反論を与える隙も作らず相変わらずの笑顔で。
「………そうか」
妙な言動は多いが、偽りだけは絶対に口にしないともっぱらの信用を得ている青騎士団第一隊長の言葉に、マイクロトフはがっくりとしたまま重々しく頷きカミューを見た。その顔は機嫌よく心なしかきらきらとその瞳が輝いているようにすら見える。
「青騎士の仕事だから、邪魔はしないよ。ただそうだね、ちょっとばかり手伝わせてくれれば良い」
私がいると便利だろう? とカミューは自身満々に胸を張る。確かに剣技にも魔力にも、いわんや知力にも他の追随を許さぬ赤騎士団長であるからして、その通りではあるのだがマイクロトフは大きく溜息を吐き出して「いや」と首を振った。
「ここに来てしまったものは、もう仕方なかろう。だが赤騎士団の団長であるおまえを動かす裁量は俺には無い。だから、おまえは何もせずに見ていろ」
「固いなぁもう」
同じ団長職とは言え厳密な上下を示すのなら、青騎士団長は赤騎士団長よりも位階が下である。その辺のけじめはきっちりつけなければ気がすまないマイクロトフだ。そう言うのも当然であろう。だがそれでは何のためにここに来たのか知れないカミューだ。
「それなら良いさ、私は勝手にやらせて貰おう」
拗ねたような口ぶりのカミューにマイクロトフがハッと顔を上げる。
「待てこら」
「なにさ」
「邪魔をするな」
途端にカミューがじっとりとした目でマイクロトフを見た。
「どの口がそう言う事を言うんだ、ええ?」
「……おまえの日頃の行いが言わせるのだろうが。恨みがましい目で見るよりも、自省しろ」
毅然と反論されて珍しくカミューが口ごもった。そして己に分が悪いと見て取ったか、ふうと肩を落とすと頼りなく自分の足元を見下ろして沈黙する。その様子にマイクロトフも些か口が過ぎたかと反省するものの、こいつにはこの程度が良かろうと結論付けた。それでも結局のところは見離せはしないのだが。
「まぁなんだ。それほど言うのなら、多少は手伝って貰おうか?」
「……え? あ、うん。やるやる」
なんだい? と途端にまた目を輝かせてこくこくと頷くカミューに、マイクロトフもたまらず苦笑を誘われる。口元を歪ませながら説明を始めた。
「あのな、そろそろ偵察に行った奴らが戻ってくる。賊の大体の規模は知れているんだが、まぁ予想よりは多く見ていた方が無難だろう」
「うんうん」
「俺たちは正面から突っ込む。その時に、一呼吸置いて、おまえは反対側からでかい花火をあげてくれたら良い」
「あ、なるほど」
カミューはぽんと手を打って、早速自分の馬を呼び寄せた。
マイクロトフの打ち出したのは奇襲戦法の一種である。正面から一部隊が突撃したところで、もう反対側からも何かしらの、出来ればより大きな動きを見せた時、敵は目に見える小部隊の方にまず向かってくるものである。実際は誘導に過ぎないそれに、上手く敵が誘い込まれてくれれば、後は後方に控えていた者たちが回りこむように取り囲めば終了。
「任せてくれ。せいぜい大きな奴をお見舞いしてやろう」
そして馬に乗り上がる寸前、カミューはマイクロトフの耳元に唇を寄せて囁いた。
「上手く出来たら後で俺にご褒美をくれると嬉しいなぁ」
にやりと笑ってカミューは馬の背にさっさと身を移す。と、すかさずマイクロトフの固く握り締められた拳が空を切った。
「さっさと行かんか馬鹿者が!」
* * * * *
陽光は昼の中天を過ぎて、随分と西へ傾いている。
マイクロトフたち青騎士の潜む森もこの僅かな時間の間に、木々の成す陰の範囲が広くなり随分と薄暗くなった。辺りは静まり返っている。誰もが団長の号令を待っているのだ。
だが不意に、第一隊長がはてと首を傾げた。
「ところでマイクロトフ団長」
そそそ、と歩み寄って声を掛けるとマイクロトフが振り返る。
「なんだ」
「村の反対側へと回られたカミュー様ですが」
「うむ」
「我らの出撃の合図はどのようにしてお伝えするおつもりですか」
タイミングが肝心の作戦である。少しでも早かったり、また遅かったりすれば失敗する可能性は高い。確かマイクロトフはカミューにそうした合図の打ち合わせも何もしなかったはずではなかったか。
しかしマイクロトフは第一隊長の指摘に動じる様子もなく頷いた。
「それならば、心配することは無い」
「何故、とお聞きしても?」
「あいつならば、分かる筈だ」
「は……?」
いまいち理解し難く第一隊長は一声洩らして首を傾げた。だが次第に言葉少ない団長の言いたい事が分かったのだろう。ふむ、と顎を指先で捉えてちらりとマイクロトフを伺った。
「……して、その根拠は」
「今まで、カミューがこうした作戦で機を逃した事は一度も無い」
「さようで…」
呆気に取られつつも、それは真かと疑う第一隊長にマイクロトフは穏かに笑いかけた。
「と、いうのはまぁ冗談だがな」
「………」
「村の方に何事か動きが無い限りは、一刻後だ。今からならばもう半刻も無いか」
「何時の間にそのような取り決めをなされたのですか」
「昔からの倣いだ」
いつもそうしているものだから、いつの間にか何も言わない場合はそうするようになっているのだと言う。納得しかけた第一隊長だったが、またもハッとして眉を潜めた。
「ですが、あのカミュー様が如何に馬での移動に長けておいでとは言え、村の賊に気付かれずに僅か一刻で村の反対側まで行けるという確証はないのでは」
直線に突き進むのならば半時もかからないだろう。だがそれを回り込み、当然ながら村から見通せる街道などは利用できないから、茂みの向こう。下手をすれば林の中を駆けて行かねばならない。とすれば一刻とは少々無理があるのではなかろうか。
しかしマイクロトフはそんなことは無いと自信有り気に首を振った。
「それこそ大丈夫だろう。何しろこの辺りの地理は俺もあいつも知り尽くしているからな」
「そうなのですか?」
「あぁ、いつも厭きもせずに馬で駆け通していたから、近道なら心得ている」
「ほう」
頷いて第一隊長はふと俯いた。
己はこの目で見た事は未だ無いが、噂では赤騎士団長は草原の生まれ故に馬の扱いには事の他長けているらしく、騎士らしからぬ曲芸まがいの技までしてのけるとか。確かにかの赤騎士団長が馬にて駆ければ、誰よりも早く追随を許さぬ腕前だ。しかし、平たんな場所を駆けるのと、地表のでこぼことした林間を抜けるのとではわけが違う。しかしこのマイクロトフの口ぶりでは、なるほどカミューとはどのような地形であろうと見事に馬を走らせる事が出来るらしい。
「一度、見てみたいものですな」
「ん?」
「いえ……」
しかしそんなカミューと共に馬で駆け通したと言うマイクロトフ。いつも真直ぐな策を選るので戦場でも猛然と燃え走る火のような様しか見た事は無いが、実は奇襲の類にも充分対応できる動きも出来るのでは無いか?
そもそも青騎士団はどんな場面でも一直線で力任せのきらいがある。常々から多角的な動きも訓練せねばならないなと考えていたところだ。
次の機会があれば勧めてみよう。
密かに胸に刻む第一隊長であった。
ところがマイクロトフの言う一刻にも満たない時だった。不意に村の向こうから爆発的な火の手が上がった。
何事かと青騎士立ちは色めき立ち、一様に首を伸ばして噴き荒れる炎を見詰めた。
「団長。あれはもしかしなくとも、カミュー様の『烈火』ではありますまいか」
「……だな」
第一隊長の言葉に頷くマイクロトフの横顔は緊張を帯びており、一心に見詰める黒い瞳には炎が映り紅点が見える。
「何かあったに違いない。でなければあんな無茶などあいつがするものか」
マイクロトフは立ち上がり馬へと駆け寄りざま大音声で怒鳴る。
「行くぞ! 即刻突入する」
炎は益々勢いを増し、村のあちこちからはや黒煙がもうもうと立ち上りはじめている。そして聞こえてくる悲鳴。先ほどまでしんと静まり返っていたのが不思議なほど村は恐慌に呑み込まれていた。いつの間にか村からはバラバラと村人たちが身一つで飛び出してくる様は、強大な魔物に襲われたそれのようである。
「いったい何が……」
焦る青騎士の呟きにその顔を険しくさせ、マイクロトフは飛び乗った馬を駆って一直線に村を目指した。
紋章もまた個人の持って生まれた戦闘能力に属するものではあるが、騎士として大抵はその剣で事を済ませたがるカミューだった。今でさえ彼の『烈火』は有名だが以前は彼がそんな紋章を手に宿していると知らない者も多かったほどだ。それがあれである、よほどの事が起こったのだろう。
馬の蹄が土を蹴って伝わる振動が徐々に己の鼓動と重なっていく。そして高揚して行く闘志。
いち早く戦いに身を置いたらしいカミューの姿を探してマイクロトフは村人が逃げ惑う中へと真っ先に突入した。
* * * * *
村は炎に包まれていた。家は燃え、木々も風に煽られ火を孕みながら赤く染まっている。長閑なはずの田舎風景の続く村は、一転して戦場のそれに似た熱気に包まれた騒乱に満ちていた。
マイクロトフは片手に抜き身の剣を持ち、油断なく周囲に視線を走らせながら村の中央を走りぬけて行く。逃げ惑う村人たちはそんなマイクロトフを見て一瞬ぎょっとしたものの、その姿が彼らを守るべき騎士団の、しかも青騎士団長のそれと知って一様に安堵の表情を浮かべた。
「騎士団長様! あちらです!」
娘が一人飛び出してマイクロトフの前に立ちはだかり、真横を指差す。つられる様にそちらへ視線を転じると、何処よりも激しく炎の燃え盛る家屋を見つけた。
「賊たちは皆あの家に…!」
娘の言葉にマイクロトフは頷いて答えると、後続の騎士に目配せをする。すると一人の騎士が進み出てそんな娘を保護するように抱えた。
「教えて下さって有難うございます。あなたも早く逃げなさい」
騎士にそう促されて娘もほっとして他のものたちと同じに村の外へと足を向けた。だが、最後にまたマイクロトフを見て、訴えた。
「妹があそこにいるはずなの……!」
マイクロトフは一瞬身を固くし、それから鋭く息を吸い込んだ。
「分かった」
一言短く応えてダンスニーの柄を強く握る。そして娘の立ち去る気配を追いながら、険しい眼差しで燃え盛る家屋を睨みつけた。
一際大きい造りのその家屋は賊たちの格好の拠点となっているのだろう。さしずめ村の長の住まいだろうか。頑丈な造りなのか炎に巻かれていてもまだ全貌は確かである。と、そこへ扉を蹴破るような勢いで数人が飛び出してきた。見れば手に手に獲物を携えた物騒な男たちであった。
すかさずマイクロトフたちは駆け出してそんな彼らを取り囲むと大音声で牽制をした。
「我らはマチルダ騎士団の騎士! 大人しく従えばよし、さもなくば命無いものと思え」
高らかな騎士たちの恫喝に、だが男たちは元より抵抗する気などなかったようで、口々に「助けてくれ」と叫んで獲物を放り出すと、自ずと縛にかかってきた。
「これはいったい、何事だ」
騎士たちは威厳を保ちつつも困惑を隠せずに賊たちを捕縛していく。その中賊の一人がうわ言のように呟いた。
「悪魔だあの野郎……っ」
その時のマイクロトフの動きは誰も予測ができなかった。気が付けばそう呟いた賊の胸倉をマイクロトフが掴み締め、間近にまで顔を寄せてその黒い瞳で強く睨みつける。
「何があったのかを話せ」
そして低く発せられた声音に含まれた反しがたい威力に、賊がひくりと喉を震わせた。見上げれば強い眼差しが自分を見下ろしているのに正面からぶつかって金縛りのように固まる。
「あ……」
「答えろ、何があった」
言わねば食い殺されそうな迫力に賊は腰を抜かして閉口する。
「火の手が……。いきなり、燃えて……それで…ひ、火の向こうに悪魔が…」
悪魔…? と眉を寄せるマイクロトフの隣で第一隊長が声をひそめる。
「カミュー様でしょうか」
「分からん。だが確かめる必要がある」
言うなり胸倉を掴む手を離し男を放り出すとマイクロトフは真っ直ぐに炎の燃え盛る方へと進んで行く。
「マイクロトフ様!」
お待ち下さい! と叫ぶ声を無視して舞い上がる火の粉を手で払いながら進むマイクロトフに、第一隊長は舌打ちをして己の右手を掲げた。
「完全じゃ在りませんけどね……敵の魔手を弾き霧散せよ『守りの霧』!」
紋章から発した炎ならば或いは守ってくれるだろう。稀有なる『水の紋章』を宿し使いこなす青騎士第一隊長は、マイクロトフの身体の周囲が青白く輝いているのを認めて吐息をついた。まったく流石の第一隊長でも猪突猛進な団長には振り回されて余裕すらなくしてしまう。そして彼はやれやれと傍らに座り込んで腰を抜かしている賊を見下ろした。
「……貴様らが何をしたかは知らんが、賊は縛り首だ観念するんだな」
賊が縛り首なのは確かだが、それは頭首に限っての事だった。しかしそれを知らない賊は第一隊長の言葉にひっと息を呑んでがっくりと肩を落す。
「八つ当たりは程々になさってくださいね」
との部下の声は聞こえなかった事にして、第一隊長は己もマイクロトフの後を追った。
『守りの霧』の効力か肌を焼く熱気は火傷しそうなほどに熱いのに炎の脅威はマイクロトフの身には及ばなかった。だがそんな事には気付きもせずにマイクロトフは奥へ奥へと一心に突き進んで行った。その瞳は油断無く炎の向こう側に赤い人影を探して動いている。
絶え間なく木の爆ぜる音が聞こえ、燃え落ちた家々の骨組みが落ちる音が地面を震わせる。マイクロトフは炎の渦巻く小屋の前で立ち止まると両足を踏ん張って仁王立ちになった。
「…カミュー!」
呼べば、今にも崩れ落ちそうに赤々と炎を噴き上げる小屋の何処かで何かが動いた気がした。
「何処にいるっ! カミュー!!」
もう一度叫んだ時、目の前の小屋がどおんと大音を上げて崩れ落ちた。途端に炎の勢いが落ちてマイクロトフは一歩前へ踏み出した。流石にここまでくると熱気が目を焼く。腕で庇いながら更に進むと崩れた小屋の向こう側に人の気配がした。
「カミュー…?」
回り込んで駆け寄ると彼はいた。だが象徴的なマントも赤騎士団長の上着も無く、煤に黒ずんだ格好で片手には抜き身の剣を下げ独りぼうっと立ち尽くしている。マイクロトフが駆け寄ってもそのままの様子であった。
「どうした。何があった」
声をかけても応えは無く、肩を掴んで揺すぶってもその表情は変わらない。魂の抜けたようなその態度に、焦れたマイクロトフは反射的に拳を振り上げていた。
「確りせんか!」
ガツンとその顔を殴り飛ばすとカミューの瞳が漸くハッとして瞬いた。
「痛いよマイクロトフ…」
「返事をせん方が悪い。一体何があったんだ」
「うーん、まぁ後で詳しく話すから。ちょうど良い、マイクロトフ手伝ってくれないか」
「何をだ」
「彼女を運んでやって欲しい」
そしてカミューの振り向いた先には、彼のマントや騎士服の上着があった。いや、その下に女性の身体が―――。
「…なっ!」
「あ、大丈夫。生きているし何も酷い事はされていないんだ。寸前で『烈火』を出したから……」
気がついたら飛び出してしまっていたよ、とカミューはすまないと言って項垂れた。せっかくの作戦を台無しにしたことを詫びているのだろうか。マイクロトフはそれには答えず装備を解いて己も上着を脱ぐと意識の無い娘の方へと向かった。
「行くぞカミュー」
「うん……」
良く見れば血のついた刃先のユーライアをそのまま鞘に収めてカミューはこくりと頷いた。マイクロトフは地面に横たわる娘に己の上着も被せると一息に抱き上げた。
「お前の馬は何処だ」
「向こう…」
カミューが裏の森を指差す。
「行くぞ」
「うん」
娘を抱えてずんずんと歩くマイクロトフの後ろを、カミューは何故だかとぼとぼとついてくるのだった。
* * * * *
結局、火事騒ぎの中逃げ出そうとした賊はことごとく青騎士たちの手に落ち、村は無事とは言いがたいがひとまず解放された。気を失っていた娘も意識を取り戻して家族の元へ帰ったというし、騒ぎは終結を見た。
そして。カミューはマイクロトフに事の次第を問い詰められていた。
さあ説明しろと目前で腕を組んで糾弾してくる男にカミューは椅子に腰掛け項垂れたままぼそぼそと語り始めた。
そしてカミューが説明をするには、村の裏手に回ったは良いが聞こえてくる騒々しさの中に女性の悲鳴を聞いていてもたってもいられなくなったらしい。そしてあの小屋を発見して覗けば今しも娘が一人、賊の男たちに襲いかかられている場面で、気がついたら『烈火の紋章』で小屋に火をつけていたのだと言う。
「何しろ、賊の人数が半端じゃなくて見張りも多くて……」
咄嗟の判断で賊たちを陽動するのに火を出したらしい。そこに飛び込んでいくとカミューの姿を認めた賊が娘を人質にして脅してきたらしい。ところがそこでまた男が娘に不埒な真似をし始めたと言うのでカッと頭に血が上ったとカミューは言った。
「お前らしくも無い」
そうマイクロトフが言うとカミューは「うん、そうだね。ごめん」と詫びるものの気まずそうに視線を逸らした。その様子に不審を覚えたマイクロトフが「なんだ」と問うと「えっと」とはっきりしない事を言う。
「なんだ、言いたい事があるなら言え」
「……怒らないかい?」
ちら、と伺うような視線にマイクロトフはひとつ唸ってから渋々頷いてやった。
「分かったから言ってみろ」
「うん。あの賊に囚われていた彼女なんだけどね、綺麗な黒髪だったのを覚えているかい」
「…そうだったか?」
「そんな訳は無いって分かっているんだけど、一瞬あの黒髪がお前のように錯覚させてね」
「……ちょっと待て」
「まるでお前があいつらに襲われているみたいに思っちゃって、それでこうぷつっと」
こめかみの辺りでぱちんと指を鳴らして見せたカミューを見下ろしてマイクロトフは短く息を吸い込んだ。
「馬鹿かお前は!」
「あぁ、怒らないって言ったのに…っ!」
「俺がどうして賊になんぞ襲われるんだ! 第一どうすればあの娘と俺を見間違える!?」
そんな馬鹿げたことが理由であんな大火を出したと言うのか。作戦をふいにしたと言うのか。確かに襲われかけた娘を救ったのは褒められるべき事だが、火が収まった後に確認すると焼け跡には剣に切り付けられた傷跡のある賊のものらしき死体がごろごろ出てきたのである。娘の証言で先に賊がカミューに剣で切り掛かったらしい事が分かっているから正当防衛が適応されるが、それにしてもやり過ぎだった。
作戦通りに事がすめばもっとスマートに、あんな火事さえ勿論おこらずに事態は収拾を見たに違いなかった。マイクロトフの怒りはだから一気に頂点に達した。
「これが怒らずにいられるか! お前のおかげであの村は何軒も家が焼けてしまったんだぞ!?」
「だって……」
「だってではない! そもそもお前反省をして……―――」
「だって俺だって限界だったんだ!!」
「……は?」
突然叫んだカミューにマイクロトフは一瞬ぽかんとした。何が限界だと? するとカミューはまたがっくりと項垂れてぼそぼそと言った。
「夜な夜な我慢しているこっちの身になってくれ。夢にまで見る程なんだぞ」
「何の話だ」
「だから俺がお前を抱きたくってたまらないと言う話だよマイクロトフ」
「…………………………………………カミュー、今俺はそう言う話をしているのではない筈だが」
「そう言う話だよ。おかげで最近は黒髪を見たらおまえに見える始末でね。あのレディが賊に襲われてしまっているところなんかまさにそれで、この俺を差し置いてなに手を出してるんだとか思ったら賊に対する憎悪がメラメラと……痛あ!!」
途中でマイクロトフの拳が入ってカミューの独り言は中断された。
「あの時、少しでもお前の心配をした俺が馬鹿だった!!」
怒鳴ってマイクロトフは踵を返した。ところがさっさと出て行こうとするその腕をすかさずカミューが掴んで捕らえる。
「待てマイクロトフ。話は済んでいない」
「知るか!! 言っとくが報告書はお前が書けよ、俺はそんな馬鹿馬鹿しい顛末なぞ書き連ねる気は一切無いからな!」
「待てマイクロトフ。この際だから俺の話をちゃんと聞いていけ」
「断る!」
カミューの腕を振り払ってマイクロトフは怒鳴りつけた。
マイクロトフは本気で怒っていたのだ。あの時、本当にカミューの事が心配でならなかったと言うのにこの男はその時にそんな事を考えていたと言うのか。それに我が身を省みず女性を助けに入るなんて、この冷静な男らしからぬ行動にも驚かされた。それが蓋を開けてみればこれである。
「おまえなんぞ暫く顔も見たくない!」
「冗談だろマイクロトフ。言っとくが俺は真剣だぞ?」
「ふざけるのも大概にしろ!」
「心外だね。俺は本気なのに」
実際そう告げるカミューの瞳はいたって真剣で、それに真っ向から見つめられたマイクロトフは思わず言葉に詰まった。
「良い機会だから言って置くよマイクロトフ。俺は、良いかい。もうキスだけでは我慢できない」
瞬間的にマイクロトフの眉間に険しく皺が寄った。
「不快かい? こんな事を俺に言われるのは嫌か?」
「……ふざけるな」
マイクロトフの低く押し殺した声にカミューはひょいと片眉を持ち上げた。そしてふっと短く息をつく。
「だからふざけてなんかいないよ。ずっとずっと我慢してきたけど、ほんともう限界」
はあっと情けなくも肩を落すカミューを見下ろし、マイクロトフは拳を握り締めてぶるぶると震わせた。そしてカッと吼える。
「なんだそれは!!」
「怒鳴るなよ」
「うるさい!! これが怒鳴らずにいられるか馬鹿馬鹿しい!!!」
バンッ! とテーブルを掌で叩きつけてマイクロトフは喘いだ。それから驚いて肩を竦めるカミューをギッと睨み付けて歯軋りをした。
「俺はいったい何だ?」
「え」
「我慢する必要が何処にあるんだ!? 俺はおまえに好きだと伝えた筈だったがな、おまえはそれをどう受け取っていたんだ?」
「どう……って」
それはもうそのまま受け取らせて貰ったつもりだったが、とカミューが恐る恐る考えているとマイクロトフはふと目を伏せてまた歯を噛み締めた。
「俺はおまえとは恋人になれたと思っていたが、それは俺の思い違いだったのか」
意表をつく気弱な声音にカミューの身体がびくっと震えた。
「マイクロトフ……? ちょ、ちょっと待て……」
「それでも俺はまだおまえの事が好きになったばかりで、キスするくらいで頭がいっぱいになる。だがおまえがそれ以上を望むのを拒絶する気など少しもなかったんだ」
マイクロトフの実直な告白を、カミューはぼんやりと口を開けたまま聞いていた。
「俺は、カミューの事が好きなのだし……カミューが俺を好きだと言ってくれるのなら、俺は……俺は……―――」
マイクロトフの唇はそれ以上を紡ぐ事はなかった。何故ならその唇はぐっと噛み締められていたからだった。またその瞳も苦しげに閉じられていて、テーブルを叩いた掌は握り込まれて小さく震えていた。
「……マイクロトフ…」
カミューは慌てて立ち上がるとそんなマイクロトフに触れて良いものかどうか、両手をうろうろとさ迷わせてからぎゅっと握りこんだ。
「その……ごめん…」
詫びるしかない。
カミューとマイクロトフでは互いを思ってきた期間に長い隔たりがあるのは仕方のない事実なのだ。それでもマイクロトフは一生懸命カミューに合わせようと気遣ってくれていたのに、自分はただ焦るばかりで相手の気持ちなど思い遣っていなくて。
そんなカミューの謝罪に、だがマイクロトフは緩やかに首を振った。
「構わん……何も言わずにいた俺も悪かった」
「でもマイクロトフ」
「少しばかりすれ違っていただけだ。正しく理解しあえたら俺はそれで良い」
何処までも公正で清廉なその言葉にカミューは益々居所をなくして俯いた。だが同時にこんな男だからこそ彼のことが好きでたまらないのだと思う。
「うん、でもやっぱりごめん、マイクロトフ」
カミューはまた詫びてテーブルの上にあるマイクロトフの拳に自分の手を重ねた。
「何だか俺はずっと一人で先走ってばかりで、おまえを怒らせてばかりいる」
これからはちゃんとおまえに言葉で伝えるよ、とカミューは深く反省した。そして暫し沈黙した後で、マイクロトフの拳をぎゅっと握り込んだ。
「で、マイクロトフ」
反省はした。きっちりと深く深く反省した。
「と言うことは、これからはキスより先に進んでも構わないと言うことだな?」
「……………」
びくっとマイクロトフの肩が震えた。だがカミューは構わずに握った手に熱を込めると逃さぬとばかりにその背にもう一方の手を回す。
「我慢しなくても良いんだよな?」
念を押すように付け加えた言葉に、だがガバッと顔を上げたマイクロトフはきっぱりと返した。
「駄目だ」
「……え」
「我慢しろ」
「ちょ……っ、それさっきと言っていることが違うぞマイクロトフ!」
「うるさい。そもそも最初と話の論点が摩り替わっているではないか。あの村を火災に見舞わせた責任はきっちりと取るんだな。あぁそうだとも、反省も含めて暫くは俺にキスもしてくれるな!」
「なっ!!」
言うが早いかうろたえるカミューの手を振り払ってマイクロトフは居住まいを正すとさっさと部屋を出て行く。そしてカミューがハッと我に返った時は既に扉が閉じられた後の事で、更に告げられた言葉を理解し終えたのはマイクロトフの足音が遠く消えてしまった頃だった。
後日。
賊の出現で一時はかつての勇猛で凛々しい両団長の姿を垣間見た筈だった赤青の騎士たちは、今日も今日とて結局何も変わっていない日常を送るはめとなっているのだった。
end
believe ← nothing changed →
imitative lover
2002/06/13-2002/12/01