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首が元から取れたカールヘフナーの修復 T 09.2.25 | HOME |
二月の半ばのこと、三重のNさんからアクセスがあり、
首が元から取れてしまったカールヘフナーを見てもらいたいという。
いつもの通り、プロではなく趣味家であることをお断りしてご了承いただき、修理することをお受けした。
最初のメールは「ネックがボタンからとれた」と書かれていました。 それは、写真がないのではっきりとは分かりませんが、多分、いちばん弱いパフリングからだろうとは予想していました。 写真をお送りいただき、その予想は的中、正に、パフリングで切れていました。 以下の、三枚の写真はオーナーのNさんからの写真そのもの。 |
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本器の裏板は一枚物、さすが一流メーカー品であり、しかも量産ではなく手工品ということで入手されたものというだけあって、気品と格調がある。 | |
全体の状態も良いように見られることから、「どのような修復方法で・・・」との質問に対し、できれば、蓋を空けないで固定したい、とお答えしました。 できれば、この場所は非常に加重のかかる場所、それだけに『ニカワでの接着だけではなく、ネックブロックからのビス止めで補強したい考えもある』、ということをお伝えしました。 蓋をあければ、どうしてもリブとの接点のニスを少し落としてしまう羽目になったり、あとからいくらレタッチしても、それは事故車を査定する査定員ならひと目で分かるように、専門家が見れば一目瞭然。 できればきれいに、しかもしっかりと補修したいと考えていました。 |
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ネックの根元は、弦の張力を一手に引き受ける場所 ◇ ネックがネック それだけに、後日、故障ないようにしっかりと・・・。 | |
左の図は、ネックをバールに見立て、木に打ってある釘を抜く動作の、その力関係を表した模式図です。 表板の付け根になる角のところ、図ではバールと木との接点が、テコの応用(力学)から見ると支点になります。 手で引き上げるところが弦の張力が永久加重としてかかる「力点」。 抜こうとする釘の部分が「作用点」になります。 弦は駒の方向に向かって斜めに引かれますが、実際の釘抜きでは、支点を半径にした円運動のように上に向かって引きますね。 ここで、ボタンが切れていなければ釘は木と一体となっていますから、容易に抜けるものではありません。 しかし、ボタンが切れているということは、この図の釘が根元から切れているわけですから、今度は外そうと思えば、簡単に取れ、力はまったくいりません。 ここで、バールをただニカワで貼っただけと同じネックと仮定しましょう。すると、所定の条件(湿度と熱)がそろい、もし、少しでもニカワがゆるんでしまったら、もう簡単にネックがとれてしまう結果となります。 そのためにも、ここの釘に相当する、なにか補強する手段が必要になるわけです。 |
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つぎの二枚のレントゲン写真は、サウス・ダコタ大の博物館に所蔵されている アンドレア・グァルネリのヴィオラのものを拝借しました。 |
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標準の形をしたネックブロックから、ネックに向かって 釘3本で取り付けてあります。(上から見たもの) なお、同様の方法をストラドやクロッツ、 それに、彼の孫のグァルネリも使ったといわれています。 |
こちらは、その横から見た写真。 黄色の矢印のところには、多分、ネック角度を調整をしたためのスペーサーでしょうか、細長い、三角の余分な部材が挿入されていることが分かります。 そのことからも、釘がオリジナルのものか、 その後の修復師が現代風にアレンジした際にやったものか、 その詳細は記されていません。 |
本体が送られてくるまで、約一週間ほどありましたので、その間、いちばん的確な方法を考え、ひとつの結論に達しました。 それは、よくテレビでもやっているように、有能な外科医が特殊なカテーテルをつくり、開腹しないで手術をしたり、大腿部からカテーテルを差し込んで、遠く離れた心筋梗塞の心臓を手術するようなシーン。 それから比べたら、こちらはただの木の箱のヴァイオリン、さいわいにエンドピンのところには直径数ミリの穴も空いています。 その穴を利用すれば、ネックブロックとネックのビス止めができる、と考えたのです。 そのためには、ガイドになるパイプと、柄の長〜いドライバーさえあれば、もう簡単。 その目的にぴったりのものが100円ショップにありました。 伸縮式の、園芸用支柱です。そのために、グリンの塩ビ皮膜になっていて、むしろ、その方が木にもやさしいですね。 じつは、直径を確かめるために、ジャンクのエンドピンを一本、ポケットに持参したので、パイプの直径は間違いありません。 |
この写真は、別のドイツ製のもので撮影しています。 実行する前の、イメージ・トレーニングにもなります。 |
ブロック側だけ、塩ビの皮膜を切り取り、このようにブロックに簡単に刺せるよう、ヤスリで削って尖らせてあります。 まぁ、ダニに食われたようなキズがふたつつきますが、それは、魂柱にセッターを差すより、もっと見えない場所、その程度はご勘弁いただくことに・・・。 |
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中に差し込むドライバーは、ほどよい太さの鉄の棒でつくります。 これには、壊れたブラインドの上のチャンネル・ボックスに使われているコントロール・シャフトを流用しました。 適当な長さにカットし、先端部だけ、ヤスリで+ドライバーの先端同様の形に削ります。 そして、柄の部分の鉄をトーチランプで真っ赤に焼き、少し叩いて平らにし、柄にグッと差し込みます。 少し平らにするのは、回したときに空回りさせないため。 |
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こんな具合です。 ビスを差し込んでみて、落ちない程度に、しっかり勘合させることが大切です。 そうでないと、しっかりねじ込むことができません。 |
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カールヘフナーですから、ほぼ標準的なドイツ製の蓋を空けたもののブロックにあてがい、必要なビスを決めます。 写真の木ビスは、3×25mmの平皿・全ネジを使いました。 半分しかネジを切ってないものより、ネジ全体で締め付け、固定しますから、より丈夫なことはいうまでもありません。 現在、ネック側に少ししか入っていないように見えますが、平皿のテーパーがついている分、このネジでもまだまだねじ込むことができるし、ただの釘のことから比べたら、たとえこれくらいでも十分耐えるでしょう。 まず、ネック・ブロックの、ホゾ穴の定位置(ボタンから1cmほどの高さ)に、ドリルで穴を空けます。 テコの理屈からすると、いちばん下の方が理想ですが、ボタンの直径は2cm強。 |
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それで、下から1センチだと、ビスの周囲には、ほぼ等間隔で余裕ができます。 つまり、いちばん丈夫だろうと判断してのことです。 ドリルビットは、いろいろと試しましたが、2.5mmを使いました。 相手が、鉄やアルミなら、2.7〜2.8でいいでしょうが、スプルース(ブロック)とカエデ材(ネック)の木ですから、ここは、2.5mmパイがぴったり。 そのブロックの穴から、尻の穴に向け、細いガイド・スチール線(とはいっても、これも園芸の支柱)を差し込みます。 ただし、右側の先端だけは「揉みキリ」の先と同様、鋭角な四角錐に削ってあります。 |
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そこに、ネックを定位置にあてがい、そのキリで、ネック側にも少しだけ穴の位置の印をつけておきます。 そして、ネックにも、ブロック同様、ドリルで穴をもんでおきます。 カエデ = 堅木 = もろい ですから、無理に木ビスの体積を繰り込ませると、割れてしまう恐れが出るからです。 とはいっても、あまり深く揉んでは危険です。ドリルの穴が、向こう側に突き抜けてしまいますからね。 そんなときには、ビットの先に、必要な深さの目安になるよう、マジックインクで印を付けておきます。 そのビス穴に、さらに、一旦、ビスを揉み込んで、様子を見たところです。 しっかりと、固すぎず、柔らかすぎないかどうかの確認作業です。 |
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ここまで準備が整うと、あとはネックの接着とビス止めするだけ。 木ビスをしつかりねじ込み、もう一度、角度をチェック、ですが・・・、 それが、一発でOK! この道具、じつに簡単、楽勝! すぐれもののひとつになりました。 (次ページにつづく) |
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