東人 身に沁むや嘘で固めし出土跡 求人の委細面談秋深し 死刑囚の本はよく売れ文化の日 毒舌の舌は真つ白鳥兜 一歩ごと軋む木道残る虫 千恵子 忘れたる頃の返書や残る虫 胸に買ふ罵詈雑言や鳥兜 耳てふは受身の器官秋深む 身に入むや無人市場に錢の箱 裂けてなほ実をこぼさざる石榴かな 白美 身に沁むや桃色似合ふ年となり クリムトの女寝そべる黄葉かな 語り継ぐ落人話鳥兜 出稽古の遅き仕舞や冬の虫 掻く撥の音色重たき秋の暮 武甲 独り居の母の強がり虫細る 雨樋の無き家並みや羊雲 秋深し長文多きEメール 身に入むや喪中を記す住所録 公判で知る真実や烏頭 |
希覯子 身に入むや嬰を背にして襁褓干す 仮名書きの蝦夷の地名や烏頭 野菜売る学園祭や帰り花 夜は無人浄水場に残る虫 門跡寺閉門早き秋の暮 筝円 とりかぶと夜半に鴉の低き声 のこる蟲雨曝しなる古書の束 身に沁むや呪文のごとき風を聞き 無花果や軒深くして父祖の家 秋深し備後訛りの老女将 翠月 三味を弾く童真顔の里祭 残る虫雄の悲哀を語る土間 花紫紺底に殺意の鳥兜 深秋の色もの多き野菜市 電灯をつけて身に沁む一人部屋 正 秋深し樽積み上がるワイン蔵 毒舌の世に憚るや鳥兜 集ふれば病気談義や暮の秋 身に入むや妻には告げぬ恋の傷 老いてなほ恋囁くや残る虫 |
和博 残る虫厠へ父を支へゆく 天高しクレーン二つが伸びをする 身に入むや一人厨に洗ひ物 秋深し石垣小路に三味の音 烏頭雨滴に揺らぎ沢の道 美穂子 小さき嘘つきて手折りぬ鳥兜 人絶えし午後のコートに一葉落つ 虫嗄るや迷ひて記す旧字体 墓どれも無口の面秋深し 全うす母の命や蔦紅葉 |