第16回原宿句会
平成3年12月11日

   
兼題 年の夜 実南天 嫁が君
席題 鯛焼き


   東 人
きゃうだいの全部揃はぬ嫁が君
年の夜や私印で済ます確認書
鯛焼の尾鰭ののこる試食皿
色づきて軍馬の影や実南天

  利 孟
高張の「献燈」の文字歳の夜
タオル干す宿の手摺や実南天
鯛焼や蝦蟇口探る女学生
嫁が君中元熨斗のウヰスキー

  希覯子
禪堂へ飛石傳ひ実南天
鯛焼の子持の腹を愛しけり
年の夜や参道灯り篝り燃ゆ
馬駈けて本堂が馬場嫁が君

  千恵子
年の夜人それぞれの顔となり
年の夜夫居場所を奪われて
南天の彩のみの狭庭かな
嫁が君ゐて懐しさ母の家

  京 子
家うちの気は凛として歳の夜
木馬漕ぐ三つ子の手なる大鯛焼
末枯れゆく庭に紅さす実南天
夕ざりの陽にひえびえと実南天


  美 子
手の首の輪ゴムを外す年の夜
鯛焼を買ふ少年の脚長し
天水の桶に水張る年の夜
酒臭き下水にゐたり嫁が君

  内 人
動かざる阿像の前の嫁が君
鯛焼を反す翁の指太し
年の夜や馴染みし服の皺伸ばす
竹売りのやや遠ざかる実南天

  白 美
肩揚げの糸引き抜きて年の夜
年の夜や煮鍋廚にひしめきぬ
赤飯の折より零る実南天
嫁が君母の隠した米に居り

  千 尋
鐘を待つ耳朶冷たかり年の夜
帰社を待つ顔を数えて鯛焼屋
硬き葉もぬくもりおりし実南天
闇の闇嫁が君招ぶ欄間かな

  武 甲
不夜城の大社となれり年の夜
南天の実の紅の飾り鉢
湯に入りて鐘冴えわたる年の夜

  明 義
歳の夜に話華やぐ妻の実家
鯛焼やこぼれるあんこに指熱し
南天の盗人誰ぞ椋の声
年の夜や家路をたどる吾一人

  健 次
着飾りし御新造脅し嫁ヶ君
子供らのはしゃぎ鎮り年の夜や
雀群れ南天の実のありか知る

  香 里
実南天かんざし代わりに髪にさす
嫁ぎ先あわただしさに年の夜
駅前の鯛焼買って暖まる
湯につかりさっぱり迎える年の夜

  重 孝
年の夜に踰年告げしか鐘の音
髪乱し手鏡裏に実南天
年の夜や侘しき寺にも人大勢
鯛焼の尻尾ちぎりし左右の手