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= 実験工房 = 次世代?のヴァイオリンは・・
いろいろと試したくなるものです

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第1章 このページ 

動機、デザイン・制作のコンセプト 制作の動機から、基本的な考えや特徴を説明
F.シャノーのギタースタイル・ヴァイオリン シャノー(フランス・パリ)の実験例も参考に
エフ字孔の検証
プランから実行に 基本プランが確立していれば、あとはつくるだけ
特殊な巾2mmのパフリング材 経木に削り、着色から圧着まで

第2章 Next Page

内型の製作 21mm + 9mmベニヤのイタリア式
ライニングとバスバー 普通より巾が狭いリブの場合は?
パフリング 2mm巾の特殊パフリングは・・。
音響孔の形と位置関係 形、位置、空け方で、音響孔としての効果も大きく違うはず
エフ字孔とC字孔との差 従来型のエフ字孔がいいか、C字孔がいいか?
ネック・デザイン 逆スクロールのできは?

第3章 完成

ブリッジもデザイン・制作 変形なものだけに、つきなみな部品は使いたくない!
いよいよ完成

  ◇    動機、デザイン・制作のコンセプト  

  動機  

05年5月、卒業高校の美術部OB展に、ちょうどそのときつくって完成させた 新作のNo.10を出品した。

来年も、同様の展覧会を実行するというので、そこで次回には、
ひとひねりした変わったものを出品したいと考え、創ることにした。
白木状態の完成品
いままで何台もつくりつづけていて、なぜ、そういう形になっているのか? 
その形でなければならないのか?

なぜ、そうした工程でなければならないのか? なぜ、そうするのか? ・・・などなど、
製作中に、いろいろなことや疑問を考えてきた。

中には、こうあるべきだと確信できることもあるが、
反面、そうした多くの疑問を常にもち続けてきた。

それで、もし、ここはこうしたらどうか、とか、こうやったらどうなるか。

あるいは、こうした考えの方が正論だろう、というような仮説を含め、
実験的に実証したくなったことがひとつ。

それからもうひとつ、現代人であり、デザインを少々あつかう者として、
400年間、ほとんど変わらずにきたヴァイオリンのデザインを、

もし変えるとしたらどの程度変えることができるか、また、どんな形になるか?

シンプルに、新世代向きにデザインしたらどうなるかということをふくめ、制作にとりかかった。

実験や新しいデザインとはいっても、あくまで、実用として機能しなくては何もならない。

できれば、少しでも声量があり、いい音で響くようなものにしたいことはいうまでもない。

さて、ヴァイオリンの演奏に際しては、弓で弾くということから、インナー・バウツ(中央のくびれ)は不可欠。

共鳴箱としてのボディ本体も、アッパー・バウツやロー・バウツもその内容積という観点からも、あまり変えたくない。

そうした、音色や演奏上の操作性に関わる共通点以外に、
もし変えるとしたら・・・ネック頭部(スクロール彫刻)、および外形やエッジ処理しかありません。

さりとて、奇妙・奇天烈なものにする考えは毛頭ない。

新しいデザインに際して、なぜヴァイオリンのデザインが古めかしく見えるのか、
その本質を考え、その部分をよりシンプルに変えることで、

新しいものとして見られるはずであるというのが今回のコンセプトの中心。

例えば、頭部のスクロール。 これはどう見ても古めかしい唐草文様に見えなくもない。
それを、思い切って単純なものにした。

中心がふくらむスクロールを反対にして、真ん中に穴をあけ、ゆったりと丸め、外側の二条の溝も一本に省略。

外形にしても、アッパー・バウツ、ロー・バウツから、C部・コーナーに入る前に、わずかなSの字曲線になっている。

その流れも、古典的といえなくもない。 それを単純な、一方向の曲線でまとめた。

特徴的な、音響孔としてのエフ字孔もどことなく古めかしい。

いままでは、ヴァイオリン族の楽器(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)としてのエフ字孔には、
筆者は一種のこだわりをもっていたことは事実だし、重要視してきたもののひとつには変わりはない。

そのために、エフ字孔はできるだけ正しい位置に、できるだけ美しく彫るように心がけてきたのだが、
今回は、あえてそれも否定したい。

エッジ処理も、シンプルに見せるためチャンネル彫りはせず、ストレートでゆるやかに丸めることにした。

そのあたりを中心にして、まず、絵コンテを描いてデザインした。

なお、材料は全部手持ちのものでまかない、表板は北米産のホワイト・スプルース。

ただし、手割りの板だったので、若干曲がって割れているために普通の厚さがとれない、
中央部の厚さで12mm×2ほどのもの。

シンプルなアーチで、かつ、弦の張力に耐えられる曲線さえ確保できれば問題ないので、表板はこれでOK。

裏板やリブ、ネックも北米産のカーリー・メイプル。 指板やナット、サドルは前作同様の縞黒檀などの在庫品。

◇  F.シャノーのギタースタイルのヴァイオリン

1820年頃つくられたフランスはパリ、M.フランシス・シャノーの考えも、今回はとくに参照したい。


浜松市楽器博物館・所蔵楽器図録Uより

ボディはギタースタイル、そのためかテールピースもエンドピンのワイヤーを 引っかけて吊るタイプではなく、
ギター同様、響板に貼りつけた形、パフリングもギター式、
厚さといい、巾といい、出隅のコーナーにぴったり貼りつけてある。

特徴的なことといえば、音響孔がエフ字孔ではなく、
Cの字形
、ネック頭部も通常の逆で、上から下に向かって丸めてある。

この楽器については、ヘロン・アレン著『ヴァイオリン製作 今と昔 第V部』
(尾久 れも奈 訳)に以下のような記述がある。

シャノー氏の手製・ギター型ヴァイオリンと、
フェリクス・サパール博士の台形のヴァイオリンの賢明かつ科学的根拠に注意を促す。

このギター型のフィドルは、16世紀のフィドル発明以来、あらゆる国であらゆる時代にわたってつくられてきたが、
主流ではなく、重要でもないもの、・・・とも書かれている。

また、このシャノーのヴァイオリンには、ネックやテールピースが普通のヴァイオリン同様のタイプと、
上の写真のようなギター・タイプのもの2種類が実際に販売されていたこともイラスト入りで記載されている。

ただ、この楽器の欠点は、表板や裏板のエッジがリブより出ていないため、
剥がして修理することはほとんど不可能に近い。

だから、シャノーの復刻版をつくるのでなければ、この形にこだわる必要はないことにもなる。

それに、周囲・半周ぐるりと回るほどのリブ材の手持ちもないし、
実験的なものにあらためてヴィオラ用のリブ材とか、ギター用のパフ材を買うつもりもない。

また、響板に貼りつけられたテールピースについては、
昔、ギターの「弦緒止め」が剥がれてしまったことがあるだけのに、普通のタイプにする。

この楽器の中で、もっとも注目に値するのは音響孔である。

  エフ字孔の検証  

さて、ここであらためてエフ字孔を検証してみたい。

筆者の、製作仲間としてのメーラーの中には、エフ字孔のウィング(下部の袖?にあたる部分)でさえ、
高音部の振動に大きな影響を与えているはずだと主張している人もいる。

筆者は、スピーカーなどがそうであるように、音は面積の2乗倍に比例するということから考えても、
左右のウィングの面積があまりに少なすぎることから、その影響はまったくないこをと主張している。

響板全体の面積比率から見ても、ウィングにしても振動することは事実だが、
それから出る音圧はというと、ほとんど無視できるほど小さな数値だと考えている。

もともと、音響孔はボディ内で共鳴させた音を外に出すためのもの。

極端にいうと、音響物理でいう『開管構造の気柱』を形成するための穴であり、開口面積さえ、
一定のものであれば、その他の楽器に見られるように、エフ字である必要はない、とさえ考えている。

『ストラドよりグァルネリの方が男性的な音色』といわれていることでさえ、グァルネリ型のエフ字孔の方が、
ストラドのものより少し長くて太めで大きいことは衆目の認識するところである。

また、響板としての表板について、振動の伝達速度、伝達効率などを論じられることではあるが、
そうした視点から考えると、エフ字孔の上の○は、響板の中央に近い一部を横にスパッと切っているわけで、
その分、響板の振動伝達を阻害していることは明白だ。

もし、それが単純な形のCであれば、上の○はなくなるわけで、そうした観点から考えると、
シャノーの、このC型音響孔は合理的といえるのではないかとさえ思う。

シャノーの音響孔は、図録の写真で見るかぎり、彼は彼なりの考えでそうしたと思うのだが、
少しエッジに寄りすぎているように思われる。

周辺部だけを薄く削って仕上げる・・という考えからすれば、
響板は、その部分が「薄い」というより「なにもない」方が、より振動しやすくなるはずという意味では理解できる。

ヴァイオリンという楽器は、演奏者が抱えて弾くという姿勢から、そのCの字の曲線や取り方など、
位置やカーブを表板のアーチングにあわせた方が、カーブの高低差が少ないエッジ部分より、
高低差が大きくとれる位置の方が、『音を外に出す』という効果がより高まるのではないかという推測も成り立つ。

極端にいうと、C字が直線に近いゆるやかなほど、また、アーチングがゆるやかな場所ほど、
ま横から見ても音響孔としての穴は見えないということになる。

ただし、[見える=聞こえる]は、必ずしも一致するものではないことは承知している。

音程(音の波長・周波数)によっても、例えば、高音域は直進性であっても、
低音域は回り込むという性質があることも、十分、承知のこと。

そうであっても、見えないより、見える方がより効率よく響いて聞こえるはずだとも考えられる。

  ◇ プランから実行に  

そうした構想をいだいて描いたイラストが、写真・右下、新聞広告の裏に描いたスケッチ。

当初の原案では、ハイポジションが弾きやすいように、ボディの右肩部分を1/4アールの形にC字形に凹ませ、
手が指板先端までとどきやすい構造にしてある。

だが、左右のバランスを崩すことが、いちじるしく美観を損ないそうで、これは撤回、従来通り左右対称にした。

C部のくびれは、グァルネリ型のテンプレートから写し取り、ストラドより少し大きめになっている。
各バウツの巾も、ほとんどグァルネリ型のまま。

C部前後のカーブもシンプルにした分、内容積が増える結果となるので、
それを押さえるためにリブ巾の平均を28mm(普通のものは30mm)にした。

そのイラストとグァルネリのテンプレートから、全体の様子を見るために厚紙に転写、切り抜いたのが中央の白い紙。

このテンプレートでOKなら、あとは手順通りに作業をすすめるだけ。

この写真の段階では、すでに内型用、外形用のテンプレートや、内型用の12mm+9mmベニヤ、
表板も裏板も接ぎ合わせ、リブも必要な分を削ってあるし、

後述する巾の広いパフ材(中央・紙の上に何本か、黒く横たえてあるもの)の製作も終わっていて、
準備万端すっかり整った状態。

  ◇ 特殊な、巾(厚さ)2mmのパフリング材  

ここで、特記すべきことは、パフリングには通常の巾1.5mmのものを使わず、曲線をシンプルにした分、
パフリングは幅広く、2mmほどの太めにしたいと考え、それをつくったこと。

カエデの少し柔らかい部材から、0.3mmの経木を削り、
墨汁にひと晩つけて黒く着色。

それを、かるく水洗いして乾燥させたものに、
外側だけにオイル・ペイントの黒を溶剤で薄め、
薄く塗り、耐水性をもたせる。

この場合、OP塗装をしないと、パフ溝に差し込んでニカワで貼る際、外側の黒い墨汁がニカワの水分でにじみ出し、裏板や表板を見苦しく汚してしまうからだ。

白っぽく、柔らかで曲げやすい木も、
リブ同様の1.5mmの厚さに必要な分だけ削っておく。
それを、特殊ボンド(本業の内装屋が使う、ビニル壁紙用のエチレン重合タイプの強力ボンド)をムラなく塗り、
ベニヤに挟んで均等にクランプして圧着。

ニカワでの接着はダメで、それは、濡らしてから、
熱して曲げるので剥がれてしまうからだ。 ほぼ数時間で、実用強度になるので、それを約3mm巾ほどにスライスし、完成したのが下の写真。



下の短いものが通常のパフ材、上が今回つくった巾2mmの手製パフ材
もちろん、巾が広い分、必要な曲線にきれいに曲げられるかどうかはテスト済み。

つまり、車の内輪差とか外輪差ではないが、曲線部の外側の黒と、内側の黒とが巾が広い分、
その長さの差にかかわりなくきれいに曲げることができるかどうか、確信がなかったからだ。



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