兼題 年の夜 実南天 嫁が君 席題 鯛焼き |
東 人 きゃうだいの全部揃はぬ嫁が君 年の夜や私印で済ます確認書 鯛焼の尾鰭ののこる試食皿 色づきて軍馬の影や実南天 利 孟 高張の「献燈」の文字歳の夜 タオル干す宿の手摺や実南天 鯛焼や蝦蟇口探る女学生 嫁が君中元熨斗のウヰスキー 希覯子 禪堂へ飛石傳ひ実南天 鯛焼の子持の腹を愛しけり 年の夜や参道灯り篝り燃ゆ 馬駈けて本堂が馬場嫁が君 千恵子 年の夜人それぞれの顔となり 年の夜夫居場所を奪われて 南天の彩のみの狭庭かな 嫁が君ゐて懐しさ母の家 京 子 家うちの気は凛として歳の夜 木馬漕ぐ三つ子の手なる大鯛焼 末枯れゆく庭に紅さす実南天 夕ざりの陽にひえびえと実南天 |
美 子 手の首の輪ゴムを外す年の夜 鯛焼を買ふ少年の脚長し 天水の桶に水張る年の夜 酒臭き下水にゐたり嫁が君 内 人 動かざる阿像の前の嫁が君 鯛焼を反す翁の指太し 年の夜や馴染みし服の皺伸ばす 竹売りのやや遠ざかる実南天 白 美 肩揚げの糸引き抜きて年の夜 年の夜や煮鍋廚にひしめきぬ 赤飯の折より零る実南天 嫁が君母の隠した米に居り 千 尋 鐘を待つ耳朶冷たかり年の夜 帰社を待つ顔を数えて鯛焼屋 硬き葉もぬくもりおりし実南天 闇の闇嫁が君招ぶ欄間かな 武 甲 不夜城の大社となれり年の夜 南天の実の紅の飾り鉢 湯に入りて鐘冴えわたる年の夜 |
明 義 歳の夜に話華やぐ妻の実家 鯛焼やこぼれるあんこに指熱し 南天の盗人誰ぞ椋の声 年の夜や家路をたどる吾一人 健 次 着飾りし御新造脅し嫁ヶ君 子供らのはしゃぎ鎮り年の夜や 雀群れ南天の実のありか知る 香 里 実南天かんざし代わりに髪にさす 嫁ぎ先あわただしさに年の夜 駅前の鯛焼買って暖まる 湯につかりさっぱり迎える年の夜 重 孝 年の夜に踰年告げしか鐘の音 髪乱し手鏡裏に実南天 年の夜や侘しき寺にも人大勢 鯛焼の尻尾ちぎりし左右の手 |