第18回原宿句会
平成4年2月11日 川越吟行・川越市福祉センター

   
東照宮・喜多院・時の鐘・菓子屋横町
        蔵造りの町並み資料館など
 川越に永くお住まいの木村麗水氏のご案内


  東 人
羅漢にも歯の生えている寒さかな
春立つや蔵の二階の鉄格子
蔀戸の鉤の搖れ合ふ春の風
漢方の薬袋や冴返る
紅梅や車箪笥のある座敷
歌塚の碑裏の凹み猫の恋
春寒や春日局の化粧の間

  白 木(橋本)
シヤム猫の汚れて春のきざしかな
春うらら聞き逃したる時の鐘
風光る道まっすぐな通りやんせ
媼より飴玉を買ふ山笑ふ
白梅のかざす碑文字の不の一字
料峭の白猫の尾の立てられし
小走りの菓子屋横町風光る

  利 孟
落ち易き羅漢の首や二月尽
庫裡の垣崩れしままや梅ふゝむ
口上に動く香具師の手冬日かな
春燈や纏の垂れの裏紅し
恋猫を捜す貼紙蔵の町
福神の集印帳や冬木立
霜柱拝観庭の土浮けり

  内 人
冬日影梁黒々と二番蔵
薄氷や緑青伽藍護摩修行
間口三間蔵隅の夫婦雛
枯梅に捨神籤咲く随身門
  川越の本丸御殿雪残る
奉納の絵馬を抱えて女坂
喜多院の井桁の橋に寒椿

  希 覯 子
余寒なほ化粧の間にも船箪笥
葉牡丹のジグザク迷路円なせる
犬ふぐり川越城の七不思議
口ずさむ童うたの碑下萌ゆる
春浅き五百羅漢の五百態
酒を酌む羅漢もありぬ建国日
碑に不染とありぬ古梅咲く

  ま こ と(湯原亮)
甲冑ひとつ将軍産屋ただ寒し
丁稚芋ひさぎ小僧のちゃんちゃんこ
通りやんせ童謡小道梅日和
鼻毛欲り片膝羅漢冬ぬくし
街角は小江戸颪の空っ風
冬ざるゝ石垣積の無縁墓
朽堂の桁隙間風自由無碍

  麗 水
料峭や老いて小江戸の案内など
路地に来て日の丸にあふ建国日
春塵や富士見櫓に富士を見ず
悴かみつ見れば羅漢の杯大き
通りやんせの細道盡きて梅の宮
五百羅漢の父似の顔に余寒風
家光の乾びし湯殿余寒風

  秀 峰(藤本)
蔵朽ちて土の露はに冴返る
亀鳴くや小江戸芋菓子つまみ食ひ
福相の耳にささやく冬うらら
耳うちは内緒の羅漢冬椿
東風吹いて小江戸川越そぞろゆく
浅春のかすめてゆきし時の鐘
建国日の旗疎らや蔵の町

  白 美
不義の男が不染と書きてはこべ萌ゆ
白梅や笑止笑止の羅漢殿
春泥や藝者の札あり六地蔵
冬薔薇石碑となりぬ閻魔堂
地鎮祭幣の行く手に菠薐草
囀や閼伽棚の水干涸らびぬ
草芳し欄干に布靴干しぬ

  浄
寒梅の根元にわづか残り雪
春浅し寒さ泌みいる化粧の間
通りやんせ梅の香續く表参道
洟すすり短冊片手に万歩計
楠の大樹遺りし川越城
大黒天寒風に淋しき紅葉の実
何思う羅漢盃汲み交す

川越吟行番外句会
 
池袋にて 袋回し
  「鉤」東人   「鐘楼」利孟   「ポトス」白美
  「ソ連邦」希覯子   「メニュー」白木


  東  人
春めくや赤銅鯛の自在鉤
四階に鐘楼を積み春霞
ポトスの葉やや折れやすく二月かな   
啓蟄や口に馴染みしソ連邦
春風の小江戸に芋のメニューかな

  利  孟
葛湯売る店の床几や鉤の辻
鐘楼の八角の穴冬日かな
春の宵ごまふの入りしポトスかな
春隣新しき旗ソ連邦
お雑煮のメニューの文字の右下り

  白  美
春雷や鮪あやつる鉤鋭利
鐘楼や別れゆく日の春の湖
残り雪湯殿のポトスつるのびて
春寒や嘉子選びしソ連邦
春の夢メニューを見つめうつむく日   

  希 覯 子
鮟鱇の下顎勁し鈎の穴
鐘楼に猫の逢曵ありにけり
春の灯を返へすポトスの斑入りかな   
ソ連邦オロシヤとなりて鶴帰る
ショウウィンドー雛のメニューしつらへて

  白  木
春燈男を吊るす鉤垂らし
鐘楼の犬の尿のおぼろかな
ポトス受く幸不幸春烟
宗匠の好物のあるソ連邦
春うららメニューのうらに書く台詞