第17回原宿句会
平成4年1月21日

   
兼題 七種 小正月 雪嶺
席題 懐手


  東 人
七種や茹でて杯ほどの嵩
雪嶺や職員室の遠眼鏡
粥腹の椅子深くゐる小正月
生国の一盞を賞め懐手

  千恵子
懐手腑の辺の温み盗みけり
雪山に抱かれて村は恙無し
谺返すときも動かず雪の山
小正月炉辺の女の独り言

  白 美
猫を抱き餅かびこそぐ小正月
雪嶺や弓ひき絞る朝稽古
七草の粥ふつふつと幼き日
駅頭で頬切る風や懐手

  千 尋
繰り言も齢の数あり女正月
万葉の佳人近しく七草粥
角を忌む義母の煮〆る丸大根
雨ポツリ見上げてかはす懐手

  京 子
策も無しくるみ揉みつつ懐手
鳥の尾も長き影曵く小正月
豆炊いて姉待つ午後や小正月
七草をのせてままごと草の盆

  内 人
蟇口の軽きを量る懐手
小正月明り障子に猫眠る
青洟の童も見ゆるや七草篭
平成も四年となりぬなずな粥

  健 次
手拭も懐手にし露天風呂
雪の山みっつみっつの足の跡
客もなくひとりうたた寝小正月
渓流の音のみ残し雪の山

  玄 髪
舟絶えて湖面に鮮や冬の山
痛飲を癒す七種粥苦し
湯の町の客引き避ける懐手
単身の衾冷え冷え小正月

  利 孟
飴色の般若の根付け懐手
刻み菜に鍋の鎮まり薺粥
小走りに売る釜飯や雪の嶺
竹筒の赤き丸箸小正月

  希覯子
ポストまでサンダル履きの懐手
遠山雪鏡に在りて髪を梳く
着こなしてサリーの妻や小正月
廃れゆくものに七種囃しかな

  重 孝
短めの袖隠しけり懐手
小正月猪口を代わりの茶碗酒
星満天七草粥に舌つゞみ
雪山に亡父の言葉今一度

  香 里
酔ひし間に日が暮れてゆく女正月
静けさに身が引き締まる冬の山
太りし身悔やんで笑う女正月
裏通り急いで帰る懐手

  武 甲
アルタ前晴れ着行き交ふ小正月
若菜摘む水面突き刺す朝日かな
遠方の雪嶺燃ゆる摩天楼