第102回原宿句会
平成9年12月1日 新橋新幸橋ビル

   
兼題 寒潮 枇杷の花 日記買ふ
席題 ちり鍋


  東人
ちり鍋や灯に透かし見る河豚の骨
起重機の立ちしまま錆び枇杷の花
独酌といふにはあらず鰤を焼く
傍流といへども流れ日記買ふ
風落ちて夕日を刻む寒の潮

  利孟
鱈ちりの罅ぜ深海の香をこぼす
箔押しの名前表紙に新日記
寒潮や崖にせり出す停留所
押し叩きして落ち着かせ大根掛け
葉の照りに似たる明るさ枇杷の花

  白美
寒潮や志士を籠めたるにしん蔵
七子得し母の独り居枇杷の花
ちり鍋のたぎりて話にぎはへり
余白には幸せ埋まる日記買ふ
柿熟し神居る森の昏さかな

  千恵子
寒潮や身じろぎもせず鵜は岩に
教会の裏に捨て猫枇杷の花
櫛の目の一つ欠けをり十二月
鱈ちりや元花街の小料理屋
日記買ひ啄木のこと思ふ日よ

  健一
日記買ふ隅に日毎の知恵袋
青深さ流す力や寒の潮
木枯や肌に香りの桧風呂
蜜蜂の羽音に触るる枇杷の花
ちり鍋の最後に野菜煮立ちをり

  箏円
ちり鍋や常より多き箸の数
我も誰も等しき厚み日記買ふ
色種をむざとまとへり富士の裾
行き止り板塀朽ちて枇杷の花
空重く降るもの拒む冬の潮

  希覯子
日記書くことも生き甲斐日記買ふ
花枇杷や藪の中なる無縁仏
歩行者に天国失せし小春かな
河豚ちりや上戸の中に下戸一人
寒潮や老後も長き移民船

  隆
一族の散りたる跡や枇杷の花
鎌倉へ岩膚寒き峠越え
鍵つきの日記を買ひし娘かな
ちり鍋や梁に流るる滴繁し
寒潮や破れ帽子の南下軍

  正
牡蠣食ふやモンマルトルの街明かり
河豚ちりのネオンの点る博多の夜
フランスに夢を託して日記買ふ
枇杷咲くやボージョレヌーボー樽の中
寒潮や人影淡き港町

  美子
形から入ると嗤ひて日記買ふ
鮭ヤナ場見終へて鮭は買はぬなり
装はず着のみ着のまま枇杷の花
寒潮や戸板に乗せし亡友ありき
惚けたり収穫終へし林檎の木

  笙
手締めにも気合ひそれぞれ酉の市
寒潮のうねりに隣る二人酒
飲み干して語れぬ恋や枇杷の花
山里におが燃す匂ひ枯すすき
杣道の角に標の秋桜

  武甲
激動の二文字の踊る師走かな
ちり鍋やサッカー談義の声弾む
寒潮や今亡き国の難破船
参道の化粧直しや枇杷の花
枇杷の花父の日記を盗み読む